FilmMaker Ishikawa Shingo

「Hairs」「Food 2.0」「スティグマ-STIGMA-」「裸で汁を出すだけの簡単なお仕事です。」「ラジオスターの奇跡」「蘇りの恋」「カササギの食卓」「出発の時間」などの映画監督、石川真吾のブログです。

亀井亨監督のMacをメンテナンスする

亀井亨監督の家に呼ばれる。亀井さんのiMacクリーンインストールを頼まれたのだ。8年くらい前から亀井さんのデジタルまわりのサポートは僕が担当させてもらっている。現代のアーティストは基本的には、コンピューターと向かい合わないとものをつくることができなくなっている。コンピューターはブラックボックスだ。CPUがありメモリーがありHDDがありディスプレイがありマウスとキーボードがありそれが複雑に動作してOSというものを動かす。その複雑怪奇なOSの上で動作する編集ソフト(Apple Final Cut ProやAdobe Premiereなど)を駆使して映像というものを編集する。ソフトウェアと各コンポートとユーザーインターフェイスがどう作用しているかは使用者の想像の埒外にある。ブラックボックスを使ってものを作らなければいけない。これが書道家や画家なら、使う道具も画材も原理のわかりやすい鉛筆や筆だ。木炭や墨が紙に線を描きだす過程の原理はみなが知っている。単純である。しかしコンピューターは複雑だ。コンピューターの原理を理解することは、これからの映像制作者には必須なのだ。

少し昔話になる。ぼくが高校生のときにコンピューターがやってきた。兄貴のお古で、Windows95だった。パソコンでお絵描きをした。作曲ソフトを入れて、音楽を作った。ぼくの創造の原点だ。そのうち、パソコンを自作するようになり、DOS/Vパソコンの仕組みを勉強しだした。知らず知らずのうちにコンピューターの原理と本質を理解していった。東京に来て、映像の仕事をする際に、そのIT系の知識が非常に役立った。映像製作のデジタル化の波が来て、コンピューターの知識がある人材が求められたのだ。ぼくより年上で、作家とよばれる人たちはアナログ人間が多い。デジタルカメラの仕組みやデジタル信号の符号化の方法についての理解が浅い。ぼくはそういったアナログ人間にデジタルを教えるコンサルティングが業務になっていった。DIT=デジタルイメージングテクニシャンと呼ばれる新しい職種である。


亀井亨監督は飲み食いの際に、いっさいお金を要求しない豪気な九州人である。なんべん楽しい夜を一緒に過ごさせてもらったか。しこたま飲み食いして、ぼくは1度もお金を払ったことがない。公私ともに非常にお世話になっている。

【綾乃テン公式ホームページ】
http://ayamemoyou1414.s2.weblife.me

亀井さん家では、綾乃さんのお師匠さんの映像作品を拝見した。百鬼どんどろの岡本芳一さんの遺作となった『VEIN -静脈-』である。
「VEIN」 百鬼どんどろ・岡本芳一 最後のメッセージ - 映画「VEIN-静脈-」
唯一無二な世界観だった。人形劇である。人形を活かすためには人形師は自らの生命感を殺さなければいけない。顔全体にお面をして、動きを最小限にする。すると不思議な逆転現象が起こる。人形が生きているように見えて、人形師は死んでいるように見えるのだ。そしてタナトスを描き出す。虐げられた少女と死が濃厚に絡み合う。見応えのある映像だった。お弟子さんである綾乃テンさんのパフォーマンスも似たテーマを継承している。常人にはない発想で物事を考えている。刺激になる。

亀井さんの昔の演出作も見せていただいた。TVKで放送された『シリーズ恐怖夜話「サイゴノヒツギ」1話〜4話』である。いまじゃ絶対に放送できないであろう恐怖描写が満載の映像作品であった。13年前の仕事だそうだが、やっていることは最新作の『無垢の祈り』と通底していた。平山夢明さん原作の『無垢の祈り』はすっさまじい映画だ。日本公開が危ぶまれるくらい、観客の論理観やモラルに揺さぶりをかけてくる。ぼくもスタッフの末席として参加させてもらっている。いま最も公開が待たれる一作である。

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亀井亨監督の大ヒット作。