FilmMaker Ishikawa Shingo

「Hairs」「Food 2.0」「スティグマ-STIGMA-」「裸で汁を出すだけの簡単なお仕事です。」「ラジオスターの奇跡」「蘇りの恋」「カササギの食卓」「出発の時間」などの映画監督、石川真吾のブログです。

裸の男たちを撮るだけの簡単な48時間です。その②

#48hfp #裸汁

裸の男たちを撮るだけの簡単な48時間です。その① - FilmMaker Ishikawa Shingo

 

映画をつくるのは簡単じゃないよ、というメイキングの2本目です。どうぞ!

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11/30(土)

10:30~

現場へ移動する。制作部の石塚達也くんの運転だ。車内ではわいわい言っているのだが胸中は複雑だ。そもそもこの11月の末に48時間映画祭を開催するのが暴挙だ。日照時間が6月開催に比べて4時間短い。16時にはデイシーンの撮影は不可能になる。我々はスタートから遅れていて、撮影開始は11:30だろう。メシ押しでやらさせてもらっても撮影時間は4時間半しかない。4時間半映画祭だバカヤロウ。9ページ撮りたかったら1時間で2ページ消化せにゃならん。そんなハイスピードで撮影できるのか? 気分良く撮れるのか? おもしろいものになるのか? 移動の30分でちょっとだけでも寝たかったが、思考がぐるぐるして竜巻のようになって首を絞めてくる。それでも目を閉じた。目覚めたら名案が浮かんでいればいいのに。

11:00~

河原の待ち合わせ場所に着く。撮影のハルさん、録音の小牧さんと合流。照明部とも合流。実は照明部とは初対面であった。堀口健さん。助手の阿部さん。あ、どこかで会ったことがある……。昨年公開された『鈴木家の嘘』という映画で3週間一緒でしたね。ありがたいやら心強いやら。そもそもこの体制で照明部がふたりもいるってどんな贅沢な現場やねん。わしが来年あたま参加する配信ドラマの現場なんて照明部なしなんだぞ。
録音の小牧さんと撮影のハルさんにシナリオの感想を聞く。「面白かった」と。多くの現場を共にした戦友から褒められると無条件に嬉しい。ちょっと自信が出て来た。というか、撮影中なんかは無根拠な自信がないとやれないものである。自分を騙し続ける力とでも言おうか。そうでないとスタッフもキャストもついてこれないのである。
なんてことをうだうだ考えている暇もない。なぜならあと4時間で太陽は沈み、あと30時間で映画を完成させて提出しないと失格だからだ。48時間映画祭はえげつない。

11:15~

機材を運び込む前に、どこで撮るかの相談。昨日ロケハンに来たはずだが、その頃はストーリーのかけらもなかったので、シナリオを元にあらためて撮影場所を検討する。ゴルフ場だった場所なのだが、台風の影響で浸水して水が抜けきっておらず、ぬかるみになっている場所だ。移動にまた時間をとられる。
撮影の川口晴彦氏、別名PHOTOGRAPHER HAL氏との付き合いも数えて見たら10年になる。氏は気鋭のアートカメラマンで、男女を真空パックする写真が有名だ。当時は広告会社に勤めていて、有名クライアントやタレントを数多く撮っていた。カンヌで広告賞をとったこともある。ハルさんはスチルカメラに動画機能が付き始めた頃から動画に興味を持ち出して、動画のお仕事で私がアシスタントに付いたり、逆に僕の自主映画でカメラマンとしてお誘いしたりで交流を深めていった。僕の監督作でカメラを回してもらうのは3作目。商業映画のカメラを回すのは2回。いずれも僕が現場についた。
「どう撮るか」もよく考えてくださるが「どんな光で撮るか」を常に考えてくださるので、映像表現がじつにうつくしい。僕の過去作を観てくださった方の感想で「映像が綺麗だった」という意見はよくあって、それはすべてハルさんのおかげであります。感謝。
映画ばかりやってきたカメラマンは、芝居を撮る、現場を回す、ストーリーを語る。そういう意識が強い(ひとが多い)。純粋にうつくしい、フォトグラフィックな絵を撮る、そういう意識の優先度がどうしても低くなることがある。なのでハルさんが撮る映画の絵は独特だ。ストーリーに隷属しない。1枚1枚が絵画のように独立性が高い。同時にそれは、パワフルなストーリーを作らないと絵に負けちゃうということを意味する。ああ、怖い。


11:30~

機材を運び込み、美術もセットした。俳優も入った。シーン2、川辺の道。段取りを始めた。クランクインだ。ああ、なんか普通のメイキング記事みたいで嫌だ。台風でセットが吹っ飛ぶとか、主演俳優が死ぬとか、そういうアクシデントは一切なかった。監督が寝てない、くらいのものだ。そんなの普通だ。だいたいの現場がそうかもしれない。そもそもほとんどの俳優、スタッフが私の連絡が遅れたせいでちゃんと寝ていない。
学生時代から合わせて17年映画を作って来ているが過去最大のトラブルってなんだったかな。学生時代のラストに撮った映画は、ロケの前日に雪が積もったが翌日ピーカン晴れで全部溶けたんで問題なく撮影できた。長崎でオールロケをした映画は50年に一度と呼ばれる台風が来て、記録超えの大雨が降ったが、翌日撮影をしようとなったらものすごく晴れた。私はラッキーなのかもしれない。
あ、ひとつ思い出した。2011年3月12日だ。そう、あの東日本大震災の翌日、われわれは埼玉でロケをしていたのだ。ガソリンの20リッター規制が始まって、ガソリンスタンドにものすごい車の列ができた。撮影現場にまで車の列がのびてきて撮影にならないので仕方なく、皆で赤棒をふって車両誘導をした。原発がやばいらしいと噂しながら、SFみたいだねなんつって密かに興奮していた。まだ詳しい報道がなかったのだ。その日の晩のニュースで原発メルトダウンが報じられ、笑顔は凍りついた。あれから日本社会は劇的に変わったようで大して変わらなかった。僕の人生も激変した。が、なんだかんだ映画を作り続けている。

 

11:45~

シーン1はAVの画面なので夜、家で撮る。シーン2は橋野、横須賀、小坂、長崎、柳生はる奈の河原でのシーンだ。映画はシーン1から順番に順撮りするのが好きだ。その方が準備も手間がかからないし、俳優の負担も少ない。僕はことに最近、「出たとこ勝負」で撮るのが好きになってきた。ドキュメンタリーの撮影や編集を仕事でいっぱいやったからかもしれない。脚本という図面をはみ出した「なにかすごいもの」を捕まえるには、順撮りでないと対応が難しい。
お芝居がだいたい固まって来たんでカメラの指示をした。パットレールを借りて来たのでここぞとばかりに使う。パットレールとは、電車移動でも可能なくらい軽量で簡略化された、日本のリーベック社のドリーシステムである。カメラがなめらかに水平移動すること自体に、現代の観客はなにも驚いてくれない。あらゆる映像に多用される表現だからである。クレーンやドローンやジンバルなどで、もっと自由自在なカメラワークもよく見る。
移動撮影は「映画文法の父」D・W・グリフィスが発明したらしい。モンタージュ、クローズアップ、フラッシュバック、フェードイン・アウト、イマジナリーライン、クロスカッティングなど、現在でも使われるたいていの映画技法はこのグリフィスさんが発明している。この人はKKKをヒーローとして扱ったりのとんでもない差別主義者な上、映画はぜんぜん好きじゃないんだが、偉大な人だ。なにが偉大って、「基本はフィックス」なんですね。
フィックスで撮影された映像がドリーで水平移動することには、一種の感動が伴う。カメラの動きに何かエモーションがこもるのだ。しかし、ドリーは多用すると効果を失う。いまのCM,PV,VPは多用しすぎだ。水平移動と静止は必ずセットだ。そしてカメラの動きはドラマの動きと連動すべきものなのだ。「映画は意味の王国」であり、カメラの動きにもすべて意味がしつらえてある。
『裸汁』には二箇所だけドリーカットがある。特機の撮影は時間がかかるから、ここぞというところにしか、使わない気でいた。具体的には冒頭と、クライマックスだ。
もう一つ、今年はこうしよう、と思っていたことがあって、ナレーションで主人公をむりやり立てないということだ。シナリオの教科書には主人公のナレーションで進行するシナリオはダメ、とよく書いてある。全2作はナレーションで進行させてみた。複雑な現代社会で複雑な物語を語ろうとすると、どうしても言葉以外では語れない。そしてナレーションは主人公を簡単に立ち上げてくれる。
今回それはあえてやめた。無名のモブ(群集)のなかから主人公が立ち上がってくるような映画にしたかったのである。冒頭、主人公が立ち上がりそうなところでドリーが水平移動してカメラに感情を伝えている。うまくいったかなあ。

 

12:15~

これは書くべきか迷ったのだが、「トチっちゃう俳優に対してどう対処すべきか」というのも整理しておきたいので書く。俳優がセリフを間違える、噛む、うまく喋れない。基本的に僕は「いいよいいよ」と言って待つタイプだ。OK出るまで何度でもやればいい。時間が許す限り。48時間映画祭だろうが商業映画だろうが時間など結局ないのだ。
え、あの有名俳優も?と名前をあげると皆がビックリするような方が何回もNGを出している局面も何度も観たことがある。休憩をとる手もある。
しかし妙案はない。待つしかない。なるべくスタッフは「あ〜あ、またかよ。こいつのせいでスケジュール押すな……」みたいな態度・表情は避けてあげて欲しい。共演者は優しい人が多い。互いに役者だから理解がある。
加瀬亮さんから聞いた身の毛もよだつ話だ。北野武組はワンカット主義なので、トチる俳優はその場で「あんちゃん、もういいよ」ってセリフのない役に交代させられちゃうそうだ。百戦錬磨の加瀬亮さんもそのときばかりは大緊張したそうだ。48時間映画祭では、僕はなんせ、朝、シナリオを渡しているのだから、できなくて当たり前だと思っている。じっくり待って、いい演技を引き出したい。でもね……陽がないんや!!!そして、現場でOKだが編集でNGというのはよくある!!ありすぎる!!どうとでも編集できるように撮っておけばよかったという後悔は尽きない!!くえええええ!!!

 

12:45~

お題は派遣社員。小道具はメニュー。セリフは「それば別の問題だろ」。このお題に対してうまい解答を物語で返せればいい評価が得られる。なので、メニューをヨリで撮る。そういうチームは多いだろう。いちおう僕も、メニュー(AVの撮影内容)のヨリは撮った。保険でね。結局使ってない。メニューに限らず、最近どうもクローズアップが好きじゃないんです。近すぎる。ほかが見えなくなる。俳優だけじゃなくもっといろいろ見たい。思わずカメラマンが被写体にかじりついてクローズアップを狙いたくなるような絶世の美女ならいざ知らず、だ。スクリーンはデカく高精細になっていっているのに、映画のサイズが大きくなっていってるのはなぜなんでしょうね。人間の全身を、その人が置かれている環境と一緒に撮りたい。まあ今回は汁男優たちが主役で、かれらがパンツ一丁なんで面白い絵は当然フルショットになる。
汁男優は単体の存在ではない。10〜20人くらいの団体でいるから際立つ。個人が突出してはいけない。匿名の集団の中から、個人がひょっこり立ち上がってきて、混沌のなか、彼なりの魂の復活を遂げる。汁男優は顔も映らない。実際にAVの撮影現場では、「顔が映るのが嫌な方はサングラスとマスクをしてください」とアナウンスされるそうだ。元漫画家で、AVの制作会社に就職した方がWEB漫画にそう書いていた。自分の性器と行為を晒しておきながら顔は隠しておきたいという気持ちはよく分からん。
ところで、汁男優については取材をしなかった。する時間もなかったのが。インターネットでもあまり調べなかった。これはリアルな汁男優についての社会階層的な告発映画ではないのである。僕はその業界の悲惨な部分ばかり見てしまうようなところがある。あくまでコメディなんで、お笑いなんで、リアルな業界の方、事実誤認はご容赦願います。

 

13:00~

シーン4、川辺の道。小坂氏の説明台詞炸裂。説明台詞は必要悪である。これは一種のファンタジーなので(AVの汁男優の派遣会社なんて実際はない)、台詞で説明しなければいけないことは多いのである。「岸島、お前は甘いんだよ。こういう現場はじめてだろ?派遣先で言われたことは守る。それが派遣AV汁男優社員たるものの使命だよ」この台詞が不自然かどうかは観客の判断に委ねるしかないのだが、小坂氏の先輩ヅラしたがるキャラもあいまって退屈ではないシーンに仕上がった気がする。
小坂、横須賀、橋野の3名のグルーヴ感というのか、男同士でわちゃわちゃやっている感は思ったよりうまく行った。段取り、テスト、本番と芝居を重ねるごとにテンションは高くなって行った。より下品に、より動きのあるものに変わっていった。橋野氏はことあるごとに「もっとやっちゃっていいですか」というようなことを聞いてくる。やっちゃっていいんだよ。その時は答えられなかったけど、我々には編集という最強のハサミがあって、過剰な部分は切っちゃえばいいんだから。
長崎達也さんには川を見つめて一切何もしないでください。無反応でお願いします。としつこくお願いをした。ご本人は演技している感がなく不満げだったが、これが面白いから大丈夫なんです。
アクの濃い4人のグルーヴに割って入る、イケメンAV俳優役の雅マサキ氏。人をイライラさせるなかなかの悪役っぷりで素晴らしい。

 

13:30~

シーン6。座って暖かいコーヒーを飲んでくつろぐ雅氏とそれをうらやましげに見る橋野氏。ここではじめて橋野氏の単独ショットが出てくる。ハル氏はもっと寄ったサイズを狙っていたようだが、寄ったサイズはまだお預けだ。クローズアップも多用すると効かなくなる。ここぞという時に寄るのだ。まだその時じゃない。このサイズ感覚は僕のもうひとりの映画の師匠、亀井亨監督の現場で教わったことである。映画はスクリーンが大きいので、対象を大きく写しすぎる必要はない。亀井監督と長年組まれているカメラマンの中尾正人氏の基本サイズはニーショットである。芝居をこれ以上ないベストなポイントでベストなサイズ感で撮影してくれる。編集マンが小細工する必要のない映画的な絵だ。

 

13:50~

シーン8。一連の河原のシーンの最後で、映画のクライマックス部分の撮影。雅氏の横暴と暴言に橋野氏がとうとうキレるシーンである。ここでもドリーを使ってカメラを水平移動させた。うまくいったかなあ。

 

14:00~

いい加減現場移動しないと陽がヤバイと助監督の杉原涼太氏がいう。彼は『川越街道』の現場で知り合った。今は東京芸大の映画制作の現場で重宝されているようだ。学生から人気ありそう。声も顔もいいし、じっと待てる人間だから。僕なんかが一生かかってもたどり着けない境地ですね。現場移動の前に1カットだけ撮っておかないといけないカットがある。シーン7の橋の上からの主観ショットだ。俯瞰めで引きで撮っておけばどうにかつながる。これも汁男優たちがわちゃわちゃしている好きなショットになりました。奥には川が流れ、高速道路にはせわしなく車が往き交い、さらにその奥にはスカイツリーがそびえ立っている。社会の端っこ、破れ目にいる感じが出ている。満足。ま、このショットを観た観客はそんなこと一切感じ取らないだろう。ギャグシーンで使っているからね。

 

14:15~

いよいよ陽がやばい。タイムリミットまであと2時間を切った。残るシーンはプロデューサー、ヘアメイク、AV嬢が監督を探すシーン。ミヤビが水に落ちたら……というシーン。エンドロール。あと3つだ。橋へ移動する。徒歩20分くらいのところだが機材の量も量だし俳優たちの体力も考えて車で移動することにした。それが間違いだった。

 

 

 

短編映画『裸で汁を出すだけの簡単なお仕事です。』

12/15(日)14:30より上映

会場:なかのZERO 西館 小ホール

東京都中野区中野 2-9-7

48時間映画祭プレミア上映会

入場料1000円

 

出演/橋野純平・横須賀一巧・小坂竜士・長崎達也・柳生はる奈・宮本晴樹・雅マサキ・つかさ・泉光典

監督/石川真吾 | 撮影監督/川口晴彦 | 撮影助手/藤田恵美 | 録音/小牧将人 | 照明/堀口健・阿部陵亮 | 助監督/杉原涼太・森岡伶奈 | 制作/石塚達也 | 脚本/木島悠翔・石川真吾 | 編集/塩谷友幸 | 音楽/原 夕輝 | 8分 | コメディ | This film made for the 48 Hour Film Project 2019. |  ©︎2019 STONE RIVER

 

【ストーリー】

201X年、空前の人手不足により、AV業界に革命が起きた。汁男優専門派遣会社の誕生である。その期待の新人、岸島力(31)の初現場は河原での屋外プレイものであった。12月の寒風の中、パンツ一丁で震えただ待つ岸島。一方その頃、AV監督が行方不明になり現場は大混乱をきたしていた……

 

【予告編】


【予告】裸で汁を出すだけの簡単なお仕事です。/Tokyo 48hfp 2019

 

裸の男たちを撮るだけの簡単な48時間です。その① - FilmMaker Ishikawa Shingo

裸の男たちを撮るだけの簡単な48時間です。その③完結編 - FilmMaker Ishikawa Shingo