FilmMaker Ishikawa Shingo

「Hairs」「Food 2.0」「スティグマ-STIGMA-」「裸で汁を出すだけの簡単なお仕事です。」「ラジオスターの奇跡」「蘇りの恋」「カササギの食卓」「出発の時間」などの映画監督、石川真吾のブログです。

ナイフ初心者がオピネルのナイフを購入した

お題「ちょっとした贅沢」

携帯用のナイフが欲しくなって、隊長に相談した。

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隊長とは誰か。隊長の世を忍ぶ仮の姿はカメラマンであるが、本職は登山家である。嘘である。本職はカメラマン(撮影部)でぼくとは登山仲間である。昨年は一緒に富士登山をした。隊長は仕事で稼いだギャラをカッコいいアウトドアギアにつぎ込みまくる独身貴族である。羨ましい。G-SHOCKなんて30個持っているとか言っていた。趣味には金を惜しまない男はカッコいい、と思う。

 

山などのアウトドアでめしを食うのにどうしてもナイフは必要だ。インスタント品ばかりを食うわけにもいかない。生鮮食品はだいたいカットする必要がある。しかし少しでも荷物を軽くしたいアウトドアフィールドで、包丁を剥き身で持ち歩くわけにはいかない。なんせかさばるし。そこで隊長はオピネルというメーカーを薦めてくれた。コスパ重視ならオピネルであると。

 

(オピネル) OPINEL カーボン フォールディングナイフ #9

(オピネル) OPINEL カーボン フォールディングナイフ #9

 

 

オピネル(OPINEL)はフランスのアウトドアナイフメーカー。

opinel.jp

 

調理具屋でもあるらしいのでぼくのニーズにはぴったりだ。オピネルの9番は2000円前後でコスパも良いしよく切れるド定番なのだそうだ。AMAZONの最安値は¥1,987。おお、思っていたより安い。ナイフってなんとなく一万円超えそうなイメージだった。

 

どんなアウトドア用品店でも扱っているとのことだ。じゃあ行きつけの新宿のエルブレスで買おうと思っていたが、その前にモンベルストア新宿に寄った。モンベルストア渋谷には昨年クリスマスに行ってメリノウールを買った。その話はまた別の日に。ぼくの移動圏内だと新宿がありがたいので新宿モンベルストアも一度行ってみたかったのだ。登山リュックとかをなんとなく見てまわっていたら、ナイフコーナーが。そしたらモンベルストアでもオピネルを取り扱っていた。

 

持たせてもらったら、9番が手になじんだ。購入。少しでも安いのがよかったのでカーボンを買ったのだが、隊長いわく

 

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オピネルはカーボンとステンレスがあってカーボンは安いけど錆びやすい。メンテしないのならちょっと高いけどステンレスをすすめる。隊長のはカーボンなので少し錆びてる。

 ま、ぼくはナイフ初心者なので最安値のカーボンでいいです。未体験のものは最安値から入るに限る。

 

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ベーコン切ってみたけどほんとによく切れる。

チキンも切り刻めた。

これでアウトドアでいろんな肉やら野菜やらを切り刻んじゃうぞ。

これはよい買い物をした。

 

AMAZONのレビューを読むとブレードを出すのが硬い、とのことだったがそんなことはなく非常にスムースに刃の出し入れができた。

 

ただし、刃渡りが8センチを越えているので街中での銃刀法違反と職質には注意が必要のようだ。

detail.chiebukuro.yahoo.co.jp

 

 

これはちょっとだけ高いステンレススチールモデル。

(オピネル) OPINEL ステンレススチール ナイフ ♯9

(オピネル) OPINEL ステンレススチール ナイフ ♯9

 

 

 よし、これで肉切って焼いちゃうぞ。うへへ。

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初登りは文珠山(365m)

f:id:dptz:20160103131035j:plainお題「わたしの地元」

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登山が趣味である。月に1回くらい無性に山に行きたくなる。せわしない日常生活から抜け出して自然のなかに飛び込んで汗をかくとだいたいのストレスは吹っ飛ぶ。が、いちばんの魅力は山の上で食べる食事である。地上の3倍は旨くなる。

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というわけでご近所の霊峰、文珠山(365m)に初登りに行ってきた。2年前もたしかここを初登りにしていたような・・・。今回は甥っ子(7)と母と一緒に行った。頂上からの眺めは良いし、登りやすいし、トイレもあるし、駐車場には水洗い場があってシューズの泥を落とすためのブラシまである至れり尽くせりな登山コースである。とうぜん、大人気だ。駐車場はすぐ埋まる。

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山頂で飲むコーヒーはたとえインスタントでも至福の時間だ。我々はコーヒーという熱い液体をただ飲んでいるだけではないのだ。周囲の空気、環境、いっしょに飲む人、気温、太陽光、すべてを飲んでいるのだ。

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 この至福の時間のために好日山荘でアウトドアフード用品を揃えた。自分へのお年玉である。 

 バーナーは登山用の丸形スライム状のガス缶を使うタイプ(圧縮されて液体になった液化石油ガスが入っている)の「ガスカートリッジ」(通称OD缶・アウトドア用ボンベ)というものが主流なのだが、円柱型の「カセットボンベ」(通称CB缶)の方が安価で入手性も良いかなと思ったのでイワタニ製の「カセットガスジュニアバーナー」にした。カセットボンベの中身はLPG(液化ブタン)である。家庭で鍋とかによく使われるあれである。3本¥198とかで買える。実際使ってみたら火力も強いしコンパクトになるしケースも付いている。これはありがたい。イワタニは家庭用のカセットボンベを国内で初めて発売した会社のようだ。阪神大震災の際にカセットガスの規格の統一化も図られたようで、各社互換があるようだ。登山用の「ガスカートリッジ」には互換性はないようだ。ガスカートリッジとバーナーは同メーカーのもので揃えろ、とどこのブランドのサイトを見ても書いてある。他メーカーでも使える組み合わせもあるんだろうが推奨はされてないのだろう。ガスカートリッジの最安値は371円(110g)。カセットボンベは92円(250g)。コスパ良し。ちょいとかさばるのが難点か。

 

スノーピーク(snow peak) チタンシングルマグ 450 MG-043R

スノーピーク(snow peak) チタンシングルマグ 450 MG-043R

 

 マグはスノーピーク。保温性に優れたダブルは直火にかけられないのでチタンシングルに。

 

PRIMUS(プリムス) イージークック・ソロセットS P-CK-K102【日本正規品】

PRIMUS(プリムス) イージークック・ソロセットS P-CK-K102【日本正規品】

 

クッカーもスノーピークにしようと思っていたが、高価なのと、持ち手にゴムが付いていて熱くなっても持ちやすそうなスウェーデンのPRIMUSにした。スノーピークのはハンドルの遊びがどうも気になった。PRIMUSのこれは価格も手頃。

 

スノーピーク(snow peak) チタン先割れスプーン SCT-004

スノーピーク(snow peak) チタン先割れスプーン SCT-004

 

スプーン兼フォーク。

 

 

エバニュー(EVERNEW) 2ヶ入玉子ケース EBY231

エバニュー(EVERNEW) 2ヶ入玉子ケース EBY231

 

 卵ケース。隠れたロングセラーらしい。このケースのまま湯に入れてゆで卵をつくれる。

 これらはすべてスタッキングして収納可能。

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アウトドアグッズを揃えるのは楽しいなあ。しかし法外に高いものもある。たとえば折り畳める座布団は100円ショップのやつで充分だったりする。今年もいろんな山に登りたい。富士山でコーヒーが飲みたい。

2016年の年末年始

今週のお題「年末年始の風景」 

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紅白歌合戦ガキの使いザッピングしながら年を越した。福井では長く雨が降り続いていた。行く年来る年で永平寺が映った。兄貴に明けましておめでとうと言った後でほろよい気分のなか外に出た。雨は止んでいた。満天の星が出迎えた。月明かりで応善寺に向かい、鐘つきをした。ボオーンという響きが近所を包んだ。手を合わせてお詣りをした。

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近所の春日神社で初詣。神仏両方やっとく。春日神社は参拝客向けにお神酒とぜんざいをくばってくれる。旨し。

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起床後、初映画。スティーブン・スピルバーグの『未知との遭遇』をBlu-rayで鑑賞する。町山さんの映画評で内容を知った気になっていたがじつは初見であった。SFというよりはミステリーだという印象。スピルバーグの映画はだいたい「なにかに取り憑かれた男」が主人公である。デビュー作『激突』、サメ退治に命をかける『ジョーズ』、宇宙人の侵略から家族を守る『宇宙戦争』、奴隷解放を使命と感じる『リンカーン』。『未知との遭遇』はUFOを目撃してしまったロイが家庭も仕事も顧みずにUFOの謎に取り憑かれてしまう。夢のある物語というよりは一種の狂気を描いている。ポテトを山の形に盛る。家族が止めるのも聞かず部屋いっぱいの山の模型を作ってしまう。ロイとともにUFOを目撃した主婦もついつい山の絵を描いてしまう。テレビでその山のことが報道される。その山とは毒ガスが漏れて立ち入り禁止になっているデビルズ・タワーであった。ロイ以外にもデビルズ・タワーに惹かれてやってきた人間も多数いる。この辺の展開はユング集合的無意識を想起させて非常に興味深い。ゲームの『MOTHER』の元ネタもこれだろうな。最後、ロイはUFOに吸い込まれていく。本当に楽しそうな笑顔を浮かべて。UFOはメリーゴーラウンドのようにキラキラ光りながら宇宙空間へと去っていった……。物語とは「行って帰る」ことである。が、『未知との遭遇』は行ったまま帰ってこない。行ったまま帰ってこない映画はホラー映画と呼ばれる。少年らしい夢を叶える映画ではなく、「未知のもの」との遭遇を通じて決定的に人生が狂った男の悲劇を、幻想的に感動的に描いた映画だった。おっもしろかったなあ。



2015年を映画などで振り返る

旧作ベスト

  1. いまを生きる
  2. ぐるりのこと
  3. ビューティフルマインド

1はまず邦題が素晴らしい。原題は死せる詩人の会。鬱で自殺してしまったロビン・ウィリアムズのベストアクトはこれだと思う。2は劇場公開以来7年ぶりに見たらまったく感想が変わっていた。流産で鬱になる木村多江よりもリリー・フランキーが刻む時代との連動と「人、人、人……。」という達観に唸らされた。3の激動の人生に吃驚だが脚色も上手い。なんか心が弱った人が出てくる映画ばっか褒めてるなあ。

新作ベスト

  1. スターウォーズ フォースの覚醒
  2. ザ・トライブ
  3. マッドマックス 怒りのデスロード
  4. 野火
  5. 恋人たち
  6. 縄文号とパクール号の航海
  7. 寝てるときだけ、あいしてる。
  8. ゴーン・ガール
  9. 森のカフェ
  10. キングスマン

ファンサービスに徹したかのようなSW ep7、劇中で3回は泣いた。おれはこんなにスターウォーズ好きだったのかと再認識。エンタメかくあるべしというか。ep9(2019年公開)まで死ねないな。マッドマックスもトライブも、エキセントリックで革命的だった。野火はもう心意気だけでも凄い。恋人たちは主人公の職業と立ちションがいい。縄文号は撮影4年編集3年つうのが凄すぎ。寝てる〜の優しさに涙。結婚ホラーのゴーン・ガールにエキセントリックなお馬鹿キングスマン、そしてもっともっといろんな人に見て欲しい森のカフェ。

エンドロール賞

バクマン

わたくしジャンプを毎週、7年間ほど買ってた時期があるのです。コミックの背表紙をモチーフにしたエンドロールは感涙ものでした。よってエンドロール賞!

予告編大賞

アメリカン・スナイパー

映画『アメリカン・スナイパー』予告編
撃つか、撃たないかー、ストーリーとキャラクターを緊迫感とともに見せきる秀逸な予告でした。本編もすごい。

R.I.P

水木しげる
野坂昭如
岩田聡
ベン・E・キング
萩原流行
原節子

水木しげるセンセの漫画と人生に深く影響を受けました。合掌。逝去の翌日深大寺に詣ってきました。

スゴ本

完全版 水木しげる
完全版水木しげる伝 文庫 全3巻 完結セット (講談社漫画文庫)
原発と祈り
価値観再生道場 原発と祈り<価値観再生道場> (ダ・ヴィンチブックス)
炭水化物が人類を滅ぼす 糖質制限からみた生命の科学
炭水化物が人類を滅ぼす 糖質制限からみた生命の科学 (光文社新書)
脱資本主義宣言
脱資本主義宣言―グローバル経済が蝕む暮らし
嫌われる勇気
嫌われる勇気―――自己啓発の源流「アドラー」の教え
エアー2.0
エアー2.0
悪貨
悪貨 (講談社文庫)
ガダラの豚
中島らも『ガダラの豚』全3巻セット (集英社文庫)
永遠も半ばを過ぎて
永遠も半ばを過ぎて (文春文庫)


水木しげる伝」と「嫌われる勇気」を読んでおけば絶望している暇なぞ無くなり生きる力がみなぎる。それくらい「効いた」2冊。エンタメ小説では「エアー2.0」「ガダラの豚」「悪貨」「永遠も半ばを過ぎて」の4冊が面白すぎた。

来年の目標

貯金
ミニマル
報告連絡相談

フィルムメイカー イシカワシンゴ

今年は就職してあちこち出張したり離職して地元に引っ越したり東京に出稼ぎしたりでいろんな屋根に寝た。旅するフィルムメーカーということだ。来年もいろんな屋根で寝たい。

デモ田中組とアンチCGと映画制作の宗教性について


デモ田中組クランクアップ。
とにかく終始笑いの絶えない楽しい現場だった。ぼくは撮影助手 兼 ドライバー 兼 DIT という役割をやらせてもらった。サービス精神満タンのシナリオであったので間違いなく面白い映画になると思います。来年公開。
関係者の皆様本当にお疲れ様でした!


しかし、クランクアップしたという達成感があんまりない撮了であった。実景とか小物撮りを年明けに残しているからかと思ったがよくよく考えてみるとそうではない。

本作は「SF」なのである。SF映画はカネがかかるのが常識であるが本作には潤沢な予算などない。「B級感」というテイストで粗を味に変えねばならない。

で、撮影の諸々の進行の都合上、後で撮ったり、1週間前に撮ったものであったりいろんなものを「借りて」進行させねばならない。「見立て」が必要なのだ。CG合成した結果を脳内で合成し、モンタージュしながらバッラバラに撮っていかないといけない。これはなんとも想像力を酷使する仕事だ。同時に体力も使う。特撮の仕事をしているスタッフの方々には慣れたものなのかもしれないが、ぼくには未知の作業であった。つまるところ特撮だったりCG処理っていうのは仕上げの場でも映画作りをするということである。パソコンのデスクトップ上で映画を完成させるということだ。コンピューターによる映画作りで失われたのは集団による祭りの熱狂なのかもしれない。今作のクランクアップによる達成感の無さの原因はここらへんにあるような気がする。

ドライに「素材の撮影が完了した」というのが「クランクアップ」だとは思わない。クランクアップにはなにかまた別種の感慨がある。あるべきなのだ。それは一種の儀式性を伴う。

映画館は遊園地のようなものというよりも寺とか神社とかの祈りの場に近いものであるという風に思っている。ということは制作する側にも儀式性が大事だよなと思っている。もっというと宗教性が必要なんだと思う。本作は監督の強い要望により、シナリオを製本する予算を削ってまで、花園神社でのお祓いをした。なにごとも事故なしにクランクアップしてバラしまでつつがなく終えられたのはお祓いの甲斐あってのものなのだ。そうやってうまくやるというのが日本人的なソリューションなのだと内田樹も言っていた。

とくにSFは「そこにないもの」をつくらなければいけないジャンルである。ライムスター歌丸が年末のシネマランキングで世界的なアンチCGの流れがあると言っていた。「インターステラー」「マッドマックス 怒りのデスロード」「スターウォーズ フォースの覚醒」に共通するハリウッドのアンチCGの流れってきっと「現場主義」ということだと思う。CGでなんでもできちゃうんでしょ?そして世界から驚きが消えた。

「ポスプロでどうとでもなる主義」と「現場主義」の違いは儀式性とライブ性である。いまを生きるかどうか。ぼく個人は「ありものでなんとかする主義」である。あるものでなんとかするしかないんだよ。

というわけで来年はこの映画の仕上げである。ぼくはカラリストとしても雇われているので、 撮影の粗をとにかく最小に抑え、かつ作品に見合ったルックを発見しなければいけない。仕上げ予算がほとんどなくなっているだろうから合成なども手伝うことになるだろう。ありものでなんとかやろう。

病める時も健やかなる時も『森のカフェ』初日

 

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本日、私が制作と編集を担当しました映画『森のカフェ』初日です。

ヒューマントラストシネマ渋谷にて13:40と19:30上映です。13:40の回は舞台挨拶付きです。

土日は13:40と19:30、平日は13:40と18:40上映になります。詳しくは劇場のホームページをご覧ください。

ヒューマントラストシネマ渋谷 | テアトルシネマグループ

 

撮影〜編集したのはちょうど1年前。2014年の11月に8日間の撮影、2014年の12月にポストプロダクションをしました。かわいいコメディ映画ですから、現場ではコーヒーと笑顔を絶やさないように心配りしました。

しかし主演女優の若井久美子さんはコーヒーが飲めないので紅茶でくつろいでいただきました。(汗)

 

不思議な感触に包まれる映画だと思います。われわれの社会のちょっぴり外側を覗き見ることのできる体験が間違いなくそこにあると思います。

紅葉の森と音楽と出演者たちが美しくて可愛らしくて、ちょっぴり深〜いコーヒーのような映画であります。

 

ぜひ。

 

 

morinocafe.com

 

 

エアー2.0

エアー2.0

 

 

 

必読、女性に『ザ・トライブ』の話をしてはいけない理由

全編聾唖者による台詞なしの映画ということで話題の『ザ・トライブ』をキネカ大森に観に行ってきた。ぼくが今年観た映画のなかでもナンバーワンのすっごい不快な映画だったので1ヶ月ぶりにブログを更新する。

『ザ・トライブ』は全編が「手話のみ」で描かれるウクライナ映画である。カンヌ国際映画祭2014で批評家週間グランプリ、ヴィジョナリーアワード、ガス・ファンデーション・サポートを受賞。ほか各国の映画祭で賞を取りまくっている。

聾唖というのは「耳の聞こえない人間」である。耳が聞こえない人間を教育する学校が「ろう学校」である。本作は寄宿制のろう学校を舞台にした青春映画であり、恋愛映画であり、スラッシャー映画であり、ギャング映画であり、犯罪映画である。

「トライブ=族」とは聴覚障害者や聾唖者たちの犯罪組織のことである。障害者の犯罪を描いた映画は日本ではなかなか作られない。日本のエンタメ界では障害者は弱者であり、困難に打ち勝つ「いいひと」でなければいけない。ポリティカリーコレクトネス(政治的正しさ)の観点からなのか日本社会を覆う空気からなのか、障害者を悪者として描く作品にはまずお目にかかれないのだ。柴田剛監督作品『おそいひと』くらいではないか。(未見)

障害者は映像においてある種の「聖性」をもって語られがちな存在である。特に日本人はウエットな「感動話」が大好きである。24時間テレビ愛は地球を救うである。障害をもつ人間は「可哀想」なのである。共同体というのは弱者を守るために発達したシステムである。弱者とは老人、赤ん坊、貧困、障害者、明日の我が身である。障害者は国も社会も全力でバックアップしなければならないのである。我が国では障害者を差別してきた長い長い不快な歴史があるからである。その結果、日本は世界でも有数の福祉国家になったと言われている。

『ザ・トライブ』のストーリーを引用しよう。

セルゲイ(グレゴリー・フェセンコ)は、聾唖者専門の寄宿学校に入学する。その全寮制の学校は公式祝賀会が開かれ、一見、民主的な雰囲気に包まれているが、裏では犯罪や売春などを行う悪の組織=族(トライブ)によるヒエラルキーが形成されており、入学早々にセルゲイも手荒い洗礼をうけることになる。リーダーを中心とする集団が観戦する中、セルゲイは、数人の学生を相手に殴り合いを強要されるが、一人で応戦し、意外な屈強さを誇示したことから、組織の一員に組み入れられる。 最初は、はっきりした序列ができあがっている組織の下っ端であったセルゲイも、恐喝や凶悪な暴力行為に加担していくうちに、次第にグループ内で実力者として頭角を現していく。 組織の主要な財源となっているのは売春で、セルゲイも先輩の付き添いで、毎晩のように、リーダーの愛人アナ(ヤナ・ノヴィコヴァ)と同室の女のふたりを車に乗せ、長距離トラックが駐車しているエリアに送り届けている。厳寒の中、何十台ものトラックの間を徘徊し、ドアを叩いて運転手に女たちを見せながら、交渉が開始。やがて交渉がまとまると、女たちは運転手に乗り込み、運転手とセックスをする。 ある夜、駐車場で、先輩が後方のトラックの発射音に気づかないまま、轢死してしまう事件が起こる。セルゲイは、すぐさまその後任に収まる。そして、夜ごと、送迎を繰り返すうちにセルゲイはアナを好きになってしまう。セルゲイは、恐喝で得た金を上納せずにアナに貢ぎ、たびたび関係を持つようになる。一方で、アナは同室の女とウクライナから脱出し、イタリアに旅立つのを夢見ており、リーダーは出入国管理事務所からふたりのパスポートを入手する。 もはや、アナへの狂おしい想いにとりつかれたセルゲイは、感情を統御できないままに、売春も元締めである木工の教師を急襲し、金を奪うとアナに差し出す。セルゲイは、アナに売春をやめるように、イタリア行きをとりやめるように懇願するが、激しく拒絶される。さらに、リーダーたちの手酷いリンチに遭い、満身創痍となったセルゲイは、怒りと憎悪を露わにし、ある決断を下す。

連想した漫画では「カムイ伝」と「ろくでなしブルース」。不快な映画ということでいうとミヒャエル・ハネケの映画を彷彿とさせる。ロベール・ブレッソンの遺作である『ラルジャン』の渇いた暴力、密閉空間での若者の成長譚ということで言えばジャック・オーディアールの『預言者』も想起したしギャングものと言えば『ゴッドファーザー・ファーザー』も、サイレント映画ハワード・ホークス『暗黒街の顔役』(1932)も想起させる。

しかしこれらの映画群と本作を決定的に分けるものは、「全編字幕なし台詞なし音楽なしモンタージュなし。ワンシーンワンカット。」という特異な演出方法だ。

ちょっとでも映画を見る方なら、これらがいかに危険な演出方法か十分理解できるだろう。退屈なものになる可能性が高い。観客が理解できないものになるリスクを秘めている。撮影がとんでもなく大変。などなど。しかし映画作家たるもの、多少は演出で冒険をしたいと思うものである。しかし、たいていの凡作は方法とテーマが乖離してしまっている。映画の文法は映画のテーマとリンクされて作られるべきものなのである。『ザ・トライブ』は字幕も台詞も音楽もシーン内の編集もないが、方法論とテーマが見事に合致し、じつに豊かに物語を紡ぎだしている。僕は手話をまったく理解できない。字幕も出ない。観ながら思った。ああ、これは「サイレント映画」なのだと。

鑑賞後にパンフレットを買った。監督インタビューでは、サイレント映画へのオマージュがやりたかったと述べていた。ああ、やっぱり。だが、ここまでドス黒い気分にさせられるサイレント映画も観た覚えがない。ドス黒い気分の正体は何かというと、圧倒的なリアリテイである。健常者が聾唖者を演じているわけではない。聾唖者が聾唖者を演じているのだ。僕も内臓が掻き毟られるような恐怖を味わった妊娠中絶シーンの、アナの鳴き声はトラウマ級だ。妊婦の方は絶対に見てはいけない。

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ーーたしかに暴力的な要素のある物語ですが、この映画に描かれていることはどれくらい現実に近いのでしょうか。実際に映画が撮影された地域は、危ない地域だとも聞きました。

「すべてではないけれど、この映画で語られるエピソードの多くは、僕が実際に聞いたもの、あるいは新聞などで読んだものだ。たとえば堕胎のエピソードは、僕が年配の女性から聞いた事実に基づいている。以前はウクライナで堕胎は禁止されていたから、闇でおこなうしかなかった。売春も存在する。ウクライナでは合法化されていないから、このビジネスは公には犯罪だけど、マフィアと警察が結託してコントロールしているという噂もある。」 (ミロスラヴ・スラボシュピツキー監督談/パンフレットより引用)

ザ・トライブ Blu-ray

ザ・トライブ Blu-ray

世界には残酷が存在している。人生は無慈悲である。聾唖者にとってだけ世界が沈黙しているわけではない。健常者にも神は沈黙している。もっともこの映画の印象に近い作品を思い出した。亀井亨監督の『無垢の祈り』(公開待機中)だ。


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