FilmMaker Ishikawa Shingo

「Hairs」「Food 2.0」「スティグマ-STIGMA-」「裸で汁を出すだけの簡単なお仕事です。」「ラジオスターの奇跡」「蘇りの恋」「カササギの食卓」「出発の時間」などの映画監督、石川真吾のブログです。

不安と眠気の『Food 2.0』48時間メイキングPart7 シナリオづくり編②

<前回までのあらすじ>
指を怪我した女優にピザを食わせたら機嫌が直った

21:00

みんなでピザをつつき、コーラをがぶ飲みする。パーティだね。
成海花音さんに笑顔が戻った。やはり食べ物は偉大である

21:30

腹が膨れたんで、いよいよまとめに入る。ファシリテイトするよ。

21:40

ともあれ、主人公である。主人公を決めないと物語は動かない。映画とは主人公の旅なのである。短編であろうと長編であろうと一緒だ。主人公の旅とその「変化」に観客は感情を揺さぶられる

物語とは「行って帰る」こと

どこに「行って帰る」のかと言うと、日常から非日常へ。そして日常に帰還するのだ。

日常→非日常→日常(これを行きて帰りし物語と呼ぶ)

ホラー映画はこの物語の構造を逆手に取って、観客に恐怖を与える
ホラーは「行ったまま帰ってこない」のだ。

悪魔のいけにえ』のラスト。異常な一家の惨劇から逃げた主人公サリーは、レザーフェイスに追いかけられ、通りがかった車の荷台に乗り込み、脱出に成功する。かろうじて生き延びたサリーは狂ったように笑う……。
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中学生のときにはじめて観たこのラストには衝撃を受けた。主人公は助かった。が、狂ってしまった。

これが「行ったまま帰ってこない物語」である。

「あっち」に行っちゃったままなのだ。

ハッピーエンドじゃなきゃヤダ〜なんて抜かす軟弱な観客に強烈なビンタをかましてくれるのが「あっちに行ったまま帰ってこないホラー映画」である。

当然、後味の悪い鑑賞体験になる。

あなたの一生にへばりつく悪夢になるかもしれない。

あなたの人生を不可逆的に変えてしまうかもしれない。


河合隼雄は恐怖をこう定義している。
「人間は自分の人生観、世界観やシステムを持ちながら生きてるが、それをどこかで揺り動かすもの」

これはそのままホラー映画の定義だし、「芸術」そのものの定義だと思う。

観客を揺り動かすもの。劇場に入る前と後では世界の見え方が一変してしまうような「劇薬」

そういうものをわたしはつくりたいんですよ。

観客の日常に裂け目を入れるようなものを。

そして主人公は「変化」する。

主人公は日常→非日常→日常の旅で「変化」する

エンタメ映画では「成長」する。『ドラえもん』映画ではのび太成長が必ず描かれる。サスペンス映画では主人公の「堕落」が描かれることもある。(この変化のことをハリウッドのシナリオ用語では「キャラクター・アーク」と呼ぶ)

  • 「成長しない主人公」 ex. ウディ・アレンの映画
  • 「死んでしまう主人公」もいる(偽りの主人公)。ex.『サイコ』
  • とある共同体に洗脳されちゃって帰ってこない」主人公というのもいる。ex.アリ・アスター『ヘレディタリー』『ミッドサマー』

つまり、とにもかくにも、まずは主人公を決めないといけないのです。ホラー映画といえら、若い女の子で女子高生がなぜか「定番」である。じゃあ女子高生主人公にしよう。
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青い食べ物を食べる食品モニターの組織。じゃあ、「潜入」する物語にしよう。ヒッチコック映画の登場人物はヒッチコック映画を見たことがない」というテーゼがある。「危険そうなところに向かっていってしまう」のがホラー映画なのだ。『サイコ』も『悪魔のいけにえ』も、あんなヤバそうなところにどーして行くの? ってとこに行くのがいいんだ。『ジョーズ』の主人公の所長なんて泳げないのに海に行ってサメと対決するハメになるだ。そこにこそ映画の魔法がある

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映画史を代表する2大・行っちゃらめー!!!なところ。

じゃあ、女子高生が父親を探して組織に潜入する物語にしよう。そこでは青い食べ物が出される。入院患者が4人いて・・・。じゃあ、病院側の悪役は、『カッコーの巣の上で』のラチェッド看護婦長よろしく、体制の監視者にしよう。トランプは識別に使おう。主人公が青くなった後、「今さらなんなのよ」発動だ。

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ホワイトボード上でストーリーが作られていく(実際はこんなにサクサクいかないが)

同時にキャスティングも進められていく。キャスト・スタッフで集まってるんだからそりゃもうその場でサクサクと決めていく。この場に至るまでに面白いアイデアを発言していた俳優にはなるべくいい役が振られる。そういう意味では平等、かもしれない。女子高生を主人公にしようとした時点で成海花音さんが主役というのは確定とも言えるのだが。俳優たちにとってこのシナリオ会議は、共演者・監督とのコミュニケーションの場であり、モチベーションアップの場であり、役作りや、作品のムードや監督の世界観を把握する場なのです(そうなっていればいいな)。

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没制服。3ヶ月前まで女子高生だっただけあって実に似合う。

プロットを固めつつ、キャストも固める。はっ、父親役がいない・・・。「石川さんがやればいいんじゃないですか?」

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父親役がいない・・・

わたしが父親役ですと? 「馬鹿を言うんじゃないよ・・・」 しかし役者は足りない。時間もない。そもそもシナリオはまだ何にもできてない。

続く。


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6/25に授賞式があり、我々のチームは「主演女優賞」「観客賞」「小道具賞」をいただくことができました!!これもチームの皆のおかげです。


ストーリー/行方不明になった父を探す女子高生。ようやくたどり着いた研究所で食べさせられたのは、世界を救うおにぎり。

 

出演/成海花音  横須賀一巧  免出知之 アライジン 柳生はる奈 美南宏樹 SHINYA 児玉アメリア彩

監督/石川真吾 脚本/宮本晴樹・石川真吾  撮影監督/ 江口裕祐  撮影助手/佐藤 遊・船場 幸平  録音/飯島花衣
美術/定塚由里香  編集/石川真吾  音楽/原 夕輝  8分/ホラー  ©2021 STONE RIVER

This film was made for the 48 Hour Film Project.
www.48hourfilm.com



チーム名【STONE RIVER】
作品名『Food 2.0』

#48時間映画祭
#48HFP
#Food2・0
48hourfilm.com/tokyo/