FilmMaker Ishikawa Shingo

「裸で汁を出すだけの簡単なお仕事です。」「ラジオスターの奇跡」「蘇りの恋」「カササギの食卓」「出発の時間」「あさごはん」などの映画監督、石川真吾のブログです。

2019年を映画などでふりかえる

2019年映画ランキング

  1. 家族を想うとき
  2. サタンタンゴ
  3. ROMA/ローマ
  4. バーニング
  5. ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド
  6. この世界の(さらにいくつもの)片隅に
  7. 半世界
  8. 宮本から君へ
  9. 運び屋
  10. スターウォーズ スカイウォーカーの夜明け
  11. ジョーカー

 

ケン・ローチの社会への怒りとユーモアに打ちのめされ、タル・ベーラの自由に圧倒され、ローマやワンス、片隅、反世界のキャラクター達の実在性に納得した。

 

裸で汁を出すだけの簡単なお仕事です。

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今年も参加した48時間映画祭。引いたジャンルは「コメディ」、全力で笑わせに行くにはスキルが足りないので脱いでもらうしかない・・・!スタッフ・キャストにエース級を揃えながらこんなにくだらないもの全力でやれて光栄です。受賞結果は

  • 助演女優賞ノミネート(AV女優役つかさ)
  • 助演男優賞をグループ(!)でノミネート(汁男優)
  • 衣装&ヘアメイク賞受賞(裸にパンツ一丁、ひとり500円)

というギャグみたいな結果でいかにもうちの映画にふさわしい。来年も頑張ります。チームに感謝!

www.youtube.com

 

巨匠たちとのお仕事

青山真治監督・・・阪本順治監督・・・原一男監督・・・

ありがたいことに、今年は憧れの巨匠監督達とお仕事させてもらう機会がありました。作品の出来はまだ分かりませんが、ひとつだけ言えるのは皆、いい人。度を越えたいい人が多く、見習うところしかありませんでした。

 

R.I.P.

小池御大の死はこたえました。幼少から作品に接しており、物語的な影響大。弟子も多数。毀誉褒貶ある人だったらしいですが、死の直前までツイートする作家魂。ありがとうございました。

 

 

 

来年も粛々と映画を作ります。プロデューサーというものには頼らない。と、いうか、他人に頼って映画を作るなんてことはもうしない。

裸の男たちを撮るだけの簡単な48時間です。その③完結編

 

#48hfp #裸汁

裸の男たちを撮るだけの簡単な48時間です。その① - FilmMaker Ishikawa Shingo

裸の男たちを撮るだけの簡単な48時間です。その② - FilmMaker Ishikawa Shingo

 

映画をつくるのは楽じゃないけど楽しいよというメイキングの完結編です。またしても長いです。どうぞ!

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11/30(土)

15:00~

渋滞の上、道を間違えた。現場に着いた頃には陽が傾いている。あと1時間しかない。

15:10~

撮影しようと思っていた場所での撮影NGが出た。過去最大にテンパった。あと50分。

15:20~

シーン3。バタバタで陽がないなか、ロケ地も急遽変更して、柳生はる奈さんと宮本晴樹さんのシーンを撮った。ワンカット。スタッフサイドの慌てぶりが俳優サイドに伝わって、慌ただしく混乱している様子がよく出ている。シーン2の芝居とつながっていないがなっ!やり直したい。人生やり直したい。撮り直したい。雑に撮ってる感満載やがな・・・

15:40~

あと20分でタイムリミットなので助監督と相談して、シーン5と7をくっつけて一連で撮ることにした。ハルさんは必死に光がある場所を探す。「ここでやろう」えっ、ここ?太陽光があたっているというだけで選んでませんか? ドラマ的に必然性があります? とは思ったものの文句を言ったり別の場所を探す時間もない。ここでやろう。過去最大の速さで脳みそが回転し、芝居の位置と動きを決める。あれがあーなってこーなって。この間わずか1秒。で、撮った。ハルさん独自のヘンテコな絵だ。あとで観たらミニマルでけっこう面白い絵だった。さすがに表情が分からなすぎるのでヨリも撮っておいた。パニック感が出ている。つかささんはマイペースな女優という感じも出ている。よしオッケー。

15:50~

あと10分ですべてが終わる。ラストシーンを撮るか、エンドロールを撮るか。エンドロールを撮ろう。エンドロールの並木道は土手の表側で、太陽がよく当たっている。紅葉に陽が当たってキラキラ輝いている。そこに、パンツ1丁の男たち4人がスローモーションでカメラに向かってズンズン歩いてくる。アルマゲドン・ショットと僕は呼んでいる。西部劇とか昔の刑事ドラマとか香港ノワールなんかでよく見るあのショットだ。日の当たらないところで生きてきた男たちが、胸を張って歩くんだ。感動的だろ。パンツ一丁だけど。

15:55~

エンドロール用の主演4人のクロースアップを撮る。ここまで我慢してきたサイズだ。思い切ってぶちまけてもらう。笑いをこらえる方が大変だった。イキ声にもそれぞれの人生が宿って面白いんですね。小坂氏のイキ声はデカすぎて、川の対岸の街にも響き渡った。録音の小牧氏も滅多にないことなのだが音が割れていた。あのイキ声は多分多摩川あたりまで届いていただろう。

16:00~

ひとしきり笑ったあとスチル撮影。これも爆笑。全員、マジなキメ顔をしている。パンツ一丁のくせに。

16:05~

太陽は沈んだ。ハイライトはない。が、まだ撮れる。マジックアワー到来だ。っていうか撮るしかない。ラストシーンの撮影だ。泉光典さんの出番がまだなのだ。でも現場が決まっていない。走り回る。

16:10~

昨日のロケハンの前、5日くらい前に来て目星をつけていた場所でラストシーンをやることにする。水辺だ。僕の映画は水辺がよく出てくる。水辺はこの世とあの世の境界なのだ。泉光典さんの役は、半分水に浸かっている。半分、あっち行っちゃった人なのだ。現場ほっぽって、勝手にあっち行ってんじゃねえ!というのが汁男優4人の怒りなのだ。


これには元になった体験がある。学生時代、同級生の映画に出演することになった。まだ豊洲が開発中だった頃だ。今の豊洲市場あたりだろうか。僕の役はよくわからない理由で海に飛び込み、溺れる、という役だった。よくわからないまま一生懸命飛び込んで、泳いで、溺れた。そこの海水は臭く、ヌメヌメしていた。数日、気分が悪かった。海水が染み込んだ服は重く、ほんとうに溺れそうになった。ヤバイ。そこでふとカメラを見ると、友人は空の方向にカメラを向けている。おい、こら、俺を撮らんかい!


ま、そんな経験があるので、水辺での撮影が俳優部に多大な負担をかけるのを身をもって知っている。雅氏が橋野氏に突き飛ばされるのも、足がちょっと水に着くぐらいでいいか。なんて思っていた。そしたら雅氏、全身で飛び込んで行きましたね。商業作品だと、水辺で撮影する場合、安全性を助監督や制作部が確保してから俳優部が入るものなのだが、雅氏、全身ずぶ濡れ。ありがたい。思わずカットかかった後に拍手。


その後、泉氏のカット。ま、最後の最後に出てくるだけあって、持っていく。台詞はシナリオから変えた。木島氏がとてもいいセリフを考えてくれたのだ。うまくはまってくれた。

 

16:30~

もうマジックアワーも終わろうとしている。僕の望みは、キャスト全員集合のグループショット。これにはハルさんと照明部が大反対。シーン2からの流れから言うと別場所だし、光もまるで違うから。


ゴッドファーザー』などの編集をやったウォルター・マーチは自身の著書で、理想的なカットのあり方についてこう書いている。


1.感情 51%
2.ストーリー 23%
3.リズム 10%
4.視線 7%
5. スクリーンの二次元性 5%
6. 三次元空間の継続性 4%

 

撮影・照明部が言っている「光がつながらない」と言うのはマーチに言わせると4%しか問題ではないのだ。51%は感情(エモーション)、23%はストーリーなのだ。必要なカットがない方が問題なのだ。これはつまり、監督の撮りたいものを撮らせた方が経済効率が良い、と言うことも意味している。現場では撮影監督が言うことはかなり重みがある。が、編集現場に行くと4%しか重みがない。約8割は、ストーリーとエモーションなのだ。ストーリーとエモーションを伝えるためのカットは、たとえ光(三次元空間の継続性)が犠牲になっても撮るべきなのだ。


上記のようなことを頭の中に浮かべ、1分くらいにまとめて説得しようと思ったがやめた。ご好意で参加してくださった技術部に、ノーギャラの映画で偉そうに講釈たれるべきではない。プロデューサーがいたとしてそういう判断になっただろう。僕は巨匠ではない。ペコペコ系の監督なのですぐ折れる。


そもそも太陽がなくなって必要なカットが撮れなかった、と言うのは編集部にとっては日常茶飯事なことなのだ。僕はあまり優秀な編集マンではないけれど、今も年収の半分以上は編集仕事だし、15年やっているのでそれなりにいろんな経験値がたまっている。太陽がなくなって必要なカットが撮れていない場合の対処法も150パターン持っている。今回はどれにしようかな。


現場では橋野さんのクローズアップで締めることにした。橋野さん、顔芸がすごい。「もっとやっていいですか」なんて聞いてくるものだから「もっともっとやっていいんだ」と返す。こちとらハサミを持っているんだ。というか光の継続性にこだわるのなら、目線の継続性にもこだわって欲しい。光は4%、視線は7%だ。クローズアップだともっと高まるんじゃないか。目線が合っとらんのよ。大事な大事なラストで。恨み節を言ってもしょうがない。立ち位置をちゃんと決めず、編集のことを考えずカメラマン主導で一枚絵だけを追い求めた結果だ。つまり監督の責任やからね。


ま、視線の違いよりも橋野さんの怒りでマスキングされて問題なく進行すると思う。オッケーイ。川の撮影は以上。中野の我が家に戻る。

 

17:00~

バラして移動。

17:10~

あああ!!集合写真撮り忘れた・・・

17:30~

帰りの車内で眠りに落ちた。昨日の10時から起きているわけだから、31時間ぶりの睡眠。多分10分にも満たないわずかな眠りであったが、貴重な眠りだった。スッキリしまくって、よし、皆で世界の平和を守ろう!という気分になった。だけど地獄の蓋はまだ開いたばかりであった。

 

18:00~

中野の自宅に帰り、シーン1のAV撮影の画面撮り。そういえばカラミの演出というのははじめてだ。勝手がわからないので段取りとこうなってほしいという「結果」をとにかく伝える。つかささんは随分付き合いが深くなったんであんまり恥ずかしいとかはない。助監督たちは擬似精液をスポイトに入れたり注射に入れたり色々忙しい。


1テイク目を撮影する。う〜む。めずらしくハルさんが芝居に対して、俳優に意見を言う。本当に珍しいのだ。10年一緒にやってきて初めてじゃないか? ハルさんの意見は要約すると「今のつかさの芝居ではAV女優に見えない」だ。世の男どもはAV女優という存在に散々お世話になっている。それこそガキの頃からオッサンになっても。女とは何か。性とは何か。エロとは。おっぱいは宇宙か。愛とは何か。皆アダルトビデオの画面ごしに学び、成長してきたのである。それだけにAV女優というものに対する強固な「イメージ」があるのだ。ハルさんとAVについて話したことは記憶にないが、見ていないはずはない。多分好きだ。僕も、大好きである。ハルさんは僕が言わなければいけないことを代弁してくれたのかもしれない。じゃあ、どうしよう。


まず、相手役を呼ぶことにした。雅くんに再登場願った。で、段取りを説明するのはやめた。ほんとうにセックスをしている体裁でやってくれ。で、互いに熱量を高めて、イキたい時にイってくれ。ある意味、演出を放り投げて役者に任せたのだ。雅くんがなかなかのエスっけを見せてくれてとてもエロいものになりました。ハルさんも納得の表情でした。オッケイ。

 

19:00~

最後の撮影。内容は明かせないが泉光典さんである。なんというか、世にもおぞましい映像が撮れた。15年も付き合いのあるエース俳優さんにこんな仕打ちをしていいのか。まあ、泉だからこんな役オッケーしてくれたのか。演出部は演出部で、白身が足りない、と片栗粉を混ぜてたり創意工夫をしていたらしい。演出してんな〜。

 

19:30~

クランクアップ。一息つく間もなく、編集部・塩谷氏がやってきて編集場所を作れと要求する。まだ人の汗と体温と栗の匂いのする撮影現場の和室の机に編集環境をセッティングする。撮影済みデータをコピーする。

 

20:00~

泉さんを洗面所に案内する。何入ってんのコレ?片栗粉です。ふっざけんなよ!笑顔で笑いあった。じつは泉さんは怒っていたのかもしれないが、撮っちまえばこっちのもんだ。

 

20:30~

皆着替えたり、機材バラしたり。どこか適当なところで打ち上げしていてくれとお願いする。もはや僕には打ち上げ場所を提案するような脳の容量が残っていない。みんなに感謝するフリをしながら、とっとと帰ってくんないかななどと思っているのだ。帰ってくれないと掃除できないからね。うちはシェアハウスなんでリビングとかの共用部分は綺麗にしておきたいのですよ。ほぼ全員が打ち上げに行くようだ。セカンド助監督としてついてくれた森岡怜奈ちゃんだけは疲れたので帰ると言う。彼女は僕の大学の直接の後輩だ。女のコに擬似精液をもっとガンガン飛ばせ!無茶苦茶なことをやらせちゃったなあ。昼飯も夜飯も抜きだったので手にそっと2億円を握らせて送った。ありがとうございました。

 

20:50~

編集場所を覗く。絵と音のシンクロ作業をしていたがほとんど終わっていた。は、早い。

 

21:00~

皆打ち上げ場所に行ったのでリビングの整理をしたり掃除したり洗濯したりした。現場や支度場をキッチリバラしてからでないと落ち着いて次の仕事にうつれないからね。あと演出部さん、キッチンの洗った食器置く所に擬似精液と注射置くのはやめてくんねえかな。

 

21:20~

編集場所を覗く。塩谷氏、もう荒編集を始めていた。朝までにラフ・カットを作ってカラコレ用にするのと音楽の原さんに送りたいと思っていたがこれだけだともっと早くに送れるかもしれない。しばらく塩谷氏にまかせよう。

21:40~

3年ぶりくらいに風呂に入ったような気がする最高。

 

21:45~

まだ風呂に入っている。幸せ。富士山の山小屋で働いていたことがある。標高3000メートル地点なので水がない。2ヶ月間風呂に入れない。仕事が終わって下山して温泉に入った時の感動たるや。スタッフキャストは打ち上げをしていて、編集部は編集している。監督はのびのびと湯船につかっている。王侯貴族か。

 

21:50~

風呂から上がって体重を量ったら、3キロ痩せていた。「48時間映画祭ダイエット」を皆に提案していこうと思う。

 

22:00~

打ち上げ会場を寝間着姿でひやかしに行く。酒は飲まない。48時間以内は飲まない、と塩谷氏と固く誓い合ったのだ。提出した時の美酒を楽しみに頑張るのだ。ウーロン茶で乾杯し、スタッフキャストに感謝の意を伝える。どれだけ言っても尽くせぬ感謝である。だって、ノーギャラだぜ……。おいら、こんな過酷な現場はお金積まれてもあまりやりたくないぜ。そんでさ……出来た映画が『裸で汁を出すだけの簡単なお仕事です』だよ!?

 

23:00~

打ち上げ会場に22億円ほど置いて家に戻った。塩谷氏、仕事が早い。9分のラフカットがもうできてた。観る。面白い。く、くだらない……。テンポや使うカットが違う、とか色々意見はあるがまあ面白かった。立会い編集をしてちょっと直す。

23:50~

ラフカットができた。尺は8分20秒くらい。まあ、すぐ詰めれる時間だ。書き出して音楽の原夕輝さんに送る。今夜はこれくらいにしましょう。塩谷氏、今晩は我が家に泊まる予定だったので、風呂場を案内する。ちょっとコンビニ行ってきますというので何かと思ったらビール買うんだって。「48時間飲まないんじゃなかったんですか!」「飲みませんよ。ビールは入眠用です」「ビールは酒じゃないから運転しても大丈夫、って言う田舎のオッサンか」

24:20~

泥のように眠った。

 

12/1(日)

 

3:30~

死んだように眠ったはずが蘇ってしまった。まだ緊張状態にあるからだろう。眠りが浅い。塩谷氏はまだ寝ているだろう。さて、何しよう。

4:00~

近所のオリジン弁当で野菜炒め弁当と豚汁を食べる。まともなものを食うのは何日ぶりだろう。

4:30~

作業再開は9時からと塩谷氏には言ってあったので、4時間半も空いてしまった。あの過酷な48時間映画祭でこんな暇があるなんて。そういえば昨年は自分で、脚本書いて、編集して、音楽つくったんだった。それに比べたら楽ちんだ。全員プロを呼んでいるからね。ウッシッシ。

5:00~

タイトルデザインを考える。近所のセブンイレブンに行ってタウンワークをもらってくる。求人情報誌のデザインを参考にするのだ。勢いでバババと撮ったスチルも、面白いのがいっぱいある。

6:00~

業界初!汁男優専門派遣会社・ジュースアクターズ株式会社 というニセ会社の募集要項、という体裁でデザイン作業を進めて行った。イラストレーターのファイルで作っておけば、映像ソフトに取り込んで加工するのも楽だ。ジュースアクターズ(Juice Actors)はこの映画の英題だ。ジュースアクターで「汁男優」的な意味になるらしい。チラシデザインがある程度できた。プリントする。

7:00~

風呂に入り、洗濯をする。なるべく映画の制作中も、こういう日常的な行為を絶やさないようにしたいものですね。映画づくりは何も特別なものじゃない。料理洗濯風呂掃除映画。撮影に入ると、買い物も、映画を観に行くことも、家族と過ごすことも、ゆっくり風呂に入ることも何もできなくなる。そう先輩からは教わった。そう、先輩は実践している。毎日車で寝る、家に帰って風呂に入ってすぐ出発。なんて当たり前。


はっきり言って、間違っている。40にも50にもなろう大人がこんな働き方をしていて続くはずがない。後輩にこんなライフスタイルを強いるなんて、自分で自分の首を絞めているだけだ。本当に自分の仕事を愛していて、映画作りを天職だと思っているのならこんな働き方は今すぐやめるべきだ。続かないから。新人だってなかなか入ってこない。

こういう長時間労働に陥るのを防ぐ方法がひとつある。時給制にするのだ。たぶん、予算は2〜3倍に膨れ上がるだろう。年間800本公開されているという邦画も半分から1/3に減るだろう。


ま、実践するプロデューサーはほぼいないだろう。映画作りを愛しているプロデューサーって実はあんまりいないと思う。いや、愛しているって言うよ。恋人の前では。それって詐欺師の手法やけどね。


プロデューサーは詐欺師です。プロデューサーの仕事の本質は詐欺なんです。映画は形あるものじゃない。手にとってながめられるものじゃない。まだ作ってもいないものに対してお金をもらって作るんだから、その口調は嘘と誇張と自己顕示欲が混じる。だからプロデューサーっていうのは誠実でないといけない。連絡がマメでレスが早い人の方が誠実に思われやすい。


詳細は避けるが、今年だけで僕は2人のプロデューサーに騙された。プロデューサーを名乗る人間全員を憎み、呪い殺したかった。ま、プロデューサーと言っても独立系の人間と大資本系の人間がいて、前者は特に気をつけないといけない。詐欺師レベルが高い。他人のお金でビジネスする人間と、自分の会社の資本でビジネスする人間との違いだ。前者の方が発言が適当なくせに責任を取らない人間が多い。資本の担保がないプロデューサーの発言は聞き流していい、とまで思っている。それでも誠実であればいいんだけどね。独立系の中にも誠実な方はいる。そういう方は、しっかりと断ってくれる。「うちは無理」。これは優しさなんです。


僕は自主映画を何本も作ってきて、プロデューサーがいたことはない。これからも自主映画ではプロデューサーは不要だと思っている。プロデューサーと監督を兼ねるのが一番理想の映画作りだから。監督主導の映画作りっていうこと。もちろん、誠実なプロデューサーとなら、仕事をしたい。プロデューサー側も、有能で客を呼べる監督と仕事がしたいだろうから、そこは、僕が頑張るしかないと思う。


いずれにせよ僕を騙したあの2人のプロデューサーには雷が落ちてきて感電死して欲しい。あんな様子じゃあ、いずれ仕事はなくなるだろうけどね……。彼らがあがいて僕以外の被害者をつくるのは業界的には大迷惑だから、とっと引退して雷に撃たれてください。

 

8:30~

編集部屋・兼・塩谷氏の寝室に入り、ゴミ捨てをする。ビールの空き缶が山のように積んである。一晩でこの量を飲んだのか……早く次の映画作りをしないと塩谷氏の内臓が持たないかもしれない。

9:00~

編集再開。あらためて観る。あれをこうしたい。これをああしたい。1の指示で10の結果が返ってくる。素晴らしい。アル中だけど最高の編集マンだ。

9:30~

ハル氏がパソコンとモニターを持ってやってくる。カラーグレーディングのための環境を整える。モニターを置き、色補正用のコントローラーを置き、MacにドライバとDaVinci Resolveをインストールする。今回撮影に使ったカメラはSonyのFS7 mark2にキャノンのレンズ。s-log3という撮影ガンマで撮った。これは後処理のために階調を多くキープする方法だ。つまり、ポストプロダクションで、カラーグレーディング(色補正)の作業が必須になることを意味する。


カメラマンの仕事はデジタルカメラの時代になって確実に増えた。フィルム時代はラボ(現像所)に任せてカメラマンは最後に確認するだけでよかったのだが、デジタルシネマカメラが普及してコストが下がり自由度が増えるとともにカメラマンがやらなければならない仕事の量も増えてしまった。

もっとも、ハル氏は本業がスチルカメラマンだ。スチルの方がデジタル化の波が早かった。撮影後の色補正も含めて自分の仕事だ、という感覚は強い。実際、ハルさんの色彩感覚は独特で、強烈だ。色が綺麗という評価は本当に多く、僕の映画の評価を底上げしてくれている。ありがたい。

10:00~

編集を追い込む。音楽はまだ届かない。が、原夕輝さんには「ワルツ」でよろしく。とだけは伝えてある。どんな曲が来るか分からないが、手持ちのライブラリーの中で映画音楽かつワルツの曲があったのでそれを映像にあて込んで見てみる。大爆笑。よし、いける。

11:00~

編集でも「ヨリ」のショットをなるべく排除していった。ヨリはここぞというところでしか使う必要はない。編集は心理学だからね。長回しも積極的に使った。


編集点とは、「意味が終わる場所」だと考えている。退屈になったらカットを割る、というのとはちょっと違う。ショットには意味がある。ストーリーを伝えるもの、感情を運ぶもの、それ以外にも色々な意味を持たせられる。その意味が観客に伝達し終わった時が、そのショットの寿命である。めまぐるしい最近はやりの編集はどうも苦手だ。かと言ってかったるい編集も嫌いだ。ちょうどいい塩梅のところがある。その、人に伝えるのが厄介な感覚を、どうにか理論化したのが「意味が終わる場所が編集点」という理論だ。


編集というのは不思議なもんで、監督と編集マンが膝突きつけあってあーだこーだやっていると、2人の生理が揃って来るのだ。あ、ここでカットだな、っていうポイントが2人とも一緒になってくる。こうなってくるとあとは早い。……というわけにもいかないのが映画の恐ろしいところで。

 

12:00~

グレーディングが終わった。早い。映像を入れ込んで見てみる。いい色!特になおすところなし。前半の寒そうな色もいいし、エンドロールの金色に輝くショットの色もいい。「やりすぎかな」なんてハルさんが言うけどもバッチリです。

12:30~

そろそろ尺を出さなきゃいけない。48時間映画祭には尺の規定、エンドロールの規定、入れなきゃいけないテキストなど、色々ルールがある。毎年、ルールを破っているチームもいるようだけど、僕はルールは守った上で自由にやるのがいいと思っているのでルールはきっちり守る。


編集が詰まってくると逆説的に、編集ではどうしようもできない、芝居が気になってくるところが出てきて、頭を掻き毟り、なぜOKを出したんだクソッタレ監督が、と自分を呪うしかない。これは、俳優は悪くない。OK出した監督が悪い。編集と言うのは本質的には「余分なところを取り除く」作業なので、これはいらん、あれはいらん、ってやっていくしかない。尺を借り込む作業で、いろいろ芝居を切らざるを得ないところがある。尺を出す上で、自分自身で編集しているとなかなか判断できなかったりするんですよ。編集マンが冷静な目でこれはこう言う意図だからここは要らないでしょう、とかはっきり言ってくれると目が覚める。尺が出た。7分54秒。昨年の『ラジオスターの奇跡』は8分ギリギリだったので、6秒まきました。ピクチャーロック。原さんに映像送る。

 

13:00~

昼食。

13:30~

塩谷氏はエンドロールのテロップワークをヌチヌチいじくっている。ハルさんにはちょっと修正が出た絵の色補正を追加してもらった後、チラシ用の画像の色補正もしてもらう。おお、ええ色や。空の青と黄金色のスキントーンが気持ちいい対比。絵が高級なだけにバカバカしさがすごい。だって白いブリーフ姿のおっさんが4人、カメラ目線でキメ顔してるんだよ。

14:00~

グレーディング終わり、ハルさんが帰る。お疲れ様でした。ありがとうございました。……来年もやってくれるかな?

15:00~

石塚達也くんが車や機材を返却するため家に来る。完尺のでた映画を観てもらう。いや〜おもしろいですね。なんて言っていた。

15:30~

原さんから音楽が届く!早速タイムラインに乗せる。おお、高級感あるピアノの音。ちゃんとワルツだ。オープニングっぽい。おお、橋野氏がうらやましげなところで曲が入って、いい感じに恨めしげになっている。ちゃんと主人公が立ち上がった。キレるところにも曲が!いい。エンドロールの曲。爆笑。ちょっと音色がカタすぎるかな〜。全体的には最高でした。プ、プロの仕事や〜。すげ〜。塩谷さんと一緒に聞き惚れてました。

塩谷さん「高級感がすごい。深田晃司の映画みたい」「いや原さん、深田組やってますからね」「え、まじすか」マジなんです。『本気のしるし』めちゃめちゃ面白いんで是非に。原さんに絶賛のご連絡と、修正点を1点伝える。なんと原さん、効果音も作ってくれたそうです。射精の音。

 

16:00~

「射精の音」が届く。そもそも射精して音が鳴るわけあるかい!これは手塚治虫が発案したと言われる静寂の音「シーン」みたいな、哲学的な問題の音である。鳴るはずはないのだが、鳴ってないとなんかさみしい。シーン4の最後でコサカが殴りかかろうとしたら漏らしちゃう、って言う芝居があって、そこに音が必要ではあるのだ。原さんの作ってくれた音はちょっと機械っぽい音。アニメ的。惜しい!なんか違う。狭い部屋で、男ふたりで、射精音とはこうだ。バキュンだ!とかエロ漫画ではドピュ、だとか、いや違う。どっぴゅんだとか、バシュー!だとか頭のおかしい会話が繰り広げられていた。そんなさなかにAV女優カグヤ役のつかささんが入ってきたので僕らは顔を赤らめることしかできなかった。

16:20~

「射精の音」についての真剣な議論はまだ続いていた。どういうわけだかつかささんも参加していた。

16:30~

まだ「射精の音」についての議論は止むことはなく、夜は更け、やがて朝がきた。

16:45~

自分の効果音ライブラリーから「ぴよん」みたいな可愛い、テレビっぽい効果音があって、それを映像にあててみたら一番ハマったので採用した。原さんが作ってくれた射精音ももったいないので予告編に使用した。

17:00~

原さんから修正したエンドロールの曲がきた。そうそう、これこれ、温かみのある音色が欲しかったのよ。1注文すると10返ってくる。最高の作曲家ですな。射精の音まで作ってくれるし……おっさんたちが皆、童貞の中学生の頃にもどり、射精というのはこういう音のはずだ!って真剣に議論していた。素晴らしく輝いている。あほや。

18:00~

エンドロールも終わり、音も張った。全ての要素が出揃ったので、また通しで見る。つかささんはじめての鑑賞。どや? お、笑ってる。ラスト、爆笑している。安心、女の子でもウケるんだな。ま、つかささんがふつうの女の子かと言われるとだいぶ違うんだが……。僕は編集現場にいろんな人が来て見てもらって意見を聞くのが割とすきだ。意見を言う方も注意してもらえると嬉しいが。


今回、MAには出さないので塩谷さんのPremiere上で音のバランスを調整。そんなに複雑なことはしていないが、グッと見やすく、聴きやすくなったはず。では、完成!!!!!

18:30~

書き出しが終わり、USBメモリーにデータをコピーする。最後のデータチェック。よし。編集室をざっくり片付け、提出する資料などを持って、家を出た。

18:45~

中野ZEROへ向かう途中で、ビールを買った。データを提出したら飲むんだ。うへへ。

18:55~

中野駅前にイケメン撮影部の田邊氏がいた。「田邊まだ仲良し組」のチームリーダーだ。彼とは『鈴木家の嘘』の撮影現場で一緒に働いた仲だ。メンズノンノだかのモデルをやっていて、髪はアフロで笑いも取り、かつ無茶苦茶仕事ができるすごい後輩だ。多分、超、モテる。すべてを持っている。悔しいので田邊氏の提出用USBメモリーを粉々に破壊した。

19:00~

中野ZEROに着いた。「DEADMANS」の月足氏がいた。なんと5時に1番手で提出したという。彼とも古い仲だ。彼は照れることなくベタな作風を押せる作家で、仕事の幅も広く、正確で早い。かわいい嫁さんもいる。おれにはない、すべてを持っている。とりあえず授賞式には来れなくなるように足を折っておいた。

19:05~

「CNSS」の牛丸亮、加賀賢三、榎本桜、高橋一路あたりの連中がいた。もう飲んでやがる。余裕ぶっこきやがって。だが多勢に無勢。しかも喧嘩慣れしている連中が多い。しょうがない。ひとりづつトイレに呼び出して目潰しをした。今回の作品が遺作だな。

19:10~

ライバルをあらかた潰したので、安心してデータを提出する。昨年はスーパーギリギリで、提出時間になってもサブのデータがまだコピー中だった。なんか提出が認められてありがたく作品賞もらってFilmapaloozaまで行かせてもらった。今年は余裕で提出だな。受付のオネエちゃんをからかう余裕するある。USBメモリーの代わりに缶ビールを提出したら見事にスルーされた。無言でUSBメモリーを提出した。そしたらこう言われた。「書類が足りません」

19:30~

締め切り!今年は47エントリーがあって、45作が時間内に間に合ったそうだ。我々StoneRiverはデータは提出できたものの書類を書き忘れていた。泣きながら会場で書く。んで、乾杯。ああうまい。世界でいちばんうまいビールを飲んでいるのではないだろうか。

19:45~

皆の前でなんかひとこと言わなくちゃいけない局面。「今年は余裕があったんでチラシ作ってました」などとうっとおしいことを言って嫌われる。みなさまお疲れ様でした。

20:30~

一軒め酒場で打ち上げ。一軒めで終電まで飲む。最高だった。あとは作った映画がどう評価されるか。ただ、笑っていただければ幸いです。長い長い文章、最後までお読みいただきありがとうございました。なお、この文章はフィクションも多いですが、あらかた本当のことが書いてあります。

 

STONE RIVER 監督・石川真吾

 

 

 

短編映画『裸で汁を出すだけの簡単なお仕事です。』

12/15(日)14:30より上映

会場:なかのZERO 西館 小ホール

東京都中野区中野 2-9-7

48時間映画祭プレミア上映会

入場料1000円

 

出演/橋野純平・横須賀一巧・小坂竜士・長崎達也・柳生はる奈・宮本晴樹・雅マサキ・つかさ・泉光典

監督/石川真吾 | 撮影監督/川口晴彦 | 撮影助手/藤田恵美 | 録音/小牧将人 | 照明/堀口健・阿部陵亮 | 助監督/杉原涼太・森岡伶奈 | 制作/石塚達也 | 脚本/木島悠翔・石川真吾 | 編集/塩谷友幸 | 音楽/原 夕輝 | 8分 | コメディ | This film made for the 48 Hour Film Project 2019. |  ©︎2019 STONE RIVER

 

【ストーリー】

201X年、空前の人手不足により、AV業界に革命が起きた。汁男優専門派遣会社の誕生である。その期待の新人、岸島力(31)の初現場は河原での屋外プレイものであった。12月の寒風の中、パンツ一丁で震えただ待つ岸島。一方その頃、AV監督が行方不明になり現場は大混乱をきたしていた……

 

【予告編】


【予告】裸で汁を出すだけの簡単なお仕事です。/Tokyo 48hfp 2019

 

 

裸の男たちを撮るだけの簡単な48時間です。その②

#48hfp #裸汁

裸の男たちを撮るだけの簡単な48時間です。その① - FilmMaker Ishikawa Shingo

 

映画をつくるのは簡単じゃないよ、というメイキングの2本目です。どうぞ!

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11/30(土)

10:30~

現場へ移動する。制作部の石塚達也くんの運転だ。車内ではわいわい言っているのだが胸中は複雑だ。そもそもこの11月の末に48時間映画祭を開催するのが暴挙だ。日照時間が6月開催に比べて4時間短い。16時にはデイシーンの撮影は不可能になる。我々はスタートから遅れていて、撮影開始は11:30だろう。メシ押しでやらさせてもらっても撮影時間は4時間半しかない。4時間半映画祭だバカヤロウ。9ページ撮りたかったら1時間で2ページ消化せにゃならん。そんなハイスピードで撮影できるのか? 気分良く撮れるのか? おもしろいものになるのか? 移動の30分でちょっとだけでも寝たかったが、思考がぐるぐるして竜巻のようになって首を絞めてくる。それでも目を閉じた。目覚めたら名案が浮かんでいればいいのに。

11:00~

河原の待ち合わせ場所に着く。撮影のハルさん、録音の小牧さんと合流。照明部とも合流。実は照明部とは初対面であった。堀口健さん。助手の阿部さん。あ、どこかで会ったことがある……。昨年公開された『鈴木家の嘘』という映画で3週間一緒でしたね。ありがたいやら心強いやら。そもそもこの体制で照明部がふたりもいるってどんな贅沢な現場やねん。わしが来年あたま参加する配信ドラマの現場なんて照明部なしなんだぞ。
録音の小牧さんと撮影のハルさんにシナリオの感想を聞く。「面白かった」と。多くの現場を共にした戦友から褒められると無条件に嬉しい。ちょっと自信が出て来た。というか、撮影中なんかは無根拠な自信がないとやれないものである。自分を騙し続ける力とでも言おうか。そうでないとスタッフもキャストもついてこれないのである。
なんてことをうだうだ考えている暇もない。なぜならあと4時間で太陽は沈み、あと30時間で映画を完成させて提出しないと失格だからだ。48時間映画祭はえげつない。

11:15~

機材を運び込む前に、どこで撮るかの相談。昨日ロケハンに来たはずだが、その頃はストーリーのかけらもなかったので、シナリオを元にあらためて撮影場所を検討する。ゴルフ場だった場所なのだが、台風の影響で浸水して水が抜けきっておらず、ぬかるみになっている場所だ。移動にまた時間をとられる。
撮影の川口晴彦氏、別名PHOTOGRAPHER HAL氏との付き合いも数えて見たら10年になる。氏は気鋭のアートカメラマンで、男女を真空パックする写真が有名だ。当時は広告会社に勤めていて、有名クライアントやタレントを数多く撮っていた。カンヌで広告賞をとったこともある。ハルさんはスチルカメラに動画機能が付き始めた頃から動画に興味を持ち出して、動画のお仕事で私がアシスタントに付いたり、逆に僕の自主映画でカメラマンとしてお誘いしたりで交流を深めていった。僕の監督作でカメラを回してもらうのは3作目。商業映画のカメラを回すのは2回。いずれも僕が現場についた。
「どう撮るか」もよく考えてくださるが「どんな光で撮るか」を常に考えてくださるので、映像表現がじつにうつくしい。僕の過去作を観てくださった方の感想で「映像が綺麗だった」という意見はよくあって、それはすべてハルさんのおかげであります。感謝。
映画ばかりやってきたカメラマンは、芝居を撮る、現場を回す、ストーリーを語る。そういう意識が強い(ひとが多い)。純粋にうつくしい、フォトグラフィックな絵を撮る、そういう意識の優先度がどうしても低くなることがある。なのでハルさんが撮る映画の絵は独特だ。ストーリーに隷属しない。1枚1枚が絵画のように独立性が高い。同時にそれは、パワフルなストーリーを作らないと絵に負けちゃうということを意味する。ああ、怖い。


11:30~

機材を運び込み、美術もセットした。俳優も入った。シーン2、川辺の道。段取りを始めた。クランクインだ。ああ、なんか普通のメイキング記事みたいで嫌だ。台風でセットが吹っ飛ぶとか、主演俳優が死ぬとか、そういうアクシデントは一切なかった。監督が寝てない、くらいのものだ。そんなの普通だ。だいたいの現場がそうかもしれない。そもそもほとんどの俳優、スタッフが私の連絡が遅れたせいでちゃんと寝ていない。
学生時代から合わせて17年映画を作って来ているが過去最大のトラブルってなんだったかな。学生時代のラストに撮った映画は、ロケの前日に雪が積もったが翌日ピーカン晴れで全部溶けたんで問題なく撮影できた。長崎でオールロケをした映画は50年に一度と呼ばれる台風が来て、記録超えの大雨が降ったが、翌日撮影をしようとなったらものすごく晴れた。私はラッキーなのかもしれない。
あ、ひとつ思い出した。2011年3月12日だ。そう、あの東日本大震災の翌日、われわれは埼玉でロケをしていたのだ。ガソリンの20リッター規制が始まって、ガソリンスタンドにものすごい車の列ができた。撮影現場にまで車の列がのびてきて撮影にならないので仕方なく、皆で赤棒をふって車両誘導をした。原発がやばいらしいと噂しながら、SFみたいだねなんつって密かに興奮していた。まだ詳しい報道がなかったのだ。その日の晩のニュースで原発メルトダウンが報じられ、笑顔は凍りついた。あれから日本社会は劇的に変わったようで大して変わらなかった。僕の人生も激変した。が、なんだかんだ映画を作り続けている。

 

11:45~

シーン1はAVの画面なので夜、家で撮る。シーン2は橋野、横須賀、小坂、長崎、柳生はる奈の河原でのシーンだ。映画はシーン1から順番に順撮りするのが好きだ。その方が準備も手間がかからないし、俳優の負担も少ない。僕はことに最近、「出たとこ勝負」で撮るのが好きになってきた。ドキュメンタリーの撮影や編集を仕事でいっぱいやったからかもしれない。脚本という図面をはみ出した「なにかすごいもの」を捕まえるには、順撮りでないと対応が難しい。
お芝居がだいたい固まって来たんでカメラの指示をした。パットレールを借りて来たのでここぞとばかりに使う。パットレールとは、電車移動でも可能なくらい軽量で簡略化された、日本のリーベック社のドリーシステムである。カメラがなめらかに水平移動すること自体に、現代の観客はなにも驚いてくれない。あらゆる映像に多用される表現だからである。クレーンやドローンやジンバルなどで、もっと自由自在なカメラワークもよく見る。
移動撮影は「映画文法の父」D・W・グリフィスが発明したらしい。モンタージュ、クローズアップ、フラッシュバック、フェードイン・アウト、イマジナリーライン、クロスカッティングなど、現在でも使われるたいていの映画技法はこのグリフィスさんが発明している。この人はKKKをヒーローとして扱ったりのとんでもない差別主義者な上、映画はぜんぜん好きじゃないんだが、偉大な人だ。なにが偉大って、「基本はフィックス」なんですね。
フィックスで撮影された映像がドリーで水平移動することには、一種の感動が伴う。カメラの動きに何かエモーションがこもるのだ。しかし、ドリーは多用すると効果を失う。いまのCM,PV,VPは多用しすぎだ。水平移動と静止は必ずセットだ。そしてカメラの動きはドラマの動きと連動すべきものなのだ。「映画は意味の王国」であり、カメラの動きにもすべて意味がしつらえてある。
『裸汁』には二箇所だけドリーカットがある。特機の撮影は時間がかかるから、ここぞというところにしか、使わない気でいた。具体的には冒頭と、クライマックスだ。
もう一つ、今年はこうしよう、と思っていたことがあって、ナレーションで主人公をむりやり立てないということだ。シナリオの教科書には主人公のナレーションで進行するシナリオはダメ、とよく書いてある。全2作はナレーションで進行させてみた。複雑な現代社会で複雑な物語を語ろうとすると、どうしても言葉以外では語れない。そしてナレーションは主人公を簡単に立ち上げてくれる。
今回それはあえてやめた。無名のモブ(群集)のなかから主人公が立ち上がってくるような映画にしたかったのである。冒頭、主人公が立ち上がりそうなところでドリーが水平移動してカメラに感情を伝えている。うまくいったかなあ。

 

12:15~

これは書くべきか迷ったのだが、「トチっちゃう俳優に対してどう対処すべきか」というのも整理しておきたいので書く。俳優がセリフを間違える、噛む、うまく喋れない。基本的に僕は「いいよいいよ」と言って待つタイプだ。OK出るまで何度でもやればいい。時間が許す限り。48時間映画祭だろうが商業映画だろうが時間など結局ないのだ。
え、あの有名俳優も?と名前をあげると皆がビックリするような方が何回もNGを出している局面も何度も観たことがある。休憩をとる手もある。
しかし妙案はない。待つしかない。なるべくスタッフは「あ〜あ、またかよ。こいつのせいでスケジュール押すな……」みたいな態度・表情は避けてあげて欲しい。共演者は優しい人が多い。互いに役者だから理解がある。
加瀬亮さんから聞いた身の毛もよだつ話だ。北野武組はワンカット主義なので、トチる俳優はその場で「あんちゃん、もういいよ」ってセリフのない役に交代させられちゃうそうだ。百戦錬磨の加瀬亮さんもそのときばかりは大緊張したそうだ。48時間映画祭では、僕はなんせ、朝、シナリオを渡しているのだから、できなくて当たり前だと思っている。じっくり待って、いい演技を引き出したい。でもね……陽がないんや!!!そして、現場でOKだが編集でNGというのはよくある!!ありすぎる!!どうとでも編集できるように撮っておけばよかったという後悔は尽きない!!くえええええ!!!

 

12:45~

お題は派遣社員。小道具はメニュー。セリフは「それば別の問題だろ」。このお題に対してうまい解答を物語で返せればいい評価が得られる。なので、メニューをヨリで撮る。そういうチームは多いだろう。いちおう僕も、メニュー(AVの撮影内容)のヨリは撮った。保険でね。結局使ってない。メニューに限らず、最近どうもクローズアップが好きじゃないんです。近すぎる。ほかが見えなくなる。俳優だけじゃなくもっといろいろ見たい。思わずカメラマンが被写体にかじりついてクローズアップを狙いたくなるような絶世の美女ならいざ知らず、だ。スクリーンはデカく高精細になっていっているのに、映画のサイズが大きくなっていってるのはなぜなんでしょうね。人間の全身を、その人が置かれている環境と一緒に撮りたい。まあ今回は汁男優たちが主役で、かれらがパンツ一丁なんで面白い絵は当然フルショットになる。
汁男優は単体の存在ではない。10〜20人くらいの団体でいるから際立つ。個人が突出してはいけない。匿名の集団の中から、個人がひょっこり立ち上がってきて、混沌のなか、彼なりの魂の復活を遂げる。汁男優は顔も映らない。実際にAVの撮影現場では、「顔が映るのが嫌な方はサングラスとマスクをしてください」とアナウンスされるそうだ。元漫画家で、AVの制作会社に就職した方がWEB漫画にそう書いていた。自分の性器と行為を晒しておきながら顔は隠しておきたいという気持ちはよく分からん。
ところで、汁男優については取材をしなかった。する時間もなかったのが。インターネットでもあまり調べなかった。これはリアルな汁男優についての社会階層的な告発映画ではないのである。僕はその業界の悲惨な部分ばかり見てしまうようなところがある。あくまでコメディなんで、お笑いなんで、リアルな業界の方、事実誤認はご容赦願います。

 

13:00~

シーン4、川辺の道。小坂氏の説明台詞炸裂。説明台詞は必要悪である。これは一種のファンタジーなので(AVの汁男優の派遣会社なんて実際はない)、台詞で説明しなければいけないことは多いのである。「岸島、お前は甘いんだよ。こういう現場はじめてだろ?派遣先で言われたことは守る。それが派遣AV汁男優社員たるものの使命だよ」この台詞が不自然かどうかは観客の判断に委ねるしかないのだが、小坂氏の先輩ヅラしたがるキャラもあいまって退屈ではないシーンに仕上がった気がする。
小坂、横須賀、橋野の3名のグルーヴ感というのか、男同士でわちゃわちゃやっている感は思ったよりうまく行った。段取り、テスト、本番と芝居を重ねるごとにテンションは高くなって行った。より下品に、より動きのあるものに変わっていった。橋野氏はことあるごとに「もっとやっちゃっていいですか」というようなことを聞いてくる。やっちゃっていいんだよ。その時は答えられなかったけど、我々には編集という最強のハサミがあって、過剰な部分は切っちゃえばいいんだから。
長崎達也さんには川を見つめて一切何もしないでください。無反応でお願いします。としつこくお願いをした。ご本人は演技している感がなく不満げだったが、これが面白いから大丈夫なんです。
アクの濃い4人のグルーヴに割って入る、イケメンAV俳優役の雅マサキ氏。人をイライラさせるなかなかの悪役っぷりで素晴らしい。

 

13:30~

シーン6。座って暖かいコーヒーを飲んでくつろぐ雅氏とそれをうらやましげに見る橋野氏。ここではじめて橋野氏の単独ショットが出てくる。ハル氏はもっと寄ったサイズを狙っていたようだが、寄ったサイズはまだお預けだ。クローズアップも多用すると効かなくなる。ここぞという時に寄るのだ。まだその時じゃない。このサイズ感覚は僕のもうひとりの映画の師匠、亀井亨監督の現場で教わったことである。映画はスクリーンが大きいので、対象を大きく写しすぎる必要はない。亀井監督と長年組まれているカメラマンの中尾正人氏の基本サイズはニーショットである。芝居をこれ以上ないベストなポイントでベストなサイズ感で撮影してくれる。編集マンが小細工する必要のない映画的な絵だ。

 

13:50~

シーン8。一連の河原のシーンの最後で、映画のクライマックス部分の撮影。雅氏の横暴と暴言に橋野氏がとうとうキレるシーンである。ここでもドリーを使ってカメラを水平移動させた。うまくいったかなあ。

 

14:00~

いい加減現場移動しないと陽がヤバイと助監督の杉原涼太氏がいう。彼は『川越街道』の現場で知り合った。今は東京芸大の映画制作の現場で重宝されているようだ。学生から人気ありそう。声も顔もいいし、じっと待てる人間だから。僕なんかが一生かかってもたどり着けない境地ですね。現場移動の前に1カットだけ撮っておかないといけないカットがある。シーン7の橋の上からの主観ショットだ。俯瞰めで引きで撮っておけばどうにかつながる。これも汁男優たちがわちゃわちゃしている好きなショットになりました。奥には川が流れ、高速道路にはせわしなく車が往き交い、さらにその奥にはスカイツリーがそびえ立っている。社会の端っこ、破れ目にいる感じが出ている。満足。ま、このショットを観た観客はそんなこと一切感じ取らないだろう。ギャグシーンで使っているからね。

 

14:15~

いよいよ陽がやばい。タイムリミットまであと2時間を切った。残るシーンはプロデューサー、ヘアメイク、AV嬢が監督を探すシーン。ミヤビが水に落ちたら……というシーン。エンドロール。あと3つだ。橋へ移動する。徒歩20分くらいのところだが機材の量も量だし俳優たちの体力も考えて車で移動することにした。それが間違いだった。

 

 

 

短編映画『裸で汁を出すだけの簡単なお仕事です。』

12/15(日)14:30より上映

会場:なかのZERO 西館 小ホール

東京都中野区中野 2-9-7

48時間映画祭プレミア上映会

入場料1000円

 

出演/橋野純平・横須賀一巧・小坂竜士・長崎達也・柳生はる奈・宮本晴樹・雅マサキ・つかさ・泉光典

監督/石川真吾 | 撮影監督/川口晴彦 | 撮影助手/藤田恵美 | 録音/小牧将人 | 照明/堀口健・阿部陵亮 | 助監督/杉原涼太・森岡伶奈 | 制作/石塚達也 | 脚本/木島悠翔・石川真吾 | 編集/塩谷友幸 | 音楽/原 夕輝 | 8分 | コメディ | This film made for the 48 Hour Film Project 2019. |  ©︎2019 STONE RIVER

 

【ストーリー】

201X年、空前の人手不足により、AV業界に革命が起きた。汁男優専門派遣会社の誕生である。その期待の新人、岸島力(31)の初現場は河原での屋外プレイものであった。12月の寒風の中、パンツ一丁で震えただ待つ岸島。一方その頃、AV監督が行方不明になり現場は大混乱をきたしていた……

 

【予告編】


【予告】裸で汁を出すだけの簡単なお仕事です。/Tokyo 48hfp 2019

 

裸の男たちを撮るだけの簡単な48時間です。その① - FilmMaker Ishikawa Shingo

裸の男たちを撮るだけの簡単な48時間です。その③完結編 - FilmMaker Ishikawa Shingo

裸の男たちを撮るだけの簡単な48時間です。その①

#48hfp #裸汁

 

今年も、お題をもとに脚本執筆・撮影・編集・納品まで48時間でこなす「48時間映画祭」という鬼のような映画祭に参加しました。12/15(日)14:30に中野ZEROで初出し上映があります。

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裸汁

その血と汗と涙のネバネバなドキュメントをお送りします。題して「裸の男たちを撮るだけの簡単な48時間です。」超長いです!どうぞ!

 

11/29(金)


10:00~

起床。今年は何をやってもうまくいかなった。今回もきっと失敗する。そんな不安で目が覚める。あ、しまった。寝坊だ。

11:00~

撮影のハル氏と機材保険屋へ

12:00~

新橋で「カレーは飲み物」食べる


13:00~

赤羽岩淵から荒川を北上、ロケハン。台風の爪痕ですごい景色。

16:00~

一時帰宅。メシ食い仮眠しようとするが興奮して寝付けない。


17:00~

中野ZEROへ移動。スタッフキャストが段々と集まってくる。今回はキャスト9人。スタッフ11人の大所帯。前回の『ラジオスターの奇跡』の時はスタッフキャスト合わせて9人しかいなかった。仲間が増えて嬉しい。わーい。


17:50~

知り合いも集まってきたので挨拶をする。宿敵CNSSの連中にケンカを売る。古い友人の月足氏に呪いをかける。イケメン撮影部の田邊氏を恫喝する。ライバルを葬るところから48時間は始まる。


18:00~

キックオフ開始。わがStone Riverが引いたジャンルは「喜劇」と「ダーク・コメディ」。(苦手な)お笑いをつくらければならない。そう直感し、頭が停止した。


18:10~

よそのチームがクジを引いている間にシナリオライター木島悠翔氏を隣に座らせて作戦会議。あれこれ話す。が、結局wikipediaで「喜劇」を調べるだけで終わった。


18:40~

イデアはなにも浮かばないので他チームのクジ引きを見てほくそ笑んだり、Bar DUDEの悪評を広めたりして過ごす。


19:00~

お題の発表。キャラ「岸島力」派遣社員。小道具「メニュー」。セリフ「それは別の問題だろ」なんのこっちゃ。どうしよう。


19:05~

永遠のように短く、稲妻のように一瞬の、48時間が始まった。


19:25~

かねてから押さえていた会議室に到着。14人。人数とスペースの計算を完全に間違えており、ギュウギュウのすし詰め状態になる。


19:30~

シナリオ会議と称し、スタッフキャストからアイデアを募る。会議とは名ばかりの雑談タイムであった。だが、場は盛り上がっている。チームの絆も強まっていったような気がする。気のせいかもしれない。


20:30~

橋野氏から「汁男優のヒエラルキー」の話が出て、話題がそっち方向に振れる。皆、下ネタが好きなのだ。だが、いっこうにシナリオになりそうな流れはできない。

21:30~

どうにか下ネタから離れようと、俳優のやりたい役をヒアリングしたり、社会問題をピックアップしたり、石川の求める「復活」の物語や「弱きものたちの反撃」のモチーフなどを話す。が、いっこうにまとまらず、シナリオ会議、延長。


22:00~

とある個室居酒屋で延長シナリオ会議。のつもりが酔客がすさまじくうるさい場所で「中野で今いちばんふさわしくない場所を選んでしまった」と泉光典氏。まったく集中できず。とにかく、木島氏と石川で別々で一本書こう、となって解散。料理もマズくて会計も高かった。踏んだり蹴ったり。


24:00~

自宅に帰る。すさまじい眠気。パソコンを開いてキーボードをつなぐと眠気がバキっと消え、サクサクと文字を打ちはじめ……られたらどれだけいいか。白紙のエディタ画面で永遠にも似た「書けない〜」が続く。頭を掻き毟り、脇を掻き、その辺をウロウロウロしてうろたえる。はたから見たらただの変人であろう。


24:40~

とにかくは、まずはキャラクターなのだ。キャラクターを決めよう。魅力的な9人もの俳優に、とりあえず役名と職業とか性格を当てていくのだ。キャラクターが魅力的であれば自然と物語が走り出すはずなのだ。役者の顔をプリントした紙をカード状にして、A団体、B団体、C団体、などと階層分けして、組み合わせを考えていく。うむ、うむ、ふむふむ、うむむ……


24:50~

何も書けずに机に頭を垂れている。


25:00~

とにかく最初のワンシーンを書くのだ。書いてあとから直せばいいんだ。ホンがつまらなくてもいい。今回のチームはなんせ、俳優がいい。編集マンがいい。音楽家がいい。どうにかなるさ。


25:10~

2シーンめで手が止まる。やばいやばいやばい。物語もキャラクターも動き出さない。このままでは風景をつなげただけの映像集になってしまう。それは私の理想とするエンタメ映画とは程遠い。どうしよう。映画監督やめて絵葉書屋に転職するか。


25:30~

一幕目まで書いたが、セットアップしたという感覚がない。物語が動かない。なにより眠い。

26:00~

木島氏のシナリオが送られてくる約束の時間だが来ない。かれも苦しんでるのかもしれない。うっしっし。


26:30~

中盤まで書いて、頭から直す。そういうことはよくある。人物の配置もやり直す。進まない。眠い。

26:45~

いよいよクライマックス。対決の構図がうまくできていれば盛り上がるはずなんだが、盛り上がらん。ショボボボーン。とにかくエンドマークまで書く。

27:00~

初稿完成、と同時に木島氏が家に来た。彼も初稿が出来たのでプリントアウトして読むことにする。古い人間なのか、紙でないと読んだ気がしないのだ。なんと我が家にはプリンターがなく、徒歩2分のセブンイレブンにプリントに行く。このちょっとした散歩が気分を楽にしてくれる、なんて思うことはなく、プリンタ買っておけばよかったなどと後悔ばかりする。


27:15~

互いの初稿を読む。うむむむむ……お題は「喜劇」か「ダークコメディ」。なのに……ひとつも笑えん!社会風刺が効き過ぎていて、リアルすぎて笑えん!そもそも殺人とか自殺とか生活保護費不正受給とか、そんなネタ、笑えん!こ、困った……あと4時間後には撮影始めるって言ってたのに……放心。


27:25~

まだ放心している。


27:30~

会議のときにとったノートを整理する。使えそうなネタで、笑えるやつがひとつだけあった。しかしそれは、ド下ネタだ。やるか? 石川真吾は高級そうな映画で売ってたんじゃないのか? バカバカ。まだなにひとつ売れてないだろうお前は。やるかやらないかの人生だったら、やるほうを選んでここに立っているんじゃあないのか? ……やるんだよ。木島氏に、既存のシナリオはすべて破棄し、「汁男優のヒエラルキーもの」で一本書くよう命じる。キャラ設定はこうだ!と思いつきを伝える。


27:45~

木島氏は隣でパチパチパチ書きはじめている。と、突然タイトルが降りてきた。「簡単なお仕事です」とは、求人広告などでよく見られる宣伝文句の一つであり、それをパロディにした投稿もネットでよく見かける。タイトルの候補を検索し、カブりがないか調べる。AVとかでありそうだからだ。よし、ない。タイトル決めた!『裸で汁を出すだけの簡単なお仕事です』だ!隣の木島氏に伝える。氏はプッ、っと笑った。お、笑った。よし、いけるかもしれん。


28:00~

朝4時だ。あと3時間後にはキャストスタッフが集まり出す。くうう、眠い。20代の頃は二日起きて半日寝る、みたいな無茶をよくやっていたものだが、36才ともなるとそういう無茶はきかない。正確にいうと徹夜はできるのだが翌日へのダメージがひどい。そして、正常なリズムに戻すのに時間がかかる。「正常なリズム」とは要するに朝起きて夜寝ることだ。こんな簡単なことが我々映像業界の人間には難しいのだ。ちゃんとした睡眠、規則正しい生活、糖質控えめ野菜多めの健康的な食事で、メンタルの問題も肉体の問題もだいたい解決する。

つまり心と体はひとつである。心が弱っているなら休む。心を強くしたければ体を鍛える。体を鍛えたければ心を鍛えるのだ。ええと、なんの話だっけ。そう、つまり映画作りにおいて睡眠不足はもはや友人のような存在だが、その友人は廃人になる危険なドラッグを売りさばいている売人でもあるのだ。いいもの作りたければ、寝ろ。だが私はまだ寝れない。


28:25~

登場人物表を作ったり、タイトルロゴを作ったりする。私のシナリオ執筆スタイルはかなり独自だろうと思う。wordは使わない。O's Editorも使わない。テキストエディターも使わない。かといって原稿用紙に手書きでもない。私が使うのはInDesignである。これはDTPソフトの代表的なもので、多くの書籍、雑誌、チラシ、新聞などの組版に使われている。もっとも、InDesignでは原稿は流し込みするだけで、ワープロのように扱う人はごく少ないだろう。私はInDesign上で直接テキストを打ち込む。小説家の京極夏彦氏は読者が読む本と同じレイアウトでそのまま作品を執筆できるとしてInDesign上で執筆しているそうだ。私もそれに倣ってみたのだ。

日本のシナリオのフォーマットは世界的に見ても独自のもので、業界標準のようなフォーマットがある。シナリオ専門の印刷屋もおそらくInDesignを使っているだろうから、私が再現できないはずはない。そう思って再現した。完成度はまだ80%くらいだが、このデータ、欲しければあげます。次に撮りたいと思っている長編映画の台本はInDesinで版下を作って入稿するつもりだ。こうすることで台本にかかるコストを最小限に抑える。印刷屋に出して製本する方が、街のプリンタで印刷するより安いのだ。安いといえば私の師匠のケチぶりは凄かった。シナリオ印刷の際はロケ地としてお借りする大学の論文プリント用プリンタを無償で借り、ホッチキス止めも学生にノーギャラでやらせるという徹底ぶりであった。

そういえば師匠との10年近い付き合いのなかで、メシを奢ってもらったのは誕生日の日に徹夜で作業させられたときだけだった。マイクロな映画づくりを身体で体現させてもらった。師匠はあまりにひとりで多くのタスクをこなし、家庭のお金を使って映画を作った生で、ご家庭の理解が得られなくなってしまった。今は映画づくりをおやすみして、小説家としてご活躍されている。映画づくりで家庭が壊れることは、あります。みんなも気をつけてね。


28:30~

買い出しに出る。中野のドン・キホーテはあと30分で閉まる。狙いは、AV女優「カグヤ」のエロ衣装と、ザーメンローションである。擬似精子を作るのは面倒なので既製品があると楽だな〜と思っていたが、あった。ラッキー。しかしこのザーメンローション、ただの白色のついたローションなのだが撮影以外で何に使うのだ? 恋人の顔にかけてAVごっこでもするのか? 性の世界は奥深いなあ。カグヤの衣装も選ぶ。サンタと、きわどい看護婦の服を買った。つかささんに似合うとよいが。

そうそう、汁男優の真っ白なパンツ、あれもほしい。1パンツ500円の綺麗なラインのパンツがあったのでこれにする。6着買った。できればブランド名が書いてないもののほうがよいのだが。まあしょうがない。48時間映画祭で細かいところを気にするとドツボにハマる。まあ普段から細かいところはガサツなのだが。


29:00~

自宅に帰る。と、ちょうど木島氏のシナリオ初稿があがったという。プリントして読む。ふむふむ、おお、面白い。バカだ。アホだ。くだらね〜。俳優たちとも長時間話し合ったおかげで、俳優ごとのキャラクターの色が出ているシナリオになっている。これならいける。とはいえ、もっとパンチが欲しい。ここから更に、自分で直すことにする。木島氏が隣に座ってアドバイスをし、私がキーボードを叩く。背後霊スタイルだね。


29:15~

背後霊スタイルで執筆を続ける。ハコは木島氏のものを活かし、セリフとキャラクターをもっと立つように改稿する。要するにもっと下品に、もっと悪くするだけだ。得意だ。普段から口が悪いから。しかし途中まで書いて、指が止まる。木島氏の初稿ではAV女優のカグヤが撮影中に行方不明になり、裸で待たされている汁男優たちがケンカを始める。カグヤはのちのち見つかるのだが、その理由が……。かわいい理由なのだがあまり笑えない。

ミステリーの世界ではフーダニットは終わり、ホワイダニットになったという。Who done it ? からWhy done it ? に変わったのだ。つまり、犯人探しから、なぜ犯人はその犯罪を犯したのか、という理由に焦点が当たるようになったのだ。そう、謎で引っ張るタイプの物語(なぜカグヤは失踪したのか? )は、その謎が解明した時に観客にショックを与える、観客の世界観を更新するくらいのものでないといけないのだ。 ここががっかりだと映画の評価もがっかりになる。『殺人の追憶』とか『ゴーストライター』なんて素晴らしかったですね。


29:20~

あれこれ考えて、カグヤが失踪するのはやめた。どうしてもラブコメのような要素が入り、笑えない。代わりに失踪するのはAV監督だ。演じるのは盟友・泉光典氏である。私が学生の頃の自主映画から出てもらっている。もう15年くらいの付き合いだ。ドイツの映画祭にも一緒に行った。彼が主役の映画も2本撮っている。中野量太監督の常連俳優でもあり、『Doctor X』なんかの有名テレビドラマにも出ている。自分の中では「ちゃんとギャラを払って」呼ぶべき俳優なのだが、Twitterで「俳優募集」なんて書いたらまんまと手をあげてくれた。うっしっし。という訳で下手な役では使えない。ここぞというところで決めてくれる俳優なのだ。というわけで大オチのところで見せ場をかっさらう役にした。これ以上ない適役だ。自分で自分を褒める。


29:30~

セリフはセンスだと思う。とある売れっ子シナリオライターと仕事をしたときも、セリフのセンスにどうしても納得がいかなかった。構造やキャラクターは勉強すれば向上するが、セリフは磨くのが難しいと言われる。セリフには機能がある。しかし、機能を満たしてもセンスのないセリフ回しというのもある。セリフはセンスなのだ。センスは学習できない。木島氏のシナリオも非常に良くできていたが、いかんせん上品だ。作品賞をかなぐり捨ててでも下ネタで笑いを取る、と決めた以上、お上品ではいかん。徹底的に下品に笑いを取りに行く。という覚悟で、木島氏にこう言った。「セリフを徹底的にいじるからゴメンね」木島氏は了承してくれた。了承せざるを得まい。げっひっひ。というわけでより下品に、より強烈な台詞回しに改稿を進める。


29:50~

目標も決まり、順調に改稿が進む。分からないことがあると横にいる木島氏に聞く。背後霊システムがうまく行っている。さて、大オチだ。監督がなぜ失踪したか? だ。これが決まらないと、映画が台無しだ。木島氏とあれこれ話しながら練る。もはや、眠気はない。脳が高速でスパークしている。触れれば燃えるくらい熱くなっている。目はギラギラと充血しておりまるでゾンビのようであっただろう。

そう、これが映画づくりである。睡眠を削り、命を燃やして映画を作っている。お金はもらえない。というか損ばかりだ。しかし、限りない充足感がある。麻薬のようにドーパミンがどばどば出ている。一度やったらやめられない。


30:30~

朝6時半。外はうっすら明るくなってきた。監督の失踪理由と、エンドロールのビックリな仕掛けを書き加え、脱稿。書き終えると、不安が襲ってくる。大丈夫か、これ。深夜のノリで書いたものを翌朝読むと、恥ずかしさで死ぬというあの法則が適応されるんじゃないか? まず木島氏に読んでもらう。あ、笑ってる。「面白いですよ」おお、うれしい。しかしほんまかいな。15分だけ仮眠をとることにする。


30:45~

自分の寝室に行き、布団に横になる。交感神経がささくれ立ち、脳が高速に回っていて、アドレナリンがビュンビュン全身を駆け回っている。寝付けるわけはない。が、横になって目を閉じるだけで疲労は多少回復する。多少な。だれかおいらにホイミをかけてくれ。

 

11/30(土)


7:00~

結局寝付けなかったので、自分の部屋で、劇用の小道具のイスとかマグカップとか、ブルーシートとかを用意していた。今回は超豪華スタッフで、撮影・録音・照明・助監督・制作・編集・音楽のスタッフがいる。通常の商業作品ではいるはずだが今回あえて呼んでないスタッフもいる。それがプロデューサーとヘアメイクと衣装だ。ヘアメイクと衣装はかなり意図的に、お声がけを控えている。プロのヘアメイクさんにも衣装さんにも友達はいるし、声かけたらきっとノリノリで参加してくれるだろう人も知っている。だが、呼んでない。ヘアメイクも衣装も、かなり重要な役作りのプロセスだから俳優自身がやるのがスジだと僕が思っているからである。

例えば時代劇とかSFとか特殊なものや、スクールものでセーラー服が大量に必要、とかは衣装部がいないと無理だ。だが、現代劇なら、俳優が用意すべきではないかと思う。映画産業の分業が進みすぎて、衣装メイク部が俳優の仕事を奪っている側面がある。役者が役について考える際に、とても重要な要素である、服やメイク、髪型などをサボっている俳優はいないだろうか?

こういう考えに至ったのは最近のことである。今年の夏、京都で大作の時代劇映画に制作部として参加していた。有名若手俳優が冷たい井戸の水を頭から被り、気合いを入れるというシーンだった。衣装部から制作部には、お湯を大量に用意せよという要求があった。要するに、俳優にはぬるま湯をかぶってもらって、冷たいという「お芝居」をしてもらおう、という衣装部の気遣いなわけだ。僕は非常に疑問を持った。

それは過剰な気遣いじゃないか? 撮影所だから3分で行けるシャワー室がある。真冬の撮影じゃない。真夏の撮影だ。そもそも気温は高く、水道の水はぬるい。バスローブやバスタオルも完璧に用意してある。冷たい井戸水をかぶって気合いを入れるシーンだぞ? お湯を被るのは芝居を殺さないか? 俳優が要望したわけでもないのに? 木村大作はこういう言葉を残している。「標高3000メートルの本物の山に俳優を連れて行く。それが僕の最大の演出だ。」……もし僕が大作の監督をまかされたら、芝居を殺すような気使いは一切排したい。

ま、しかし、現代の映画づくりにおいて、衣装部が不要だとまでは思っていない。そもそも順撮りではないことが多いので、複数の衣装を管理してもらうだけでも重要な任務だ。ほかにも、俳優とのコミュニケーションを取ったり、ケアをしたりするのも重要な仕事だ。僕が自主映画出身で、自主映画でしか監督したことがないから、衣装は自前、メイクも自前、が当たり前になっているだけかもしれない。ただ、日本映画100年の伝統よりも、僕は僕なりのやりかたで映画を作りたいのである。


7:30~

最初に合流したのは制作部の石塚達也くんだ。株式会社エルエーに所属の若手だ。素直でよく働く青年だ。元警官、元シェフという謎の経歴の持ち主である。10人乗りの車で来てくれた。台本の人数分のプリントを任せた。


7:36~

グループラインにようやくシナリオPDFをのせた。とりあえずタイトルいいすね!という録音部小牧氏のコメントがうれしい。


7:45~

俳優たちが続々と我が家に集合する。先ほどまでの静寂な朝は完全に吹き飛び、ガヤガヤドカドカ賑やかなリビングへと変貌した。俳優に製本したシナリオを直接手渡しする。その際に僕ができることはひとつ。土下座して「すまん、裸になってくれ」と頼み込むことだ(このレポートはときどきフィクションが混じります)。いや、ほんとうに謝りながらシナリオを渡したのですよ。皆ありがたいもんで「喜んで」とか「はい、わたし脱ぎます!」と返してくれたんですけれども、最年長の長崎達也さんだけはマジで裸になるのを嫌がってましたね。


7:55~

衣装合わせって楽しいんですよね。基本的に友達の俳優を呼んでるので、「友人」から「俳優」にモードチェンジするのがまた見てて楽しいわけですね。さて、純白のブリーフに身を包んでもらいました。いちおう脱いでもらって写真も撮りました。よし、大丈夫。笑える。ビジュアルだけで笑える。というかそれしか頼りがない。キャストにシナリオの感想を聞く。面白い、笑えるそうだ。ほんまかいな。この状況では面白いという他ないではないか。今から2時間後は撮影するんだから。面白くなくても面白いと言って撮影に臨まざるを得ないではないか。恐ろしいな48時間映画祭。


8:00~

汁男優役は3人。まずは小坂竜士。今年の夏の京都の現場で出会い、マブダチになった。山口出身のアツい男だ。とにかくデカい。喧嘩っ早い。曲がった事が嫌い。よく飲みよく食べよく喋る。
つぎに、横須賀一巧。ロン毛ヒゲの怪しいビジュアルで、しょっちゅう警察に職務質問されるらしい。昨年作品賞いただいた『ラジオスターの奇跡』でもホームレス役をやってもらった。彼がいなければあの物語は発想しなかっただろう。ENBUゼミナール出身で、『川越街道』という作品に参加していた時に出会った。気も会うし、演技も柔軟でよい。
長崎達也。「魁演塾」というワークショップがあって、そこで出会った面白いおじさんである。とにかく見た目がいい。小細工では作り出せない天然ものの味がある。本業は歌手である。撮影の翌日にはディナーショーで歌うという仕事があるため、なるべく早く帰すため色々気をつかった。演技も味わいがあるが、器用なタイプではないので「飛び道具」として使わしてもらおうと決めていた。飛び道具は失礼か。「コメディリリーフ」として使うつもりだった。なので、セリフはない。大丈夫、よく喋るやつ(小坂と横須賀)を隣に配置しているから、逆に目立つ。年齢はなぜか教えてくれないのだがおそらく僕の父親くらいの年齢(76)だろう。裸にしちゃってすいませんでした。
汁男優3人の衣装合わせは一瞬で終わった。当たり前だ。パンツ一丁だからね。

8:15~

売れっ子イケメンAV男優役・雅マサキ。彼も夏の京都の現場で知り合った。確かまだ23歳と最年少だ。京都では2週間しか一緒にいなかったのだが、過酷な現場だったので、まるで何年も付き合いのある親友のような気分だ。彼はどう思っているか分からんが友情なんて一方通行でよいのだ。実は、雅くんの演技は一切見たことがなかった。夏の京都の現場でも出演していたのだが、撮影場所が狭くて見れなかった。でも、あまり演技力を心配してはいなかった。そもそも僕が演技というものがこうであるという確信がない人間なので、人間性を信用できる人間なら任せても平気なんじゃないかなどと楽天的なのだ。

また師匠の話になって恐縮だが、師匠は「役者の自主性など不要」、「役者は台詞を喋るロボットでよい」という考えの人だった。シナリオライター出身なので、一言一句、アクセントも間もキッチリ指定して喋ってもらうというやり方だ。このやり方は、役者の上手い下手がハッキリ分かる、残酷な手法だ。このやり方を嫌う俳優も多かったし、挑戦しがいのある演技だとノリノリの俳優もいた。僕も師匠に影響されて、役者が台詞を変えることを嫌がっていた時期がある。が、何年か前から演技ワークショップの講師などをやって、即興演技の面白さに目覚めてからは、ストーリーがちゃんと機能する程度の台詞の改変なら、全然OKという感じになってきた。僕のシナリオが下手なぶん、即興や俳優のアイデアで作品が面白くなるということもよくある。

今思うのは、現場にもシナリオにも「余白」が必要だということだ。スタッフやキャストが自分の解釈を持ち込める場所、遊びのあるスペースを設けておく。それが自由な創造につながり、モチベーションアップにもつながるのだ。余白がないと、観客のイマジネーションも花ひらかない。当たり前のことだがシナリオに世界のすべては描けない。たとえ世界のすべてを描きたいと思っていたとしても、お嬢さん、そいつは無理というものだ。

特に48時間映画祭の場合、せいぜい9ページくらいのシナリオになっていないと収まりきらない。理想は7ページのシナリオだ。『裸で汁を出すだけの簡単なお仕事です。』のシナリオは9ページぎちぎち。僕は編集のテンポが早いので、1ページ1分計算ではなく1ページ50秒計算だから8分に収まる、はずだ。


8:30~

衣装合わせは続く。AV女優・カグヤ役、つかさ。若くて可愛い子なんですが、子役出身なのでキャリアはものすごく長い。お母様も業界の人なので、ナチュラルボーン・ギョウカイジンみたいな子だ。彼女との出会いは今回、CNSSというしょうもないグループで監督をやっている牛丸亮という俳優がいて、彼が監督デビューするというので作った『Smile』という作品がある。その映画の主役がつかささんだった。その後、折に触れて会う機会があり、私の本業を手伝ってもらったり、『ラジオスターの奇跡』に出演してもらったりしている。

つかささんは一緒にいて楽しいし、気遣いもできて、仕事もできる。だが彼女は心の奥底にデッカイ空洞が空いている。その空洞を埋めるためにアイドル・AV・酒・映画・演劇などのハードドラッグを大量摂取している。そういう人は消費ではなく、作る人に回るべきだと思っていたら、自らENBUゼミナールの門を叩いて監督コースで勉強している。えらい。人に使われるだけじゃなく自らの魂の表現もちゃんとやっていくべきですね。

看護婦の衣装はすけべ過ぎて局部が見えそうになるらしく、NGでした。サンタ衣装はとても似合っていて可愛い。なぜか自前の高校時代の制服を持ってきてくれたのでそれも着てもらう。う〜ん、可愛らしいけど、エロくはないな……。本物のAVでよく着ている女子高生の制服っぽい服はそれ用にデザインされたものなんだろうなあ。


8:45~

プロデューサー役、柳生はる奈。長崎さんと同様「魁演塾」のワークショップで知り合った。彼女はバンドマンでボーカルをやっている。ハキハキしたお姉ちゃんという感じでとても好感を持った記憶がある。ヒステリックな女の役がよくハマった。年齢はよく知らないが、とても若々しい。自由に生きているからだろう。楽しかったこともムカついたことも怒ったことも、全て話してくれる。感情全オープンな人だ。そういう意味では子供のようなところがあって、感情の導きに忠実なのも役者にとっては重要なところだろう。感情の導きをコントロールできるようになったらより最高だろう。
ヘアメイク役、宮本晴樹。5年前に、師匠の映画の現場に手伝いとして来てくれて知り合った。当時は女子大生だった。元空手部だかなんだかで、腕力があるとのことで結構重い弁当を運んでもらったりした。よくよく聞くとギター弾いたり小説書いたり、演技やったりもして面白い活動を色々しているらしい。実生活でもネットでも非常に饒舌な人で、ものすごく頭がいい。今はシステムエンジニアとして働いている。宮本さんはジェンダーを固定していない人だ。外見は一見、女性のように見えるが、男性的にも見える人だ。心は男性(?)で、ネットで百合小説を発表したりしている。恋愛対象がどっちなのかは知らない。「好きになった人が好き」なので性別は関係ないのかもしれない。

宮本さんと接していると自分の単純なジェンダー観が揺さぶられる気がして刺激的だ。僕は「心と体はひとつ」だと思って生きている。自分の肉体の性と心の性は一致している。だからジェンダーの境界を揺れている人の苦悩は想像もできない。宮本さんに直接聞いたことはないが、複雑な幼少期を送っていて、家族仲も相当悪いようである。宮本さんの人間としての奥行きが、非常な複雑な陰影を帯びている。これは役者をやる上でも、ものを作る上でも、限りなく有利なところなのかもしれない。我々の仕事は、「負を売り」に変えられる希少な職業だからだ。(宮本さんが自分の生い立ちを負だとは思っていない可能性も大いにあるのでこれについては謝るしかありません)

ま、そんなわけで、今回はあえて、「女らしい女」「女を売りにする女」をやってみよう、ということでヘアメイク役をお願いした。そういえば、我々の業界でもヘアメイクさんにはLGBTが多い。


9:00~

橋野純平さんが自車で到着。昨年に引き続き、自分のところの車を出してくれた。本当にありがたい&申し訳ない。橋野純平、通称ハッシーも付き合いが古い。ちょうど10年だ。2009年、村松正浩監督の『兄兄兄妹』という映画の現場で知り合った。あ、これもENBU製作だ。腐れ縁だな〜。ハッシーは若いENBUの生徒のなかでは比較的年上で、みんなのまとめ役を率先してやっていた上、主役だった。大変だったろうと思う。モラルが高くて真っ当な人間を目指しているのに、モテなくて自己評価が低く、ルサンチマンを溜め込んでいて、ろくでもない。

そんなイメージで、卒業後もそういう系の役が多く回ってきていたようだ。いろんな名監督の映画やドラマにしてきた名バイプレイヤーだ。僕も仕事で何度か一緒になった。嬉しいよねえ。昔からの友人に現場で再会すると嬉しいのよ。昨年、『ラジオスターの奇跡』でも主人公の恋人役で出てもらった。今回、満を辞しての主役だ。裸だけど。というか汁男優ってアイデアは、橋野さんが言い出したことなのだ。木島さんが書いた初稿から、橋野さんが主役だったんだよね。木島さんも橋野さんを初対面で、主役張れるタマだと思ったわけだからなかなかのものだ。
俳優は始めるのは簡単だが、続けることは困難な道だ。20人近い『兄兄兄妹』組でも俳優を続けている人間は2人くらいじゃないかな? 大ヒットした『カメラを止めるな!』組でも、10年後も俳優を続けている人間がどれだけいるか分かったもんじゃない。どんなちいさい役でも、続けていることにはダイヤモンドのような価値がある。辞めるなら早いうちがいい、という意見もあって、半分同意するが、辞められると悲しい。僕が関わった映画でも、主演女優が役者やめちゃったって例が4件くらいある。

主役というのは神輿だ。みんなで担ぐ。なるべく多くの人に見てもらうために主役を担いでいろんなところへ行く。祭が終わって神輿から降りて、そのうち祭りという名の役者人生からも降りてしまう人がいる。その人の人生の選択に口は出せないし、責任も取れないし保証もない。クソしょうもない業界だしね。だけど辞めちゃうと悲しいじゃないか。クランクアップの日に、また別の現場で会いましょうね、なんつって握手して別れたじゃないか。悲しいなあ。

というわけで無条件にでも「続けている」人間を僕はリスペクトする。売れてようが売れてなかろうが関係ない。この前テレビで、70歳近いお笑いコンビが掃除のアルバイトしながら芸人続けているってドキュメントがあって、号泣しちしまった。マジでカッコいい。


10:00~

衣装合わせが終わったんで、軽くホン読みをする。よし、おもしろい。ケミストリーが出来てる。だいぶ不安がなくなった。あとは撮影するだけだ。だが、地獄はまだ始まったばかりだった。

 


【予告】裸で汁を出すだけの簡単なお仕事です。/Tokyo 48hfp 2019

 

裸の男たちを撮るだけの簡単な48時間です。その① - FilmMaker Ishikawa Shingo

裸の男たちを撮るだけの簡単な48時間です。その② - FilmMaker Ishikawa Shingo

裸の男たちを撮るだけの簡単な48時間です。その③完結編 - FilmMaker Ishikawa Shingo

 

2018年を映画などでふりかえる

お題「2018年を振り返る」

2018年映画ランキング

劇場で観た新作でドスンときたのがあまりなく、DVDなどで観た旧作込みでランキングに。

  1. シェイプ・オブ・ウォーター
  2. スリー・ビルボード
  3. フライト
  4. ザ・プレデター
  5. サニー強い気持ち・強い愛
  6. 恋の渦
  7. 勝手にふるえてろ
  8. タクシー運転手
  9. 万引き家族



ワースト

  1. カメラを止めるな!
  2. ボヘミアンラプソディー

ゾンビ映画じゃねえし。ドラマなさすぎるし。

参加させてもらった映画

  • 鈴木家の嘘

suzukikenouso.com

irene-movie.jp

参加作をランキング入れるのはやめました。
トップ1、2になっちゃうから・・・
アイリーン、鈴木家ともにDITとして参加。

鈴木家の嘘は本当に誇りに思う作品。いいホンにいい俳優を入れるとこんなにいい映画になるのか、と。賞レースも賑わせて、いい出会いもたっぷりありました。感謝。

ラジオスターの奇跡

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ラジオスターの奇跡
48時間以内にシナリオ書いて撮影して編集するという、鬼のような映画祭。ありがたくも東京グランプリをいただきました。
48 Hour Film Project 2018 tokyo 作品賞、音楽賞、観客賞3位。13年ほど映像やってきて、初めて賞をもらいました。なんと音楽賞・・・。来年3月にアメリカの映画祭で上映、優秀作はカンヌで上映されます。Filmapalooza 2019 @ Orlando , Florida , USA
とてもいい出会いのあった作品になりました。人生が激変したとも思う・・・。



48 Hour Film Project 2018 東京グランプリ 【予告】ラジオスターの奇跡


感銘を受けた本

サピエンス全史

サピエンス全史 上下合本版 文明の構造と人類の幸福

サピエンス全史 上下合本版 文明の構造と人類の幸福

知の枠組みをブルブルと拡張された本。

クリアな未来予測に興奮し絶望した

RIP

時代の移り変わりをひしひし感じる。

お仕事

ハッキングキャット
https://www.techdevicetv.com/securitymoviearchive/

情シスの新たな役割
https://www.techdevicetv.com/ch_workstyle/

高校生たちが挑む、VR開発
https://www.techdevicetv.com/hsvr01/

明星/Akeboshi MV 点と線 『鈴木家の嘘』主題歌

明星/Akeboshi - ''点と線'' 〜映画「鈴木家の嘘」主題歌〜

今年買ったもの

Tangent Ripple(カラーグレーディングコントローラー)

X-rite (エックスライト) ColorChecker Video


ZOOM ズーム リニアPCM/ICハンディレコーダー  H6

ZOOM ズーム リニアPCM/ICハンディレコーダー H6

グレーディング用品多し。

Samsung SSD T5がとにかく素晴らしい。HDDの5倍高いが5倍早く、1/5コンパクト、頑丈。どこへ行くのにも持っていける。4K編集も問題なし。

サヨナラだけが人生だ

いい出会いもあれば、別れもたくさんある一年でした。サヨナラだけが人生ですね。ほんまにもう。

今週のお題「2019年の抱負」

来年は自分が自由にものを作り、生活をして行くための仕組みを作りたいと思います。新たなパートナーとともに。。。今年の後半くらいから少しづつ勉強しています。来年も準備になるでしょう。そして、商業映画デビュー作の撮影が秋になるかも。大好きな作家の原作。やります。

2017年を映画などでふりかえる

スター・ウォーズ 最後のジェダイ

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スター・ウォーズ 最後のジェダイ』が今年のナンバーワンフィルムでした。血統主義からスターウォーズを解放した。名もなき人々がヒーロー/ヒロインになる。旧作へのアンチテーゼ。聖書は燃やせ!私たちが新しい世代だ!荒唐無稽さがウリの作品にプロットの不備をあげつらってもしょうがないと思うんだ。ポーグかわいい。

 

 

 

2017年映画ランキング

  1. スター・ウォーズ 最後のジェダイ
  2. ニッポン国 VS 泉南石綿
  3. エル/ELLE
  4. ブレードランナー2049
  5. ゴッホ 最後の手紙
  6. ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー Remix
  7. メッセージ
  8. 新感染 ファイナルエクスプレス
  9. キングコング 髑髏島の巨神
  10. 沈黙
  11. ベイビードライバー
  12. アウトレイジ最終章
  13. あゝ、荒野
  14. オクジャ
  15. コクソン
  16. マッドマックス 怒りのデスロード ~ブラック・アンド・クローム・エディション~
  17. チャウ・シンチーの人魚姫
  18. ハクソー・リッジ
  19. トレインスポッティング
  20. エイリアン・コヴェナント
  21. 猿の惑星 聖戦記
  22. バンコクナイツ

 

『ニッポン国 VS 泉南石綿村』日本人よもっと怒れと焚きつける、原一男監督の215分、撮影8年、編集4年の渾身作!!!裁判でどんどん死んでいく被害者たちの鎮魂歌。

『エル』強烈な女の強烈な映画。エロとバカと変態しか出てこない。

ブレードランナー2049ロジャー・ディーキンスの贅沢な絵画タッチ。ジョイちゃんの可愛さ!

ゴッホ 最後の手紙』世界中から集めた120人のアーティストでゴッホタッチで描かれたた脅威の62000枚の油絵アニメーション!貧乏と絶望のまま死んだゴッホの、芸術の勝利に涙が止まらない。

 

 

 

ワースト
  1. ダンケルク
  2. はらはらなのか。
  3. ラ・ラ・ランド

 

ダンケルク』は本物の戦闘機を用意したりリアルを徹底しているようで、編集で大嘘をついているのでまったく誠実な作りではない。『ゼロ・グラビティ』『マッドマックス 怒りのデスロード』『シン・ゴジラ』に続く「体感」型映画だが、『ダンケルク』は詐欺でプロバガンダ。悪質だと思った。

 

旧作ベスト

 

ようやく観れた『クーリンチェ』。台湾という国家の光と影。懐中電灯を持ち続けるのをやめてはいけない、ということなのなのだろう。照らしていないと、闇に飲まれる。これぞ映画、という映画だった。

イギリス滞在中に観た『ターミネーター2』は、公開時私は小学二年生。今観ると、疑似家族の話に強烈なアクションを足した作品だということが分かる。敵役の設定もすばらしい。機械に人間性を教えるエドワード・ファーロング。涙。もう最高。

 

 

今年やった仕事

 

撮影部として
  • 林組『赤シャツの逆襲』 (南海放送
  • 頼朝の窟


頼朝の窟~The Cave of Yoritomo 2017~

制作部として
編集部として
  • 吉岡組『伝承』
  • reinvent the way you work - 北陸銀行


reinvent the way you work - 北陸銀行様編

 

録音部として
  • 加賀賢三組
  • HP Project Mars

HP Mars Home Planet | 日本HP

 

 

エキストラとして参加
  • あきら組
  • あすか組
  • 浜崎組

 

登った山

 

買って良かったもの

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行った国
  • イギリス
  • オランダ

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旨かったもの
  • 福岡「志ら石」のふぐ

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来年の抱負

来年は商業映画監督デビューできるかどうかがかかる、勝負の一年になりそうです。頑張るぞ〜!!

 

2016年を映画などでふりかえる

新作ベスト

  1. この世界の片隅に
  2. 淵に立つ
  3. 無垢の祈り
  4. クリーピー 偽りの隣人
  5. FAKE
  6. 退屈な日々にさようならを
  7. SCOOP!
  8. シン・ゴジラ
  9. 川越街道
  10. リリカルスクール未知との遭遇

とにかく『この世界の片隅に』に尽きる1年だった。初日に観て翌日に観て、計4回観たし広島と呉に聖地巡礼してしまった。何回観ても泣く。サントラとパンフと原作買い直しもした。ただこの作品の真の原作は戦争および近現代史である。私が非常に弱い分野でもある。この映画を観て、映画というものは大なり小なり何らかの歴史(=世界)と関わっていなければ駄作になる、というか作る意味がない。とまで思うようになった。表現とは、何か太いもの(歴史、世界)に繋がっていなければいけない。それが民衆の支持を集める(クラウドファンディング)し、興行成績に繋がる。
そしてこのベストテンランキング、何とすべて邦画!本当に邦画黄金時代なのかもしれない。無垢の祈り、川越街道、リリカルスクール未知との遭遇、ハルをさがして は私がスタッフであるが、劇場で観た印象でフラットに順位を付けた(つもり)。邦画当たり年に少しは貢献できたであろうか。洋画ではローグ・ワン、ザ・ウォーク、オデッセイ、など忘れ難いタイトルもあった。

 

ワースト

  1. エヴェレスト 神々の山嶺
  2. 君の名は。
  3. ヒメアノ〜ル

君の名は。は楽しめたのだが根本的な運命の人は必ずどこかにいるという思想が気持ち悪い。200億越えの大ヒットか知らんが、教育上悪いと思うよ。
ヒメアノ〜ルサイコパスに生まれて殺人を犯さざるを得ない人間の悲しみを描いた原作から、いじめられヤケになり人を殺してまった人間というように改変されている。ストーリーやキャラは原作にかなり忠実なだけ、根本的な世界観の変更に僕はかなり不満が残った。ヒミズにせよ古谷実漫画はどうも根本的なエッセンスを読めてない人間にばかり映画化される気がする。
エヴェレストの漫画も原作も非常に素晴らしいのにどうしてこんなに金かけてこんなしょうもない出来のものが出来るんだ全く。山の鬼のような男に感化されてエヴェレストの頂点を踏む男の話なのに、山頂目指さなくなるストーリーなんてあり得るかいっ!下手なシナリオにミスキャスト、too muchな音楽とすべてが空回り。

 

ポスト真実の中でナラティブに生きる

今年春に長年私を悩ませてきた病名が診断された。自分が分かったし、生まれ変わったようだった。夏は富士山の山小屋でバイトをした。楽しかったし、色々見えるようになった。金を使わなかったおかげでマックが買えた。オリンピックがあって、SMAPが解散し、こち亀が連載終了した。ブレグジットが起こって世界経済がピンチになってトランプ大統領が誕生し、韓国では民衆のクレームで大統領が弾劾された。

ポピュリズムの世紀だ。「ポストモダン」ならぬ「ポスト真実」という呼び方もあるようだ。ますます世界が不明瞭に複雑になっていく中で、個人はできるだけ感情に流されずに複雑さに耐えて行かねばならない。その中で、個人の価値観はシンプルにミニマムな方が良いと思う。シンプルに複雑な世界を腑分けする。ツールはなるべくシンプルに。映画が与える感情の波と、ナラティブがあなたの世界の見通しをなるべくクリアにしてくれることを願う。