FilmMaker Ishikawa Shingo

「Hairs」「Food 2.0」「スティグマ-STIGMA-」「裸で汁を出すだけの簡単なお仕事です。」「ラジオスターの奇跡」「蘇りの恋」「カササギの食卓」「出発の時間」などの映画監督、石川真吾のブログです。

霊長類はビタミンCを合成できなくなったかわりに色彩を手に入れた

ビタミンCは人間が生きる上でなくてはならない栄養素である。我々は食べ物からビタミンCを摂取する必要がある。実は、哺乳類のなかでビタミンCを体内で合成できないのはヒトだけである。それはなぜか?そしてその代わりに人類が得た美しい能力とは何か?というお話です。


ポール・ゴーギャン『果物を持つ女』1893

 六五〇〇〇年以上も前から、我々ヒトやサルなどの霊長類は、主に熱帯地方で樹上生活を送ってきた。熱帯地方の樹上で豊富な食べ物は木に生る果物である。果樹にとっても、実を食べて種を排泄し、広くばら撒いてくれる動物は、自分たちの繁栄のために都合がいい。そこで果樹は、動物に食べてもらいやすい果肉に、消化されない硬い殻を持った種を隠して、果実を付けるようになったのだ。こうして果樹と霊長類は、互いに恩恵を与え合いながら双方が繁栄するという「共進化」の関係を結んだ。
 そうするうちに多くの霊長類は、緑のなかから熟れた果実を見分けるために、色覚が発達したと言われている。霊長類以外の哺乳類は、色の見分けがつかない”色覚異常”なのだ。
 そしてこれと引き換えに、哺乳類のなかでもヒトを含むある種の霊長類だけが別の能力を失った。豊富なビタミンCを含む果実を食べ続けるうちに、我々はどこかの時点で、ビタミンCを体内で合成するための最終酵素を作る遺伝子を欠いてしまったのだ。つまりビタミンCを体内で合成することができなくなった。ビタミンCは我々が生きるうえでなくてはならない栄養素なので、我々は今も食べ物からビタミンCを摂り続けなくてはならないのだ。
ーー鶴見済『脱資本主義宣言』より「霊長類とビタミンC」から引用

脱資本主義宣言―グローバル経済が蝕む暮らし

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この一文を読んだときは非常に感銘を受けたものである。「色覚」は食料確保のために生まれた感覚だったのだ。バナナの黄色、オレンジの橙色、リンゴの赤、ブドウの紫……。フルーツは色彩が非常に豊かだが、まさかフルーツが人間の色覚を作り出した原因だったとは考えもしなかった。

動物は色覚異常

犬はモノクロでしか見えてないが鋭い嗅覚で補っている、というような俗説を聞いたことがある。各動物でも色の認識には差があるようなので調べてみた。

実は、人間の目に映る景色と動物の目に映る景色は違います。
目の果たす役割が違うのです。

色彩感覚(色覚)については、太陽光をプリズムを通して分解すると波長の長い順に「赤、橙、黄、緑、青、藍、紫」と、虹の七色で表現されます。

色の識別としては、人間などの大型の類人猿は3原色(赤・緑・青)、犬などの大部分の哺乳類は2原色(赤・青)、鳥や昆虫は4原色(赤・緑・青・透明(紫外線))を見分けることが可能です。

それぞれの動物や生物の色の見え方については、次の通りとなります。

【牛、馬】
 モノクロに近い見え方です。馬は黄色を最も識別できて次に緑となりますが、
 青と赤は識別できないこともあるようです。

【猿】
 ニホンザル、チンパンジー、ゴリラは、ほとんど人間と同じで高度な色覚があります。
 色に関しては、種族によって見え方に違いがあるそうでオスに色弱色盲が多くみられるようです。

【犬、猫】
 嗅覚や聴覚が優れているため、強い視力を持っておらず、
 特に猫は弱視で色を識別することは難しい
ようです。
 また、基本は赤・青の識別ですが、黄色と青を識別できる犬もいるようです。

【魚】
 金魚、めだか、鯉は、特に識別に優れていて、鯉は人と同じ錐体(色を感じる機能)を持っています。

【鳥】
 人に見えない紫外線も見ることができます。
 種類によって見え方が違いますが、色彩のきれいな雄を持つ鳥類も
 雌が色の識別ができるからといわれています。
 鳥の中でも、ハトは20色を識別でき、あらゆる動物の中で識別能力に
 優れているそうです。

【昆虫】
 ほとんどの昆虫は複眼を持ち、30000ものレンズがついています。
 これにより識別に優れ、人に見えない紫外線も見ることができます。
 しかし赤外線に近い色は識別はできません。
 夜、紫外線を発した電燈へ昆虫等が集まるのは、このためなのです。

人間と動物では、色の見え方が違うのでしょうか? | 快適視生活応援団

鯉は人と同じ錐体を持っている(なぜ?)とか、鳥は紫外線も見ることができる、とか面白すぎる。だけど、鳥の脳は小さい。人間は脳でものを見ていると言う。多様な色を知覚できても、脳で画像処理を施さねば映像として認識できない。世界をカラフルに認識できるのは人間だけに許された特権なのかもしれない。

何かを得るには何かを失わなければならない

ひょっとしたら、ビタミンCの合成能力の欠如が人間の創作活動の原点にあるのかもしれない、と考えてみた。画家は多彩な絵の具をつかって世界の色彩を再現する。人類最古の絵と呼ばれているラスコーの洞窟画にも、「色」は使われていた。もし、ビタミンCを体内合成できる哺乳類としてヒトが進化を続けていたとしたら、現在よりよっぽど寂しい文化になっていただろう。色彩は人類に与えられた恩寵である。

ビタミンCの正体はアスコルビン酸

ビタミンCは不足すると壊血病になる。壊血病は船乗りがかかる病気だと言われてきたが、日本人は生魚を食べるのでビタミン不足にはなりにくかった、とかそんな話を聞いたことがある。鶴見氏の著書にも書かれているが、ビタミンCは新鮮さの証のような栄養素であるらしい。すでに化学合成が出来るようになっており、アスコルビン酸という名でいろんな食料や飲料に添加されている。「新鮮さ」を添加できる技術というのもある意味恐ろしい。

人間は先天的に緑色に美しさを感じるようにできているのではないか

人間は農耕をし、都市をつくって森から離れた。だが、これからも森は美と畏怖の対象であり続けるだろう。日本人は豊かな自然で感性を育んできた国民だ。東京にも美しい山々はある。人類の祖先が身につけた美しい能力、色彩を楽しんでいきたいなというお話でした。


ゴッホ『ジャガイモを食べる人々』1885