FilmMaker Ishikawa Shingo

「Hairs」「Food 2.0」「スティグマ-STIGMA-」「裸で汁を出すだけの簡単なお仕事です。」「ラジオスターの奇跡」「蘇りの恋」「カササギの食卓」「出発の時間」などの映画監督、石川真吾のブログです。

2016年を映画などでふりかえる

新作ベスト

  1. この世界の片隅に
  2. 淵に立つ
  3. 無垢の祈り
  4. クリーピー 偽りの隣人
  5. FAKE
  6. 退屈な日々にさようならを
  7. SCOOP!
  8. シン・ゴジラ
  9. 川越街道
  10. リリカルスクール未知との遭遇

とにかく『この世界の片隅に』に尽きる1年だった。初日に観て翌日に観て、計4回観たし広島と呉に聖地巡礼してしまった。何回観ても泣く。サントラとパンフと原作買い直しもした。ただこの作品の真の原作は戦争および近現代史である。私が非常に弱い分野でもある。この映画を観て、映画というものは大なり小なり何らかの歴史(=世界)と関わっていなければ駄作になる、というか作る意味がない。とまで思うようになった。表現とは、何か太いもの(歴史、世界)に繋がっていなければいけない。それが民衆の支持を集める(クラウドファンディング)し、興行成績に繋がる。
そしてこのベストテンランキング、何とすべて邦画!本当に邦画黄金時代なのかもしれない。無垢の祈り、川越街道、リリカルスクール未知との遭遇、ハルをさがして は私がスタッフであるが、劇場で観た印象でフラットに順位を付けた(つもり)。邦画当たり年に少しは貢献できたであろうか。洋画ではローグ・ワン、ザ・ウォーク、オデッセイ、など忘れ難いタイトルもあった。

 

ワースト

  1. エヴェレスト 神々の山嶺
  2. 君の名は。
  3. ヒメアノ〜ル

君の名は。は楽しめたのだが根本的な運命の人は必ずどこかにいるという思想が気持ち悪い。200億越えの大ヒットか知らんが、教育上悪いと思うよ。
ヒメアノ〜ルサイコパスに生まれて殺人を犯さざるを得ない人間の悲しみを描いた原作から、いじめられヤケになり人を殺してまった人間というように改変されている。ストーリーやキャラは原作にかなり忠実なだけ、根本的な世界観の変更に僕はかなり不満が残った。ヒミズにせよ古谷実漫画はどうも根本的なエッセンスを読めてない人間にばかり映画化される気がする。
エヴェレストの漫画も原作も非常に素晴らしいのにどうしてこんなに金かけてこんなしょうもない出来のものが出来るんだ全く。山の鬼のような男に感化されてエヴェレストの頂点を踏む男の話なのに、山頂目指さなくなるストーリーなんてあり得るかいっ!下手なシナリオにミスキャスト、too muchな音楽とすべてが空回り。

 

ポスト真実の中でナラティブに生きる

今年春に長年私を悩ませてきた病名が診断された。自分が分かったし、生まれ変わったようだった。夏は富士山の山小屋でバイトをした。楽しかったし、色々見えるようになった。金を使わなかったおかげでマックが買えた。オリンピックがあって、SMAPが解散し、こち亀が連載終了した。ブレグジットが起こって世界経済がピンチになってトランプ大統領が誕生し、韓国では民衆のクレームで大統領が弾劾された。

ポピュリズムの世紀だ。「ポストモダン」ならぬ「ポスト真実」という呼び方もあるようだ。ますます世界が不明瞭に複雑になっていく中で、個人はできるだけ感情に流されずに複雑さに耐えて行かねばならない。その中で、個人の価値観はシンプルにミニマムな方が良いと思う。シンプルに複雑な世界を腑分けする。ツールはなるべくシンプルに。映画が与える感情の波と、ナラティブがあなたの世界の見通しをなるべくクリアにしてくれることを願う。