FilmMaker Ishikawa Shingo

「Hairs」「Food 2.0」「スティグマ-STIGMA-」「裸で汁を出すだけの簡単なお仕事です。」「ラジオスターの奇跡」「蘇りの恋」「カササギの食卓」「出発の時間」などの映画監督、石川真吾のブログです。

裸の男たちを撮るだけの簡単な48時間です。その③完結編

 

#48hfp #裸汁

裸の男たちを撮るだけの簡単な48時間です。その① - FilmMaker Ishikawa Shingo

裸の男たちを撮るだけの簡単な48時間です。その② - FilmMaker Ishikawa Shingo

 

映画をつくるのは楽じゃないけど楽しいよというメイキングの完結編です。またしても長いです。どうぞ!

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11/30(土)

15:00~

渋滞の上、道を間違えた。現場に着いた頃には陽が傾いている。あと1時間しかない。

15:10~

撮影しようと思っていた場所での撮影NGが出た。過去最大にテンパった。あと50分。

15:20~

シーン3。バタバタで陽がないなか、ロケ地も急遽変更して、柳生はる奈さんと宮本晴樹さんのシーンを撮った。ワンカット。スタッフサイドの慌てぶりが俳優サイドに伝わって、慌ただしく混乱している様子がよく出ている。シーン2の芝居とつながっていないがなっ!やり直したい。人生やり直したい。撮り直したい。雑に撮ってる感満載やがな・・・

15:40~

あと20分でタイムリミットなので助監督と相談して、シーン5と7をくっつけて一連で撮ることにした。ハルさんは必死に光がある場所を探す。「ここでやろう」えっ、ここ?太陽光があたっているというだけで選んでませんか? ドラマ的に必然性があります? とは思ったものの文句を言ったり別の場所を探す時間もない。ここでやろう。過去最大の速さで脳みそが回転し、芝居の位置と動きを決める。あれがあーなってこーなって。この間わずか1秒。で、撮った。ハルさん独自のヘンテコな絵だ。あとで観たらミニマルでけっこう面白い絵だった。さすがに表情が分からなすぎるのでヨリも撮っておいた。パニック感が出ている。つかささんはマイペースな女優という感じも出ている。よしオッケー。

15:50~

あと10分ですべてが終わる。ラストシーンを撮るか、エンドロールを撮るか。エンドロールを撮ろう。エンドロールの並木道は土手の表側で、太陽がよく当たっている。紅葉に陽が当たってキラキラ輝いている。そこに、パンツ1丁の男たち4人がスローモーションでカメラに向かってズンズン歩いてくる。アルマゲドン・ショットと僕は呼んでいる。西部劇とか昔の刑事ドラマとか香港ノワールなんかでよく見るあのショットだ。日の当たらないところで生きてきた男たちが、胸を張って歩くんだ。感動的だろ。パンツ一丁だけど。

15:55~

エンドロール用の主演4人のクロースアップを撮る。ここまで我慢してきたサイズだ。思い切ってぶちまけてもらう。笑いをこらえる方が大変だった。イキ声にもそれぞれの人生が宿って面白いんですね。小坂氏のイキ声はデカすぎて、川の対岸の街にも響き渡った。録音の小牧氏も滅多にないことなのだが音が割れていた。あのイキ声は多分多摩川あたりまで届いていただろう。

16:00~

ひとしきり笑ったあとスチル撮影。これも爆笑。全員、マジなキメ顔をしている。パンツ一丁のくせに。

16:05~

太陽は沈んだ。ハイライトはない。が、まだ撮れる。マジックアワー到来だ。っていうか撮るしかない。ラストシーンの撮影だ。泉光典さんの出番がまだなのだ。でも現場が決まっていない。走り回る。

16:10~

昨日のロケハンの前、5日くらい前に来て目星をつけていた場所でラストシーンをやることにする。水辺だ。僕の映画は水辺がよく出てくる。水辺はこの世とあの世の境界なのだ。泉光典さんの役は、半分水に浸かっている。半分、あっち行っちゃった人なのだ。現場ほっぽって、勝手にあっち行ってんじゃねえ!というのが汁男優4人の怒りなのだ。


これには元になった体験がある。学生時代、同級生の映画に出演することになった。まだ豊洲が開発中だった頃だ。今の豊洲市場あたりだろうか。僕の役はよくわからない理由で海に飛び込み、溺れる、という役だった。よくわからないまま一生懸命飛び込んで、泳いで、溺れた。そこの海水は臭く、ヌメヌメしていた。数日、気分が悪かった。海水が染み込んだ服は重く、ほんとうに溺れそうになった。ヤバイ。そこでふとカメラを見ると、友人は空の方向にカメラを向けている。おい、こら、俺を撮らんかい!


ま、そんな経験があるので、水辺での撮影が俳優部に多大な負担をかけるのを身をもって知っている。雅氏が橋野氏に突き飛ばされるのも、足がちょっと水に着くぐらいでいいか。なんて思っていた。そしたら雅氏、全身で飛び込んで行きましたね。商業作品だと、水辺で撮影する場合、安全性を助監督や制作部が確保してから俳優部が入るものなのだが、雅氏、全身ずぶ濡れ。ありがたい。思わずカットかかった後に拍手。


その後、泉氏のカット。ま、最後の最後に出てくるだけあって、持っていく。台詞はシナリオから変えた。木島氏がとてもいいセリフを考えてくれたのだ。うまくはまってくれた。

 

16:30~

もうマジックアワーも終わろうとしている。僕の望みは、キャスト全員集合のグループショット。これにはハルさんと照明部が大反対。シーン2からの流れから言うと別場所だし、光もまるで違うから。


ゴッドファーザー』などの編集をやったウォルター・マーチは自身の著書で、理想的なカットのあり方についてこう書いている。


1.感情 51%
2.ストーリー 23%
3.リズム 10%
4.視線 7%
5. スクリーンの二次元性 5%
6. 三次元空間の継続性 4%

 

撮影・照明部が言っている「光がつながらない」と言うのはマーチに言わせると4%しか問題ではないのだ。51%は感情(エモーション)、23%はストーリーなのだ。必要なカットがない方が問題なのだ。これはつまり、監督の撮りたいものを撮らせた方が経済効率が良い、と言うことも意味している。現場では撮影監督が言うことはかなり重みがある。が、編集現場に行くと4%しか重みがない。約8割は、ストーリーとエモーションなのだ。ストーリーとエモーションを伝えるためのカットは、たとえ光(三次元空間の継続性)が犠牲になっても撮るべきなのだ。


上記のようなことを頭の中に浮かべ、1分くらいにまとめて説得しようと思ったがやめた。ご好意で参加してくださった技術部に、ノーギャラの映画で偉そうに講釈たれるべきではない。プロデューサーがいたとしてそういう判断になっただろう。僕は巨匠ではない。ペコペコ系の監督なのですぐ折れる。


そもそも太陽がなくなって必要なカットが撮れなかった、と言うのは編集部にとっては日常茶飯事なことなのだ。僕はあまり優秀な編集マンではないけれど、今も年収の半分以上は編集仕事だし、15年やっているのでそれなりにいろんな経験値がたまっている。太陽がなくなって必要なカットが撮れていない場合の対処法も150パターン持っている。今回はどれにしようかな。


現場では橋野さんのクローズアップで締めることにした。橋野さん、顔芸がすごい。「もっとやっていいですか」なんて聞いてくるものだから「もっともっとやっていいんだ」と返す。こちとらハサミを持っているんだ。というか光の継続性にこだわるのなら、目線の継続性にもこだわって欲しい。光は4%、視線は7%だ。クローズアップだともっと高まるんじゃないか。目線が合っとらんのよ。大事な大事なラストで。恨み節を言ってもしょうがない。立ち位置をちゃんと決めず、編集のことを考えずカメラマン主導で一枚絵だけを追い求めた結果だ。つまり監督の責任やからね。


ま、視線の違いよりも橋野さんの怒りでマスキングされて問題なく進行すると思う。オッケーイ。川の撮影は以上。中野の我が家に戻る。

 

17:00~

バラして移動。

17:10~

あああ!!集合写真撮り忘れた・・・

17:30~

帰りの車内で眠りに落ちた。昨日の10時から起きているわけだから、31時間ぶりの睡眠。多分10分にも満たないわずかな眠りであったが、貴重な眠りだった。スッキリしまくって、よし、皆で世界の平和を守ろう!という気分になった。だけど地獄の蓋はまだ開いたばかりであった。

 

18:00~

中野の自宅に帰り、シーン1のAV撮影の画面撮り。そういえばカラミの演出というのははじめてだ。勝手がわからないので段取りとこうなってほしいという「結果」をとにかく伝える。つかささんは随分付き合いが深くなったんであんまり恥ずかしいとかはない。助監督たちは擬似精液をスポイトに入れたり注射に入れたり色々忙しい。


1テイク目を撮影する。う〜む。めずらしくハルさんが芝居に対して、俳優に意見を言う。本当に珍しいのだ。10年一緒にやってきて初めてじゃないか? ハルさんの意見は要約すると「今のつかさの芝居ではAV女優に見えない」だ。世の男どもはAV女優という存在に散々お世話になっている。それこそガキの頃からオッサンになっても。女とは何か。性とは何か。エロとは。おっぱいは宇宙か。愛とは何か。皆アダルトビデオの画面ごしに学び、成長してきたのである。それだけにAV女優というものに対する強固な「イメージ」があるのだ。ハルさんとAVについて話したことは記憶にないが、見ていないはずはない。多分好きだ。僕も、大好きである。ハルさんは僕が言わなければいけないことを代弁してくれたのかもしれない。じゃあ、どうしよう。


まず、相手役を呼ぶことにした。雅くんに再登場願った。で、段取りを説明するのはやめた。ほんとうにセックスをしている体裁でやってくれ。で、互いに熱量を高めて、イキたい時にイってくれ。ある意味、演出を放り投げて役者に任せたのだ。雅くんがなかなかのエスっけを見せてくれてとてもエロいものになりました。ハルさんも納得の表情でした。オッケイ。

 

19:00~

最後の撮影。内容は明かせないが泉光典さんである。なんというか、世にもおぞましい映像が撮れた。15年も付き合いのあるエース俳優さんにこんな仕打ちをしていいのか。まあ、泉だからこんな役オッケーしてくれたのか。演出部は演出部で、白身が足りない、と片栗粉を混ぜてたり創意工夫をしていたらしい。演出してんな〜。

 

19:30~

クランクアップ。一息つく間もなく、編集部・塩谷氏がやってきて編集場所を作れと要求する。まだ人の汗と体温と栗の匂いのする撮影現場の和室の机に編集環境をセッティングする。撮影済みデータをコピーする。

 

20:00~

泉さんを洗面所に案内する。何入ってんのコレ?片栗粉です。ふっざけんなよ!笑顔で笑いあった。じつは泉さんは怒っていたのかもしれないが、撮っちまえばこっちのもんだ。

 

20:30~

皆着替えたり、機材バラしたり。どこか適当なところで打ち上げしていてくれとお願いする。もはや僕には打ち上げ場所を提案するような脳の容量が残っていない。みんなに感謝するフリをしながら、とっとと帰ってくんないかななどと思っているのだ。帰ってくれないと掃除できないからね。うちはシェアハウスなんでリビングとかの共用部分は綺麗にしておきたいのですよ。ほぼ全員が打ち上げに行くようだ。セカンド助監督としてついてくれた森岡怜奈ちゃんだけは疲れたので帰ると言う。彼女は僕の大学の直接の後輩だ。女のコに擬似精液をもっとガンガン飛ばせ!無茶苦茶なことをやらせちゃったなあ。昼飯も夜飯も抜きだったので手にそっと2億円を握らせて送った。ありがとうございました。

 

20:50~

編集場所を覗く。絵と音のシンクロ作業をしていたがほとんど終わっていた。は、早い。

 

21:00~

皆打ち上げ場所に行ったのでリビングの整理をしたり掃除したり洗濯したりした。現場や支度場をキッチリバラしてからでないと落ち着いて次の仕事にうつれないからね。あと演出部さん、キッチンの洗った食器置く所に擬似精液と注射置くのはやめてくんねえかな。

 

21:20~

編集場所を覗く。塩谷氏、もう荒編集を始めていた。朝までにラフ・カットを作ってカラコレ用にするのと音楽の原さんに送りたいと思っていたがこれだけだともっと早くに送れるかもしれない。しばらく塩谷氏にまかせよう。

21:40~

3年ぶりくらいに風呂に入ったような気がする最高。

 

21:45~

まだ風呂に入っている。幸せ。富士山の山小屋で働いていたことがある。標高3000メートル地点なので水がない。2ヶ月間風呂に入れない。仕事が終わって下山して温泉に入った時の感動たるや。スタッフキャストは打ち上げをしていて、編集部は編集している。監督はのびのびと湯船につかっている。王侯貴族か。

 

21:50~

風呂から上がって体重を量ったら、3キロ痩せていた。「48時間映画祭ダイエット」を皆に提案していこうと思う。

 

22:00~

打ち上げ会場を寝間着姿でひやかしに行く。酒は飲まない。48時間以内は飲まない、と塩谷氏と固く誓い合ったのだ。提出した時の美酒を楽しみに頑張るのだ。ウーロン茶で乾杯し、スタッフキャストに感謝の意を伝える。どれだけ言っても尽くせぬ感謝である。だって、ノーギャラだぜ……。おいら、こんな過酷な現場はお金積まれてもあまりやりたくないぜ。そんでさ……出来た映画が『裸で汁を出すだけの簡単なお仕事です』だよ!?

 

23:00~

打ち上げ会場に22億円ほど置いて家に戻った。塩谷氏、仕事が早い。9分のラフカットがもうできてた。観る。面白い。く、くだらない……。テンポや使うカットが違う、とか色々意見はあるがまあ面白かった。立会い編集をしてちょっと直す。

23:50~

ラフカットができた。尺は8分20秒くらい。まあ、すぐ詰めれる時間だ。書き出して音楽の原夕輝さんに送る。今夜はこれくらいにしましょう。塩谷氏、今晩は我が家に泊まる予定だったので、風呂場を案内する。ちょっとコンビニ行ってきますというので何かと思ったらビール買うんだって。「48時間飲まないんじゃなかったんですか!」「飲みませんよ。ビールは入眠用です」「ビールは酒じゃないから運転しても大丈夫、って言う田舎のオッサンか」

24:20~

泥のように眠った。

 

12/1(日)

 

3:30~

死んだように眠ったはずが蘇ってしまった。まだ緊張状態にあるからだろう。眠りが浅い。塩谷氏はまだ寝ているだろう。さて、何しよう。

4:00~

近所のオリジン弁当で野菜炒め弁当と豚汁を食べる。まともなものを食うのは何日ぶりだろう。

4:30~

作業再開は9時からと塩谷氏には言ってあったので、4時間半も空いてしまった。あの過酷な48時間映画祭でこんな暇があるなんて。そういえば昨年は自分で、脚本書いて、編集して、音楽つくったんだった。それに比べたら楽ちんだ。全員プロを呼んでいるからね。ウッシッシ。

5:00~

タイトルデザインを考える。近所のセブンイレブンに行ってタウンワークをもらってくる。求人情報誌のデザインを参考にするのだ。勢いでバババと撮ったスチルも、面白いのがいっぱいある。

6:00~

業界初!汁男優専門派遣会社・ジュースアクターズ株式会社 というニセ会社の募集要項、という体裁でデザイン作業を進めて行った。イラストレーターのファイルで作っておけば、映像ソフトに取り込んで加工するのも楽だ。ジュースアクターズ(Juice Actors)はこの映画の英題だ。ジュースアクターで「汁男優」的な意味になるらしい。チラシデザインがある程度できた。プリントする。

7:00~

風呂に入り、洗濯をする。なるべく映画の制作中も、こういう日常的な行為を絶やさないようにしたいものですね。映画づくりは何も特別なものじゃない。料理洗濯風呂掃除映画。撮影に入ると、買い物も、映画を観に行くことも、家族と過ごすことも、ゆっくり風呂に入ることも何もできなくなる。そう先輩からは教わった。そう、先輩は実践している。毎日車で寝る、家に帰って風呂に入ってすぐ出発。なんて当たり前。


はっきり言って、間違っている。40にも50にもなろう大人がこんな働き方をしていて続くはずがない。後輩にこんなライフスタイルを強いるなんて、自分で自分の首を絞めているだけだ。本当に自分の仕事を愛していて、映画作りを天職だと思っているのならこんな働き方は今すぐやめるべきだ。続かないから。新人だってなかなか入ってこない。

こういう長時間労働に陥るのを防ぐ方法がひとつある。時給制にするのだ。たぶん、予算は2〜3倍に膨れ上がるだろう。年間800本公開されているという邦画も半分から1/3に減るだろう。


ま、実践するプロデューサーはほぼいないだろう。映画作りを愛しているプロデューサーって実はあんまりいないと思う。いや、愛しているって言うよ。恋人の前では。それって詐欺師の手法やけどね。


プロデューサーは詐欺師です。プロデューサーの仕事の本質は詐欺なんです。映画は形あるものじゃない。手にとってながめられるものじゃない。まだ作ってもいないものに対してお金をもらって作るんだから、その口調は嘘と誇張と自己顕示欲が混じる。だからプロデューサーっていうのは誠実でないといけない。連絡がマメでレスが早い人の方が誠実に思われやすい。


詳細は避けるが、今年だけで僕は2人のプロデューサーに騙された。プロデューサーを名乗る人間全員を憎み、呪い殺したかった。ま、プロデューサーと言っても独立系の人間と大資本系の人間がいて、前者は特に気をつけないといけない。詐欺師レベルが高い。他人のお金でビジネスする人間と、自分の会社の資本でビジネスする人間との違いだ。前者の方が発言が適当なくせに責任を取らない人間が多い。資本の担保がないプロデューサーの発言は聞き流していい、とまで思っている。それでも誠実であればいいんだけどね。独立系の中にも誠実な方はいる。そういう方は、しっかりと断ってくれる。「うちは無理」。これは優しさなんです。


僕は自主映画を何本も作ってきて、プロデューサーがいたことはない。これからも自主映画ではプロデューサーは不要だと思っている。プロデューサーと監督を兼ねるのが一番理想の映画作りだから。監督主導の映画作りっていうこと。もちろん、誠実なプロデューサーとなら、仕事をしたい。プロデューサー側も、有能で客を呼べる監督と仕事がしたいだろうから、そこは、僕が頑張るしかないと思う。


いずれにせよ僕を騙したあの2人のプロデューサーには雷が落ちてきて感電死して欲しい。あんな様子じゃあ、いずれ仕事はなくなるだろうけどね……。彼らがあがいて僕以外の被害者をつくるのは業界的には大迷惑だから、とっと引退して雷に撃たれてください。

 

8:30~

編集部屋・兼・塩谷氏の寝室に入り、ゴミ捨てをする。ビールの空き缶が山のように積んである。一晩でこの量を飲んだのか……早く次の映画作りをしないと塩谷氏の内臓が持たないかもしれない。

9:00~

編集再開。あらためて観る。あれをこうしたい。これをああしたい。1の指示で10の結果が返ってくる。素晴らしい。アル中だけど最高の編集マンだ。

9:30~

ハル氏がパソコンとモニターを持ってやってくる。カラーグレーディングのための環境を整える。モニターを置き、色補正用のコントローラーを置き、MacにドライバとDaVinci Resolveをインストールする。今回撮影に使ったカメラはSonyのFS7 mark2にキャノンのレンズ。s-log3という撮影ガンマで撮った。これは後処理のために階調を多くキープする方法だ。つまり、ポストプロダクションで、カラーグレーディング(色補正)の作業が必須になることを意味する。


カメラマンの仕事はデジタルカメラの時代になって確実に増えた。フィルム時代はラボ(現像所)に任せてカメラマンは最後に確認するだけでよかったのだが、デジタルシネマカメラが普及してコストが下がり自由度が増えるとともにカメラマンがやらなければならない仕事の量も増えてしまった。

もっとも、ハル氏は本業がスチルカメラマンだ。スチルの方がデジタル化の波が早かった。撮影後の色補正も含めて自分の仕事だ、という感覚は強い。実際、ハルさんの色彩感覚は独特で、強烈だ。色が綺麗という評価は本当に多く、僕の映画の評価を底上げしてくれている。ありがたい。

10:00~

編集を追い込む。音楽はまだ届かない。が、原夕輝さんには「ワルツ」でよろしく。とだけは伝えてある。どんな曲が来るか分からないが、手持ちのライブラリーの中で映画音楽かつワルツの曲があったのでそれを映像にあて込んで見てみる。大爆笑。よし、いける。

11:00~

編集でも「ヨリ」のショットをなるべく排除していった。ヨリはここぞというところでしか使う必要はない。編集は心理学だからね。長回しも積極的に使った。


編集点とは、「意味が終わる場所」だと考えている。退屈になったらカットを割る、というのとはちょっと違う。ショットには意味がある。ストーリーを伝えるもの、感情を運ぶもの、それ以外にも色々な意味を持たせられる。その意味が観客に伝達し終わった時が、そのショットの寿命である。めまぐるしい最近はやりの編集はどうも苦手だ。かと言ってかったるい編集も嫌いだ。ちょうどいい塩梅のところがある。その、人に伝えるのが厄介な感覚を、どうにか理論化したのが「意味が終わる場所が編集点」という理論だ。


編集というのは不思議なもんで、監督と編集マンが膝突きつけあってあーだこーだやっていると、2人の生理が揃って来るのだ。あ、ここでカットだな、っていうポイントが2人とも一緒になってくる。こうなってくるとあとは早い。……というわけにもいかないのが映画の恐ろしいところで。

 

12:00~

グレーディングが終わった。早い。映像を入れ込んで見てみる。いい色!特になおすところなし。前半の寒そうな色もいいし、エンドロールの金色に輝くショットの色もいい。「やりすぎかな」なんてハルさんが言うけどもバッチリです。

12:30~

そろそろ尺を出さなきゃいけない。48時間映画祭には尺の規定、エンドロールの規定、入れなきゃいけないテキストなど、色々ルールがある。毎年、ルールを破っているチームもいるようだけど、僕はルールは守った上で自由にやるのがいいと思っているのでルールはきっちり守る。


編集が詰まってくると逆説的に、編集ではどうしようもできない、芝居が気になってくるところが出てきて、頭を掻き毟り、なぜOKを出したんだクソッタレ監督が、と自分を呪うしかない。これは、俳優は悪くない。OK出した監督が悪い。編集と言うのは本質的には「余分なところを取り除く」作業なので、これはいらん、あれはいらん、ってやっていくしかない。尺を借り込む作業で、いろいろ芝居を切らざるを得ないところがある。尺を出す上で、自分自身で編集しているとなかなか判断できなかったりするんですよ。編集マンが冷静な目でこれはこう言う意図だからここは要らないでしょう、とかはっきり言ってくれると目が覚める。尺が出た。7分54秒。昨年の『ラジオスターの奇跡』は8分ギリギリだったので、6秒まきました。ピクチャーロック。原さんに映像送る。

 

13:00~

昼食。

13:30~

塩谷氏はエンドロールのテロップワークをヌチヌチいじくっている。ハルさんにはちょっと修正が出た絵の色補正を追加してもらった後、チラシ用の画像の色補正もしてもらう。おお、ええ色や。空の青と黄金色のスキントーンが気持ちいい対比。絵が高級なだけにバカバカしさがすごい。だって白いブリーフ姿のおっさんが4人、カメラ目線でキメ顔してるんだよ。

14:00~

グレーディング終わり、ハルさんが帰る。お疲れ様でした。ありがとうございました。……来年もやってくれるかな?

15:00~

石塚達也くんが車や機材を返却するため家に来る。完尺のでた映画を観てもらう。いや〜おもしろいですね。なんて言っていた。

15:30~

原さんから音楽が届く!早速タイムラインに乗せる。おお、高級感あるピアノの音。ちゃんとワルツだ。オープニングっぽい。おお、橋野氏がうらやましげなところで曲が入って、いい感じに恨めしげになっている。ちゃんと主人公が立ち上がった。キレるところにも曲が!いい。エンドロールの曲。爆笑。ちょっと音色がカタすぎるかな〜。全体的には最高でした。プ、プロの仕事や〜。すげ〜。塩谷さんと一緒に聞き惚れてました。

塩谷さん「高級感がすごい。深田晃司の映画みたい」「いや原さん、深田組やってますからね」「え、まじすか」マジなんです。『本気のしるし』めちゃめちゃ面白いんで是非に。原さんに絶賛のご連絡と、修正点を1点伝える。なんと原さん、効果音も作ってくれたそうです。射精の音。

 

16:00~

「射精の音」が届く。そもそも射精して音が鳴るわけあるかい!これは手塚治虫が発案したと言われる静寂の音「シーン」みたいな、哲学的な問題の音である。鳴るはずはないのだが、鳴ってないとなんかさみしい。シーン4の最後でコサカが殴りかかろうとしたら漏らしちゃう、って言う芝居があって、そこに音が必要ではあるのだ。原さんの作ってくれた音はちょっと機械っぽい音。アニメ的。惜しい!なんか違う。狭い部屋で、男ふたりで、射精音とはこうだ。バキュンだ!とかエロ漫画ではドピュ、だとか、いや違う。どっぴゅんだとか、バシュー!だとか頭のおかしい会話が繰り広げられていた。そんなさなかにAV女優カグヤ役のつかささんが入ってきたので僕らは顔を赤らめることしかできなかった。

16:20~

「射精の音」についての真剣な議論はまだ続いていた。どういうわけだかつかささんも参加していた。

16:30~

まだ「射精の音」についての議論は止むことはなく、夜は更け、やがて朝がきた。

16:45~

自分の効果音ライブラリーから「ぴよん」みたいな可愛い、テレビっぽい効果音があって、それを映像にあててみたら一番ハマったので採用した。原さんが作ってくれた射精音ももったいないので予告編に使用した。

17:00~

原さんから修正したエンドロールの曲がきた。そうそう、これこれ、温かみのある音色が欲しかったのよ。1注文すると10返ってくる。最高の作曲家ですな。射精の音まで作ってくれるし……おっさんたちが皆、童貞の中学生の頃にもどり、射精というのはこういう音のはずだ!って真剣に議論していた。素晴らしく輝いている。あほや。

18:00~

エンドロールも終わり、音も張った。全ての要素が出揃ったので、また通しで見る。つかささんはじめての鑑賞。どや? お、笑ってる。ラスト、爆笑している。安心、女の子でもウケるんだな。ま、つかささんがふつうの女の子かと言われるとだいぶ違うんだが……。僕は編集現場にいろんな人が来て見てもらって意見を聞くのが割とすきだ。意見を言う方も注意してもらえると嬉しいが。


今回、MAには出さないので塩谷さんのPremiere上で音のバランスを調整。そんなに複雑なことはしていないが、グッと見やすく、聴きやすくなったはず。では、完成!!!!!

18:30~

書き出しが終わり、USBメモリーにデータをコピーする。最後のデータチェック。よし。編集室をざっくり片付け、提出する資料などを持って、家を出た。

18:45~

中野ZEROへ向かう途中で、ビールを買った。データを提出したら飲むんだ。うへへ。

18:55~

中野駅前にイケメン撮影部の田邊氏がいた。「田邊まだ仲良し組」のチームリーダーだ。彼とは『鈴木家の嘘』の撮影現場で一緒に働いた仲だ。メンズノンノだかのモデルをやっていて、髪はアフロで笑いも取り、かつ無茶苦茶仕事ができるすごい後輩だ。多分、超、モテる。すべてを持っている。悔しいので田邊氏の提出用USBメモリーを粉々に破壊した。

19:00~

中野ZEROに着いた。「DEADMANS」の月足氏がいた。なんと5時に1番手で提出したという。彼とも古い仲だ。彼は照れることなくベタな作風を押せる作家で、仕事の幅も広く、正確で早い。かわいい嫁さんもいる。おれにはない、すべてを持っている。とりあえず授賞式には来れなくなるように足を折っておいた。

19:05~

「CNSS」の牛丸亮、加賀賢三、榎本桜、高橋一路あたりの連中がいた。もう飲んでやがる。余裕ぶっこきやがって。だが多勢に無勢。しかも喧嘩慣れしている連中が多い。しょうがない。ひとりづつトイレに呼び出して目潰しをした。今回の作品が遺作だな。

19:10~

ライバルをあらかた潰したので、安心してデータを提出する。昨年はスーパーギリギリで、提出時間になってもサブのデータがまだコピー中だった。なんか提出が認められてありがたく作品賞もらってFilmapaloozaまで行かせてもらった。今年は余裕で提出だな。受付のオネエちゃんをからかう余裕するある。USBメモリーの代わりに缶ビールを提出したら見事にスルーされた。無言でUSBメモリーを提出した。そしたらこう言われた。「書類が足りません」

19:30~

締め切り!今年は47エントリーがあって、45作が時間内に間に合ったそうだ。我々StoneRiverはデータは提出できたものの書類を書き忘れていた。泣きながら会場で書く。んで、乾杯。ああうまい。世界でいちばんうまいビールを飲んでいるのではないだろうか。

19:45~

皆の前でなんかひとこと言わなくちゃいけない局面。「今年は余裕があったんでチラシ作ってました」などとうっとおしいことを言って嫌われる。みなさまお疲れ様でした。

20:30~

一軒め酒場で打ち上げ。一軒めで終電まで飲む。最高だった。あとは作った映画がどう評価されるか。ただ、笑っていただければ幸いです。長い長い文章、最後までお読みいただきありがとうございました。なお、この文章はフィクションも多いですが、あらかた本当のことが書いてあります。

 

STONE RIVER 監督・石川真吾

 

 

 

短編映画『裸で汁を出すだけの簡単なお仕事です。』

12/15(日)14:30より上映

会場:なかのZERO 西館 小ホール

東京都中野区中野 2-9-7

48時間映画祭プレミア上映会

入場料1000円

 

出演/橋野純平・横須賀一巧・小坂竜士・長崎達也・柳生はる奈・宮本晴樹・雅マサキ・つかさ・泉光典

監督/石川真吾 | 撮影監督/川口晴彦 | 撮影助手/藤田恵美 | 録音/小牧将人 | 照明/堀口健・阿部陵亮 | 助監督/杉原涼太・森岡伶奈 | 制作/石塚達也 | 脚本/木島悠翔・石川真吾 | 編集/塩谷友幸 | 音楽/原 夕輝 | 8分 | コメディ | This film made for the 48 Hour Film Project 2019. |  ©︎2019 STONE RIVER

 

【ストーリー】

201X年、空前の人手不足により、AV業界に革命が起きた。汁男優専門派遣会社の誕生である。その期待の新人、岸島力(31)の初現場は河原での屋外プレイものであった。12月の寒風の中、パンツ一丁で震えただ待つ岸島。一方その頃、AV監督が行方不明になり現場は大混乱をきたしていた……

 

【予告編】


【予告】裸で汁を出すだけの簡単なお仕事です。/Tokyo 48hfp 2019