FilmMaker Ishikawa Shingo

「Hairs」「Food 2.0」「スティグマ-STIGMA-」「裸で汁を出すだけの簡単なお仕事です。」「ラジオスターの奇跡」「蘇りの恋」「カササギの食卓」「出発の時間」などの映画監督、石川真吾のブログです。

不安と眠気の『Food 2.0』48時間メイキングPart4 そもそも48時間映画祭とは何か?

 

 

6月12日なかのZEROでの上映は盛況のうちに無事終了しました。ご来場いただいた皆様、ありがとうございました。このメイキング記事は本来、この上映のための「宣伝」だったのですが、わたしの筆が遅く、上映に間に合いませんでした。次世代の48時間映画祭フィルムメイカーのため、わたしのしんどさを分かってもらうため、引き続き書いていきます。だって、だって、ツラかったんだよぉ……。

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前回までの記事。

不安と眠気の 『Food 2.0』 48時間メイキング Part1 仲間集め編 - FilmMaker Ishikawa Shingo
不安と眠気の 『Food 2.0』 48時間メイキング Part2 仲間集め編② - FilmMaker Ishikawa Shingo
不安と眠気の 『Food 2.0』 48時間メイキング Part3 仲間集め編・完 - FilmMaker Ishikawa Shingo
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スタッフキャストのLINEグループを作る。

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クルーにルールをあたらめて説明した。

 

B. 全ての創作作業は『公式な48時間』の中で行なわれなければなりません。コンペティション開催期間以外のどのような事前の創作作業も禁止します。創作作業は下記の項目に限ったものではありません。

  • シナリオ作成
  • リハーサル
  • 衣装、セットデザイン
  • 撮影
  • 編集
  • サウンドデザイン
  • レンダリング
  • テープや他のメディアへの書き出し

 

C. 『公式な48時間』に先立って行える作業は、

  • クルーを集める
  • 役者を集める
  • 機材の確保
  • ロケーションの視察、確保


F. 各参加チームには映画の中で扱われるお題として、ジャンル、キャラクター、小道具、台詞が割り当てられます。

お題のキャラクターは必ず、それがお題のキャラクターであると判別できる表現のもとで、画面に登場する必要があります。ただし、お題のキャラクターの名前を誰かが言ったり、文字を用いて名前を画面上で紹介する必要はありません。
お題の小道具は必ず画面に登場しなくてはなりません。お題の小道具の"画像"は許可されます。
お題の台詞は一語一句完全に使用されなければなりません。使用法は台詞として、歌の歌詞として、又は文書でもかまいません。

 

G. 全てのキャストとクルーはボランティアでなければなりません。

 

ⅲ. 各映画のエンドクレジットは最大60秒までです。その60秒はルールKにあるように、映画本編に追加されることになります。つまり、本編7分、60秒のクレジットが追加され、映画全体の長さは最長8分になります。

 

審査基準:
芸術的評価(ストーリー、創造性、娯楽性、など)(45%)
技術的評価(30%)
お題の遵守(25%)

48hfp.fffproduction.com

 

そしてここが重要。「ジャンル」。

Genre Group #1: 2021

  • アクション/アドベンチャー
  • コメディ
  • ダーク・コメディ
  • ドラマ
  • ファンタジー
  • フィルム・ノアール
  • フィルム・デ・ファム(下記参照)
  • 勝手が違う/居心地の悪い/場違いな(下記参照)
  • ホラー
  • モキュメンタリー
  • ロマンス
  • SF
  • スーパーヒーロー
  • スリラー/サスペンス
  • ウェスタ

Genre Group #2: 2021

  • バディ・フィルム
  • 成長物語
  • 食べ物
  • 休日/祭日
  • 多世代もの
  • ミュージカル
  • ミステリー
  • 時代物
  • リベンジ
  • ロードムービー
  • 学校もの (下記参照)
  • ソープオペラ/テレビ小説
  • 社会的主張 (下記参照)
  • スポーツ
  • タイムトラベル 

 

ジャンルは#1と#2の2つのくじを引き、どちらかを選ぶ。(両方も可)

地雷みたいなジャンルは ウエスタン、スーパーヒーロー、時代物、スポーツ、ミュージカルあたり。超やべえ・・・

 

 

わたしは

2018年 は  ミステリー   アクション/アドベンチャー
2019年は    喜劇    ダーク・コメディ

 

だった。比較的くじ運が良かったと言えるだろう。自主映画体制でも作れそうなジャンルだし、ミステリーもコメディも制作したことがあったからだ。

時代物とかウエスタンを引いたチームは、過去作を振り返ってみるに、正攻法でカツラや刀、テンガロンハットと銃を用意してやるチームも、大喜利的にひねってくるチームもいた。が、結果としてどちらもあまり面白いものではなかった気がする。

身も蓋もない言い方をするが、48時間映画祭で上映される作品の8割はクズである。8割はまったく面白くない。もしくは技術レベルが低くて見るのが苦痛である。

そもそも、48時間以内にショートムービーを完成させてしまうということのハードルが異常に高い。わたしも最初に聞いたときは狂気の沙汰だと思った。

その上、この"お題"(ジャンル、キャラクター、小道具、台詞)をこなさなければならない。

そして更に”面白くなければならない”のだ。こりゃ無理ゲーだよ……。

 

わたしの48時間映画祭の捉え方

商業映画監督になるためのステップ、実験室だと思っている。

商業映画監督に求められることは多い。ジャンルや原作のオーダーから始まり、芸能事務所や製作委員会のパワーバランスをかいくぐり、スタッフをひとつにまとめ、俳優部のご機嫌を取り、予算を守り、納期を守り、面白いものを作り、移り気な観客の空気を読んで、ヒットさせなければいけない。

商業映画監督はとんでもなくたいへんなお仕事だ。ストレスでハゲるか太るか痔になるか痛風になるのもやむなしだと思う(事実そういう先輩は多い)。ヒットしても次の仕事があるかは分からない。疲弊している先輩監督や、撮れなくなった/撮らなくなった先輩監督たちの姿を見るとほんとうにさびしい。

ボロボロの先輩たちの背中を見るにつけ、わたしは「自分の作品を作りたかった」のであって「商業映画監督」でありたかったわけではないんだよな……。一生自主でもいっか、などと思ってしまうこともある。まことに修羅の道である。

とはいえ、自主制作でやることの限界も常に感じてはいる。より多くの観客に観てもらって、かつ、生活していくには、「多彩なオーダーに応えられる商業映画監督」であることがマストであろう。

つまり、48時間映画祭のお題や時間制限って、そこまでキツくないんじゃないか。などと思うわけだ。世の監督さんたちはもっともっとストレスフルな中で闘っている。

 

くじ引きで決まる「ジャンル」。これはプロデューサーからの依頼だと思えばよろしい。

「キャラクター、小道具、台詞」、これは「原作」や「原案」だと思えばよろしい。

制限の中で創造性を発揮する。これ、意外と映画の本質的なところを突いている気がする。なんらかの「枠」があったほうが作りやすいのだ。そして、なんらかの「枠」があったほうが観客が見やすい。その「枠」がジャンルである。

ジャンル映画論

師匠の榎本憲男さんには「ハリウッド大手の映画会社が、大衆の好みに合わせて、型にはまった映画を作った。この型がジャンルである」と教わった。つまり、観客の欲望に応えて細分化されていった、安定したビジネスを約束する「物語の形」だ。

映画ジャンルの最初の基本形 (「アナトミー・オブ・ザ・ムービーズ」より)
・西部劇  the Western film
・恋愛映画 the Romance film
・喜劇映画 the Comedy film
・ミュージカル the Musical film
SF映画 the Science Fiction film
・冒険活劇 the Action Adventure film
・ホラー映画 the Horror film

ここからサブジャンルが発展し、混じり合って細分化されていく。

日本映画は、50%がアクション映画、残り50%が恋愛映画とドラマであった。
ドラマはどのジャンルにも属していない、ノンジャンルのヒューマンドラマだ。

映画の世界は、当てた人に「似たようなもの」を依頼するという傾向がある。一度ホラー映画でハネるとずっとホラー映画の依頼が来る。恋愛映画で当てると恋愛映画の依頼ばかり。青空映画で当てると青空映画の依頼ばかり。アクション映画で当てるとアクション映画の依頼ばかり。。。

このような状態は映画職人としては好ましい状況なのかもしれない。しかしわたしは同じものをずっとやることができない。ジャンル映画は職人の世界だ。わたしは職人というよりはアーティストだ(言ってしまった……恥ずかしい)。気分にムラがあり、言うこと、やることがコロコロ変わるわたしのような人間に職人ジャンル監督は難しい。

そもそも、自分にどんなジャンルが向いていて、どんなジャンルを撮れるひとなのか、分からない。というわけで、ランダムにジャンルを押し付けられる48時間映画祭はいい練習になるのじゃないかと思っている。

助監督修行が監督になるコース?

日本映画において、助監督をやることが「監督になるコース」だという。これはもうかなり破綻している。60歳オーバーになっても助監督をやってらっしゃる方も数名知っている。というか、助監督をやる方が「食える」のである。

自主映画をつくって、賞でも取って、それなりの観客をつかんでいる若い監督に低予算で撮らせたほうが効率的だ、とそう判断するプロデューサーがいる。そのかわり、その若い自主映画あがりの監督は、ずっと、「同じジャンル」を撮らされる。適切な例かわからないけど、清水崇さんはホラーの仕事ばかり来るそうだが、本当はメロドラマをやりたいんだそうだ。しかし、ホラーの発注があれば、腕のある人だから、怖いホラーをつくってくれる。だから仕事が絶えない。

今泉力哉さんのように、「撮りたいのも撮れるのも恋愛映画」っていう奇跡的な方は例外だ。あの人は幸福なんじゃないだろうか。Twitter見てるとたいへんなように見えるが、贅沢な悩みだ。嫁も子供もいるし。羨ましい。

ゴリゴリの助監督業をやっている方は本当に尊敬する。わたしも助監督の仕事をたまにやるが、連打では受けないようにしているし、本当に面白い企画・シナリオでない限りなるべくやらないようにしている。本っ当に疲弊するからだ。

演出部というのは「根性」を見られているのだ。

演出部というのは、監督からも、プロデューサーからも、俳優部からも、制作部からも、メイク部からも、衣装部からも、美術部からも、照明部からも、撮影部からも、怒鳴られ、文句を言われ、期待してるよとかなんとか甘い言葉をかけつつパンクしそうな仕事量を押し付けられ、根性を試されて、下積みをしながら成り上がっていく。しかしそれは幻想だ。上の世代の映画監督たちは引退しないし、企画はなかなか成立しないし、そもそも映画監督という職業が供給過多だ。

演出部は「監督になれるぜ〜」というニンジンをぶら下げられて馬車馬のように働かせられる奴隷のようなものだ。

演出部に「おもしろい映画を撮る才能」なんて試されてないし、求められない。現場の中心として、各部をまとめ、進行していくのが仕事だ。そして、めっちゃくちゃ忙しい。映画・ドラマ業界の人手不足はたいへん深刻であるが、演出部のなり手は少ない。次から次へと仕事がある。体育会系な雰囲気が残る業種なので先輩からの次の仕事の誘いは断れない。

だから、監督になる上で必須の、シナリオや編集やジャンル映画の作り方を学ぶ時間がない。

たとえ学ぶ時間を確保したとしても実践できない

映画において、理論を学んでも、いい映画をつくれるという保証はどこにもない。実践あるのみだと思う。今の商業映画の監督は失敗できない。1作1作、確実に当てていく必要がある。

 

(いちおう補足すると、わたしは監督になりたいが才能がない人は助監督をやるべきだと思っている)

 

わたしは48時間映画祭に「失敗しに」来ている。

だから「出たとこ勝負」でいいやと思っている。

敬慕している黒沢清監督は「映画作りはすべて準備で決まる」と言っていて、完全に同意する。商業映画作りは「出たとこ勝負」ではいけないのだ。

だから自主映画で「出たとこ勝負」をしていっぱい負けて学んでおく

「出たとこ勝負」で「失敗したのか、成功したのか?」。自主映画と商業映画の両方の領域で活動する中途半端なわたし、まだ何者でもないクズのわたしの今回のチャレンジです。

すっごい文字数書いた気がするけど、まだ48時間映画祭が始まってもいない。

このエントリー、まだ続く。

 

 

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ストーリー/行方不明になった父を探す女子高生。ようやくたどり着いた研究所で食べさせられたのは、世界を救うおにぎり。

 

出演/成海花音  横須賀一巧  免出知之 アライジン 柳生はる奈 美南宏樹 SHINYA 児玉アメリア彩

監督/石川真吾 脚本/宮本晴樹・石川真吾  撮影監督/ 江口裕祐  撮影助手/佐藤 遊・船場 幸平  録音/飯島花衣
美術/定塚由里香  編集/石川真吾  音楽/原 夕輝  8分/ホラー  ©2021 STONE RIVER

This film was made for the 48 Hour Film Project.
www.48hourfilm.com



チーム名【STONE RIVER】
作品名『Food 2.0』

#48時間映画祭
#48HFP
#Food2・0
48hourfilm.com/tokyo/