FilmMaker Ishikawa Shingo

「Hairs」「Food 2.0」「スティグマ-STIGMA-」「裸で汁を出すだけの簡単なお仕事です。」「ラジオスターの奇跡」「蘇りの恋」「カササギの食卓」「出発の時間」などの映画監督、石川真吾のブログです。

不安と眠気の『Food 2.0』48時間メイキングPart6 シナリオづくり編①


不安と眠気の 『Food 2.0』 48時間メイキング Part1 仲間集め編 - FilmMaker Ishikawa Shingo
不安と眠気の 『Food 2.0』 48時間メイキング Part2 仲間集め編② - FilmMaker Ishikawa Shingo
不安と眠気の 『Food 2.0』 48時間メイキング Part3 仲間集め編・完 - FilmMaker Ishikawa Shingo
不安と眠気の『Food 2.0』48時間メイキングPart4 そもそも48時間映画祭とは何か? - FilmMaker Ishikawa Shingo
不安と眠気の『Food 2.0』48時間メイキングPart5 お題とジャンル発表 - FilmMaker Ishikawa Shingo

お題が発表され、われわれはスタッフキャスト合同でのシナリオ会議にはいった。このやりかたでのシナリオ開発は3度目ということもあり、作業は順調に……進まなかった。

5/29(金)

19:15

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キックオフ会場から会議室に戻る最中こんなLINEが。成海花音さんが指を怪我したので冷やすものを買ってきてくれ、と。
な、なにごと!?

19:30

会議室に入ると、成海花音ちゃんが痛がっている。怪我はまあ、、、大したことない。ほっ。冷やして患部を圧迫すればそのうち血は止まるだろう。

しかし相当痛かったようで、テンションはだだ下がりである。さっき会った時とは別人だ。

19:40

出席者は脚本・宮本、美術・定塚、成海、児玉、アライ、横須賀、免出、わたしの8人。

いい具合の人数だ。合議制でシナリオを作る際、大事な点が2つある。

①「冷める発言をするやつ」を入れないこと
②ファシリテイトが肝心

①はブレインストーミングの原則、「否定しない」と近い。「どうすんの? 時間ないよ」とか煽るだけ煽ってアイデアは言わない人間は、こういうやり方に向いてないのでお呼びしてはいけない。

そもそも前回は参加者が14人もいたので収集がつかなかった。今回の8人っていうのはとてもよい人数だと思う(ブレインストーミングは10人以下が望ましいとされている)。

②ファシリテイト
ファシリテーターとは、発言を促し、意見を整理、集約してゴールに導く進行役、だそうだ。そう、つまり、まとめ役がしっかりまとめないと、会議はただの雑談と化す。それはそれで楽しいのだが、我々はあと8時間くらいでシナリオをあげないといけないのだ。

19:45

俳優部の自己紹介も兼ねて「やってみたい役」を聞いていった。「う〜ん、何でしょうね〜」みたいな回答が多かった。

そう、この質問は、役者としてのスタンスが鮮烈に出る。「与えられた役を一生懸命やるだけです」みたいなスタンスの人もいらっしゃる。ゆえに、人によってはあまり盛り上がらなかったりする質問だ。初参加のひとだらけ(そもそも初対面のひともいた)なので、自分をそこまで出さず、「このクサレ監督はおれをどう料理してくれるんだァ!?」みたいな目でわたしを見てくる。料理人と食材の真剣勝負である。表面的にはにこやかであったが、心の中では巌流島であった。

20:00

ひととおり自己紹介タイムが終わり、なんとなく人柄や、やってきた役柄、やらせたら面白い役柄などが見えてきた。脚本家が俳優と会って会話しておけるこのシステムのいいところは、「当て書き」が比較的容易であることだ。

次のステップとして、「お題」をホワイトボードに書き出していった。

ジャンル:ホラー・食べ物
キャラクター:八木丘真二郎・聡子
職業/属性:治験モニター
小道具:トランプ
台詞:「今さらなんだよ。」

治験と激変した世界

まず、治験に参加したことがある人間がうちのチームではわたしだけだった。一般的には人体実験と治験の違いや、二重盲検法を知らなくて当然だ。しかし、コロナで世界は一変した。治験、ワクチン、偽薬なんて言葉がニュースに踊る。「濃厚接触」なんて言葉は、コロナ以前はアダルトビデオのキャッチコピーでしか見なかった。

世界はたったひとつのウイルスで激変した。対応できる政治と対応できない政治で明暗が分かれた。そして常にその変化に取り残される個人がいる。映画というものは「世界から孤立していくその個人」に常に寄り添うべきだと思っている(前作『スティグマ』はこのような意識で作られております。ぜひご覧を)。

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治験の間違ったイメージ

今回のお題を聞いて、治験の間違ったイメージを描く作品はいっぱい出てくるだろうなあ、と思った。ロボトミーとかやっていた時代の精神科病棟とか、差別的な閉鎖病棟のイメージ。そういうのをゴッチャにした、時代錯誤な作品。こういう医療系は、きちんと取材しないとたいへん残念なものが出来上がる可能性が高い(大手の商業映画作でもこういった"間違った"描写は幅を利かせている。気に食わない)。ま、48hfpで取材しろ、ってのはあまりに無茶な話だ。せいぜいネットでちょろっと調べるくらいが関の山だろう。

ただ、「治験会場をそのまま使う」というベタな選択だけはやめよう。そう皆と共有した。

小道具、トランプ

これは使いやすそうだが、被りがありそうなアイテムだった。治験会場でトランプで賭けをする、みたいなストーリーはいくらでもありそうだ。

とくに危険だと思うのは「ジョーカー」だ。なんらかの黒幕、トリックスター、転換、逆転に使われるだろう。そこまでステレオタイプなもので被ってしまったら恥ずかしい。

とにかくチームには「裏をかきたい」と伝えた。

台詞「今さらなんだよ。」

この台詞は1幕目で使わないほうがいい。セットアップの情報量の中に埋もれてしまうからだ。ギャグのフリにしてしまうと、さらに埋もれる。2幕目のミッドポイントに使うのはアリだろう。3幕目、できればクライマックスで使うとより効果的になる。そしてそのセリフが発する意味が複数あるほうが味わい深い。楽なのはラストの台詞にすること。否が応でも台詞が立つ。しかし、ラストにしてしまうのは被りが多そう。

20:01

以上の長ったらしい説を1分で皆に説明し、とにかくいろんなアイデアをくれ、と募った。

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20:05

イデア出し。

20:10

食べ物ホラーということで思い出したのが『ソイレント・グリーン』。あれはSFだが、後半のソイレント工場の描写はホラーそのものだ。
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ソイレント・グリーンの原材料は……

未見の方には申し訳ないが思いっきりネタバレすると、未来の食糧不足のアメリカで、人々が一律に食べている「ソイレント・グリーン」というスティック状の食べ物の謎をチャールトン・ヘストンが追う話だ。その正体は人肉でした……!というのがオチである。「ソイレント・グリーン」の見てくれがグロい。アルミの板のような、じつにまずそうなシロモノなのだ。そして「完全栄養食」なんだそうだ。

「完全栄養食」なる食べ物は、いまけっこう市販されている。BASEとかHuelとかCOMPとか、「ソイレント」なる名前を冠した完全栄養食もあるのだそうだ。あまり食べたくはない。
[(ソイレント) Soylent] [ソイエントの食事代替粉末、カカオ、2.3ポンド] (並行輸入品)

メシマズ・ディストピアSF『スノーピアサー』

似たようなディストピアSFにポン・ジュノの『スノーピアサー』がある。列車の中以外の人類が死滅した、凍った地球が舞台で、列車のなかの「下層民」が食べさせられているじつにまずそうな食い物「プロテイン・ブロック」。これの原料が……列車内のゴキブリやコオロギなのである。オエッ。書いてて気持ち悪くなってきた。ひっでえことに、「上級階級」はステーキとか食ってやがるんだ!
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そして、「食べ物ホラー」で思いつく意外なタイトルが『2001年宇宙の旅』である。意外にもあの映画、「食べる」描写がいっぱいあって、しかもそのすべてがまずそうなのだ!
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これについて押井守さんがパンフに原稿を書いていて、けっこう影響を受けた。アニメキャラクターに、実在感を持たせるために意図的にものをよく食べさせるんだそうだ。
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まずそうなものをまずそうに食ってる描写はそれだけで怖い。これは、今回の作品の核になりそうだった。

逆に、「うまそうに食っているけど怖い」というのもある。『悪魔のいけにえ』とか、『ソドムの市』とか。
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食べ物ホラーで究極なのは『ゾンビ』ものだろう。なんせ人間を「未調理で」食ってるのだ。
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問答無用に怖い。

火通さないとお腹壊すよ、なんて声をかける暇もないくらい怖い。

ロメロのゾンビ三部作『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』『ゾンビ』『死霊のえじき』では、ゾンビがなぜ人間を食うかは謎であった
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わたしが偏愛する『バタリアン』ではその理由が明かされる。「死んでいる状態」は「痛い」のだそうだ。ゾンビ状態は痛くて痛くてたまらないのだが、「人間の脳を食う」と「痛みが和らぐ」ので「人間を食う」のだそうだ。この革新的な設定のおかげで、愛するがゆえに食べたくなるという後半の陰惨な展開に理論的な説得力が伴う。
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バタリアン』の監督・シナリオライターダン・オバノンが書いた『エイリアン』は、閉鎖空間で食べられる恐怖に覆われた傑作であった。エイリアンは純粋で完璧な生き物だ。同情も恐怖心もない。ただ捕食するだけ。人類はエイリアンのエサなのだ。まさに「宇宙ではあなたの悲鳴は誰にも聞こえない」のだ。
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「食べ物ホラー」というだけで様々なB級映画史が頭を駆け巡る。食べることは生物の根本的なところにあるからか、恐怖の対象にもなりやすい。

では、食べること自体が恐怖の対象になりそうなもので、かつ手間の少ないものはなにか。

美術の定塚さんが「青い食べ物ってまずそうですよね」などとアイデアをくれた。
成海花音「いまのJKに流行ってるんですよ青いの」「美味しいですよ」

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ロイヤルブルーというらしい

さっそくググってみると、青い。不味そう。こんなものを喜んで食べるいまどきのJKはもはやわたしとは別種の人間なのかもしれない。この世代間ギャップ、人種ギャップも重要なヒントになった。

いいアイデアが出てきた、気がする。しかし、まだストーリーとして練り込むにはまだまだだ。練って、トッピングしなければならない。とりあえず、みんなのご機嫌を取るために宅配ピザを注文した。もちろん、コーラも付けた。


続く。


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ストーリー/行方不明になった父を探す女子高生。ようやくたどり着いた研究所で食べさせられたのは、世界を救うおにぎり。

 

出演/成海花音  横須賀一巧  免出知之 アライジン 柳生はる奈 美南宏樹 SHINYA 児玉アメリア彩

監督/石川真吾 脚本/宮本晴樹・石川真吾  撮影監督/ 江口裕祐  撮影助手/佐藤 遊・船場 幸平  録音/飯島花衣
美術/定塚由里香  編集/石川真吾  音楽/原 夕輝  8分/ホラー  ©2021 STONE RIVER

This film was made for the 48 Hour Film Project.
www.48hourfilm.com



チーム名【STONE RIVER】
作品名『Food 2.0』

#48時間映画祭
#48HFP
#Food2・0
48hourfilm.com/tokyo/



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