FilmMaker Ishikawa Shingo

「Hairs」「Food 2.0」「スティグマ-STIGMA-」「裸で汁を出すだけの簡単なお仕事です。」「ラジオスターの奇跡」「蘇りの恋」「カササギの食卓」「出発の時間」などの映画監督、石川真吾のブログです。

裸の男たちを撮るだけの簡単な48時間です。その②

#48hfp #裸汁

裸の男たちを撮るだけの簡単な48時間です。その① - FilmMaker Ishikawa Shingo

 

映画をつくるのは簡単じゃないよ、というメイキングの2本目です。どうぞ!

f:id:dptz:20191130154440j:plain

 

11/30(土)

10:30~

現場へ移動する。制作部の石塚達也くんの運転だ。車内ではわいわい言っているのだが胸中は複雑だ。そもそもこの11月の末に48時間映画祭を開催するのが暴挙だ。日照時間が6月開催に比べて4時間短い。16時にはデイシーンの撮影は不可能になる。我々はスタートから遅れていて、撮影開始は11:30だろう。メシ押しでやらさせてもらっても撮影時間は4時間半しかない。4時間半映画祭だバカヤロウ。9ページ撮りたかったら1時間で2ページ消化せにゃならん。そんなハイスピードで撮影できるのか? 気分良く撮れるのか? おもしろいものになるのか? 移動の30分でちょっとだけでも寝たかったが、思考がぐるぐるして竜巻のようになって首を絞めてくる。それでも目を閉じた。目覚めたら名案が浮かんでいればいいのに。

11:00~

河原の待ち合わせ場所に着く。撮影のハルさん、録音の小牧さんと合流。照明部とも合流。実は照明部とは初対面であった。堀口健さん。助手の阿部さん。あ、どこかで会ったことがある……。昨年公開された『鈴木家の嘘』という映画で3週間一緒でしたね。ありがたいやら心強いやら。そもそもこの体制で照明部がふたりもいるってどんな贅沢な現場やねん。わしが来年あたま参加する配信ドラマの現場なんて照明部なしなんだぞ。
録音の小牧さんと撮影のハルさんにシナリオの感想を聞く。「面白かった」と。多くの現場を共にした戦友から褒められると無条件に嬉しい。ちょっと自信が出て来た。というか、撮影中なんかは無根拠な自信がないとやれないものである。自分を騙し続ける力とでも言おうか。そうでないとスタッフもキャストもついてこれないのである。
なんてことをうだうだ考えている暇もない。なぜならあと4時間で太陽は沈み、あと30時間で映画を完成させて提出しないと失格だからだ。48時間映画祭はえげつない。

11:15~

機材を運び込む前に、どこで撮るかの相談。昨日ロケハンに来たはずだが、その頃はストーリーのかけらもなかったので、シナリオを元にあらためて撮影場所を検討する。ゴルフ場だった場所なのだが、台風の影響で浸水して水が抜けきっておらず、ぬかるみになっている場所だ。移動にまた時間をとられる。
撮影の川口晴彦氏、別名PHOTOGRAPHER HAL氏との付き合いも数えて見たら10年になる。氏は気鋭のアートカメラマンで、男女を真空パックする写真が有名だ。当時は広告会社に勤めていて、有名クライアントやタレントを数多く撮っていた。カンヌで広告賞をとったこともある。ハルさんはスチルカメラに動画機能が付き始めた頃から動画に興味を持ち出して、動画のお仕事で私がアシスタントに付いたり、逆に僕の自主映画でカメラマンとしてお誘いしたりで交流を深めていった。僕の監督作でカメラを回してもらうのは3作目。商業映画のカメラを回すのは2回。いずれも僕が現場についた。
「どう撮るか」もよく考えてくださるが「どんな光で撮るか」を常に考えてくださるので、映像表現がじつにうつくしい。僕の過去作を観てくださった方の感想で「映像が綺麗だった」という意見はよくあって、それはすべてハルさんのおかげであります。感謝。
映画ばかりやってきたカメラマンは、芝居を撮る、現場を回す、ストーリーを語る。そういう意識が強い(ひとが多い)。純粋にうつくしい、フォトグラフィックな絵を撮る、そういう意識の優先度がどうしても低くなることがある。なのでハルさんが撮る映画の絵は独特だ。ストーリーに隷属しない。1枚1枚が絵画のように独立性が高い。同時にそれは、パワフルなストーリーを作らないと絵に負けちゃうということを意味する。ああ、怖い。


11:30~

機材を運び込み、美術もセットした。俳優も入った。シーン2、川辺の道。段取りを始めた。クランクインだ。ああ、なんか普通のメイキング記事みたいで嫌だ。台風でセットが吹っ飛ぶとか、主演俳優が死ぬとか、そういうアクシデントは一切なかった。監督が寝てない、くらいのものだ。そんなの普通だ。だいたいの現場がそうかもしれない。そもそもほとんどの俳優、スタッフが私の連絡が遅れたせいでちゃんと寝ていない。
学生時代から合わせて17年映画を作って来ているが過去最大のトラブルってなんだったかな。学生時代のラストに撮った映画は、ロケの前日に雪が積もったが翌日ピーカン晴れで全部溶けたんで問題なく撮影できた。長崎でオールロケをした映画は50年に一度と呼ばれる台風が来て、記録超えの大雨が降ったが、翌日撮影をしようとなったらものすごく晴れた。私はラッキーなのかもしれない。
あ、ひとつ思い出した。2011年3月12日だ。そう、あの東日本大震災の翌日、われわれは埼玉でロケをしていたのだ。ガソリンの20リッター規制が始まって、ガソリンスタンドにものすごい車の列ができた。撮影現場にまで車の列がのびてきて撮影にならないので仕方なく、皆で赤棒をふって車両誘導をした。原発がやばいらしいと噂しながら、SFみたいだねなんつって密かに興奮していた。まだ詳しい報道がなかったのだ。その日の晩のニュースで原発メルトダウンが報じられ、笑顔は凍りついた。あれから日本社会は劇的に変わったようで大して変わらなかった。僕の人生も激変した。が、なんだかんだ映画を作り続けている。

 

11:45~

シーン1はAVの画面なので夜、家で撮る。シーン2は橋野、横須賀、小坂、長崎、柳生はる奈の河原でのシーンだ。映画はシーン1から順番に順撮りするのが好きだ。その方が準備も手間がかからないし、俳優の負担も少ない。僕はことに最近、「出たとこ勝負」で撮るのが好きになってきた。ドキュメンタリーの撮影や編集を仕事でいっぱいやったからかもしれない。脚本という図面をはみ出した「なにかすごいもの」を捕まえるには、順撮りでないと対応が難しい。
お芝居がだいたい固まって来たんでカメラの指示をした。パットレールを借りて来たのでここぞとばかりに使う。パットレールとは、電車移動でも可能なくらい軽量で簡略化された、日本のリーベック社のドリーシステムである。カメラがなめらかに水平移動すること自体に、現代の観客はなにも驚いてくれない。あらゆる映像に多用される表現だからである。クレーンやドローンやジンバルなどで、もっと自由自在なカメラワークもよく見る。
移動撮影は「映画文法の父」D・W・グリフィスが発明したらしい。モンタージュ、クローズアップ、フラッシュバック、フェードイン・アウト、イマジナリーライン、クロスカッティングなど、現在でも使われるたいていの映画技法はこのグリフィスさんが発明している。この人はKKKをヒーローとして扱ったりのとんでもない差別主義者な上、映画はぜんぜん好きじゃないんだが、偉大な人だ。なにが偉大って、「基本はフィックス」なんですね。
フィックスで撮影された映像がドリーで水平移動することには、一種の感動が伴う。カメラの動きに何かエモーションがこもるのだ。しかし、ドリーは多用すると効果を失う。いまのCM,PV,VPは多用しすぎだ。水平移動と静止は必ずセットだ。そしてカメラの動きはドラマの動きと連動すべきものなのだ。「映画は意味の王国」であり、カメラの動きにもすべて意味がしつらえてある。
『裸汁』には二箇所だけドリーカットがある。特機の撮影は時間がかかるから、ここぞというところにしか、使わない気でいた。具体的には冒頭と、クライマックスだ。
もう一つ、今年はこうしよう、と思っていたことがあって、ナレーションで主人公をむりやり立てないということだ。シナリオの教科書には主人公のナレーションで進行するシナリオはダメ、とよく書いてある。全2作はナレーションで進行させてみた。複雑な現代社会で複雑な物語を語ろうとすると、どうしても言葉以外では語れない。そしてナレーションは主人公を簡単に立ち上げてくれる。
今回それはあえてやめた。無名のモブ(群集)のなかから主人公が立ち上がってくるような映画にしたかったのである。冒頭、主人公が立ち上がりそうなところでドリーが水平移動してカメラに感情を伝えている。うまくいったかなあ。

 

12:15~

これは書くべきか迷ったのだが、「トチっちゃう俳優に対してどう対処すべきか」というのも整理しておきたいので書く。俳優がセリフを間違える、噛む、うまく喋れない。基本的に僕は「いいよいいよ」と言って待つタイプだ。OK出るまで何度でもやればいい。時間が許す限り。48時間映画祭だろうが商業映画だろうが時間など結局ないのだ。
え、あの有名俳優も?と名前をあげると皆がビックリするような方が何回もNGを出している局面も何度も観たことがある。休憩をとる手もある。
しかし妙案はない。待つしかない。なるべくスタッフは「あ〜あ、またかよ。こいつのせいでスケジュール押すな……」みたいな態度・表情は避けてあげて欲しい。共演者は優しい人が多い。互いに役者だから理解がある。
加瀬亮さんから聞いた身の毛もよだつ話だ。北野武組はワンカット主義なので、トチる俳優はその場で「あんちゃん、もういいよ」ってセリフのない役に交代させられちゃうそうだ。百戦錬磨の加瀬亮さんもそのときばかりは大緊張したそうだ。48時間映画祭では、僕はなんせ、朝、シナリオを渡しているのだから、できなくて当たり前だと思っている。じっくり待って、いい演技を引き出したい。でもね……陽がないんや!!!そして、現場でOKだが編集でNGというのはよくある!!ありすぎる!!どうとでも編集できるように撮っておけばよかったという後悔は尽きない!!くえええええ!!!

 

12:45~

お題は派遣社員。小道具はメニュー。セリフは「それば別の問題だろ」。このお題に対してうまい解答を物語で返せればいい評価が得られる。なので、メニューをヨリで撮る。そういうチームは多いだろう。いちおう僕も、メニュー(AVの撮影内容)のヨリは撮った。保険でね。結局使ってない。メニューに限らず、最近どうもクローズアップが好きじゃないんです。近すぎる。ほかが見えなくなる。俳優だけじゃなくもっといろいろ見たい。思わずカメラマンが被写体にかじりついてクローズアップを狙いたくなるような絶世の美女ならいざ知らず、だ。スクリーンはデカく高精細になっていっているのに、映画のサイズが大きくなっていってるのはなぜなんでしょうね。人間の全身を、その人が置かれている環境と一緒に撮りたい。まあ今回は汁男優たちが主役で、かれらがパンツ一丁なんで面白い絵は当然フルショットになる。
汁男優は単体の存在ではない。10〜20人くらいの団体でいるから際立つ。個人が突出してはいけない。匿名の集団の中から、個人がひょっこり立ち上がってきて、混沌のなか、彼なりの魂の復活を遂げる。汁男優は顔も映らない。実際にAVの撮影現場では、「顔が映るのが嫌な方はサングラスとマスクをしてください」とアナウンスされるそうだ。元漫画家で、AVの制作会社に就職した方がWEB漫画にそう書いていた。自分の性器と行為を晒しておきながら顔は隠しておきたいという気持ちはよく分からん。
ところで、汁男優については取材をしなかった。する時間もなかったのが。インターネットでもあまり調べなかった。これはリアルな汁男優についての社会階層的な告発映画ではないのである。僕はその業界の悲惨な部分ばかり見てしまうようなところがある。あくまでコメディなんで、お笑いなんで、リアルな業界の方、事実誤認はご容赦願います。

 

13:00~

シーン4、川辺の道。小坂氏の説明台詞炸裂。説明台詞は必要悪である。これは一種のファンタジーなので(AVの汁男優の派遣会社なんて実際はない)、台詞で説明しなければいけないことは多いのである。「岸島、お前は甘いんだよ。こういう現場はじめてだろ?派遣先で言われたことは守る。それが派遣AV汁男優社員たるものの使命だよ」この台詞が不自然かどうかは観客の判断に委ねるしかないのだが、小坂氏の先輩ヅラしたがるキャラもあいまって退屈ではないシーンに仕上がった気がする。
小坂、横須賀、橋野の3名のグルーヴ感というのか、男同士でわちゃわちゃやっている感は思ったよりうまく行った。段取り、テスト、本番と芝居を重ねるごとにテンションは高くなって行った。より下品に、より動きのあるものに変わっていった。橋野氏はことあるごとに「もっとやっちゃっていいですか」というようなことを聞いてくる。やっちゃっていいんだよ。その時は答えられなかったけど、我々には編集という最強のハサミがあって、過剰な部分は切っちゃえばいいんだから。
長崎達也さんには川を見つめて一切何もしないでください。無反応でお願いします。としつこくお願いをした。ご本人は演技している感がなく不満げだったが、これが面白いから大丈夫なんです。
アクの濃い4人のグルーヴに割って入る、イケメンAV俳優役の雅マサキ氏。人をイライラさせるなかなかの悪役っぷりで素晴らしい。

 

13:30~

シーン6。座って暖かいコーヒーを飲んでくつろぐ雅氏とそれをうらやましげに見る橋野氏。ここではじめて橋野氏の単独ショットが出てくる。ハル氏はもっと寄ったサイズを狙っていたようだが、寄ったサイズはまだお預けだ。クローズアップも多用すると効かなくなる。ここぞという時に寄るのだ。まだその時じゃない。このサイズ感覚は僕のもうひとりの映画の師匠、亀井亨監督の現場で教わったことである。映画はスクリーンが大きいので、対象を大きく写しすぎる必要はない。亀井監督と長年組まれているカメラマンの中尾正人氏の基本サイズはニーショットである。芝居をこれ以上ないベストなポイントでベストなサイズ感で撮影してくれる。編集マンが小細工する必要のない映画的な絵だ。

 

13:50~

シーン8。一連の河原のシーンの最後で、映画のクライマックス部分の撮影。雅氏の横暴と暴言に橋野氏がとうとうキレるシーンである。ここでもドリーを使ってカメラを水平移動させた。うまくいったかなあ。

 

14:00~

いい加減現場移動しないと陽がヤバイと助監督の杉原涼太氏がいう。彼は『川越街道』の現場で知り合った。今は東京芸大の映画制作の現場で重宝されているようだ。学生から人気ありそう。声も顔もいいし、じっと待てる人間だから。僕なんかが一生かかってもたどり着けない境地ですね。現場移動の前に1カットだけ撮っておかないといけないカットがある。シーン7の橋の上からの主観ショットだ。俯瞰めで引きで撮っておけばどうにかつながる。これも汁男優たちがわちゃわちゃしている好きなショットになりました。奥には川が流れ、高速道路にはせわしなく車が往き交い、さらにその奥にはスカイツリーがそびえ立っている。社会の端っこ、破れ目にいる感じが出ている。満足。ま、このショットを観た観客はそんなこと一切感じ取らないだろう。ギャグシーンで使っているからね。

 

14:15~

いよいよ陽がやばい。タイムリミットまであと2時間を切った。残るシーンはプロデューサー、ヘアメイク、AV嬢が監督を探すシーン。ミヤビが水に落ちたら……というシーン。エンドロール。あと3つだ。橋へ移動する。徒歩20分くらいのところだが機材の量も量だし俳優たちの体力も考えて車で移動することにした。それが間違いだった。

 

 

 

短編映画『裸で汁を出すだけの簡単なお仕事です。』

12/15(日)14:30より上映

会場:なかのZERO 西館 小ホール

東京都中野区中野 2-9-7

48時間映画祭プレミア上映会

入場料1000円

 

出演/橋野純平・横須賀一巧・小坂竜士・長崎達也・柳生はる奈・宮本晴樹・雅マサキ・つかさ・泉光典

監督/石川真吾 | 撮影監督/川口晴彦 | 撮影助手/藤田恵美 | 録音/小牧将人 | 照明/堀口健・阿部陵亮 | 助監督/杉原涼太・森岡伶奈 | 制作/石塚達也 | 脚本/木島悠翔・石川真吾 | 編集/塩谷友幸 | 音楽/原 夕輝 | 8分 | コメディ | This film made for the 48 Hour Film Project 2019. |  ©︎2019 STONE RIVER

 

【ストーリー】

201X年、空前の人手不足により、AV業界に革命が起きた。汁男優専門派遣会社の誕生である。その期待の新人、岸島力(31)の初現場は河原での屋外プレイものであった。12月の寒風の中、パンツ一丁で震えただ待つ岸島。一方その頃、AV監督が行方不明になり現場は大混乱をきたしていた……

 

【予告編】


【予告】裸で汁を出すだけの簡単なお仕事です。/Tokyo 48hfp 2019

 

裸の男たちを撮るだけの簡単な48時間です。その① - FilmMaker Ishikawa Shingo

裸の男たちを撮るだけの簡単な48時間です。その③完結編 - FilmMaker Ishikawa Shingo

裸の男たちを撮るだけの簡単な48時間です。その①

#48hfp #裸汁

 

今年も、お題をもとに脚本執筆・撮影・編集・納品まで48時間でこなす「48時間映画祭」という鬼のような映画祭に参加しました。12/15(日)14:30に中野ZEROで初出し上映があります。

f:id:dptz:20191130154440j:plain

裸汁

その血と汗と涙のネバネバなドキュメントをお送りします。題して「裸の男たちを撮るだけの簡単な48時間です。」超長いです!どうぞ!

 

11/29(金)


10:00~

起床。今年は何をやってもうまくいかなった。今回もきっと失敗する。そんな不安で目が覚める。あ、しまった。寝坊だ。

11:00~

撮影のハル氏と機材保険屋へ

12:00~

新橋で「カレーは飲み物」食べる


13:00~

赤羽岩淵から荒川を北上、ロケハン。台風の爪痕ですごい景色。

16:00~

一時帰宅。メシ食い仮眠しようとするが興奮して寝付けない。


17:00~

中野ZEROへ移動。スタッフキャストが段々と集まってくる。今回はキャスト9人。スタッフ11人の大所帯。前回の『ラジオスターの奇跡』の時はスタッフキャスト合わせて9人しかいなかった。仲間が増えて嬉しい。わーい。


17:50~

知り合いも集まってきたので挨拶をする。宿敵CNSSの連中にケンカを売る。古い友人の月足氏に呪いをかける。イケメン撮影部の田邊氏を恫喝する。ライバルを葬るところから48時間は始まる。


18:00~

キックオフ開始。わがStone Riverが引いたジャンルは「喜劇」と「ダーク・コメディ」。(苦手な)お笑いをつくらければならない。そう直感し、頭が停止した。


18:10~

よそのチームがクジを引いている間にシナリオライター木島悠翔氏を隣に座らせて作戦会議。あれこれ話す。が、結局wikipediaで「喜劇」を調べるだけで終わった。


18:40~

イデアはなにも浮かばないので他チームのクジ引きを見てほくそ笑んだり、Bar DUDEの悪評を広めたりして過ごす。


19:00~

お題の発表。キャラ「岸島力」派遣社員。小道具「メニュー」。セリフ「それは別の問題だろ」なんのこっちゃ。どうしよう。


19:05~

永遠のように短く、稲妻のように一瞬の、48時間が始まった。


19:25~

かねてから押さえていた会議室に到着。14人。人数とスペースの計算を完全に間違えており、ギュウギュウのすし詰め状態になる。


19:30~

シナリオ会議と称し、スタッフキャストからアイデアを募る。会議とは名ばかりの雑談タイムであった。だが、場は盛り上がっている。チームの絆も強まっていったような気がする。気のせいかもしれない。


20:30~

橋野氏から「汁男優のヒエラルキー」の話が出て、話題がそっち方向に振れる。皆、下ネタが好きなのだ。だが、いっこうにシナリオになりそうな流れはできない。

21:30~

どうにか下ネタから離れようと、俳優のやりたい役をヒアリングしたり、社会問題をピックアップしたり、石川の求める「復活」の物語や「弱きものたちの反撃」のモチーフなどを話す。が、いっこうにまとまらず、シナリオ会議、延長。


22:00~

とある個室居酒屋で延長シナリオ会議。のつもりが酔客がすさまじくうるさい場所で「中野で今いちばんふさわしくない場所を選んでしまった」と泉光典氏。まったく集中できず。とにかく、木島氏と石川で別々で一本書こう、となって解散。料理もマズくて会計も高かった。踏んだり蹴ったり。


24:00~

自宅に帰る。すさまじい眠気。パソコンを開いてキーボードをつなぐと眠気がバキっと消え、サクサクと文字を打ちはじめ……られたらどれだけいいか。白紙のエディタ画面で永遠にも似た「書けない〜」が続く。頭を掻き毟り、脇を掻き、その辺をウロウロウロしてうろたえる。はたから見たらただの変人であろう。


24:40~

とにかくは、まずはキャラクターなのだ。キャラクターを決めよう。魅力的な9人もの俳優に、とりあえず役名と職業とか性格を当てていくのだ。キャラクターが魅力的であれば自然と物語が走り出すはずなのだ。役者の顔をプリントした紙をカード状にして、A団体、B団体、C団体、などと階層分けして、組み合わせを考えていく。うむ、うむ、ふむふむ、うむむ……


24:50~

何も書けずに机に頭を垂れている。


25:00~

とにかく最初のワンシーンを書くのだ。書いてあとから直せばいいんだ。ホンがつまらなくてもいい。今回のチームはなんせ、俳優がいい。編集マンがいい。音楽家がいい。どうにかなるさ。


25:10~

2シーンめで手が止まる。やばいやばいやばい。物語もキャラクターも動き出さない。このままでは風景をつなげただけの映像集になってしまう。それは私の理想とするエンタメ映画とは程遠い。どうしよう。映画監督やめて絵葉書屋に転職するか。


25:30~

一幕目まで書いたが、セットアップしたという感覚がない。物語が動かない。なにより眠い。

26:00~

木島氏のシナリオが送られてくる約束の時間だが来ない。かれも苦しんでるのかもしれない。うっしっし。


26:30~

中盤まで書いて、頭から直す。そういうことはよくある。人物の配置もやり直す。進まない。眠い。

26:45~

いよいよクライマックス。対決の構図がうまくできていれば盛り上がるはずなんだが、盛り上がらん。ショボボボーン。とにかくエンドマークまで書く。

27:00~

初稿完成、と同時に木島氏が家に来た。彼も初稿が出来たのでプリントアウトして読むことにする。古い人間なのか、紙でないと読んだ気がしないのだ。なんと我が家にはプリンターがなく、徒歩2分のセブンイレブンにプリントに行く。このちょっとした散歩が気分を楽にしてくれる、なんて思うことはなく、プリンタ買っておけばよかったなどと後悔ばかりする。


27:15~

互いの初稿を読む。うむむむむ……お題は「喜劇」か「ダークコメディ」。なのに……ひとつも笑えん!社会風刺が効き過ぎていて、リアルすぎて笑えん!そもそも殺人とか自殺とか生活保護費不正受給とか、そんなネタ、笑えん!こ、困った……あと4時間後には撮影始めるって言ってたのに……放心。


27:25~

まだ放心している。


27:30~

会議のときにとったノートを整理する。使えそうなネタで、笑えるやつがひとつだけあった。しかしそれは、ド下ネタだ。やるか? 石川真吾は高級そうな映画で売ってたんじゃないのか? バカバカ。まだなにひとつ売れてないだろうお前は。やるかやらないかの人生だったら、やるほうを選んでここに立っているんじゃあないのか? ……やるんだよ。木島氏に、既存のシナリオはすべて破棄し、「汁男優のヒエラルキーもの」で一本書くよう命じる。キャラ設定はこうだ!と思いつきを伝える。


27:45~

木島氏は隣でパチパチパチ書きはじめている。と、突然タイトルが降りてきた。「簡単なお仕事です」とは、求人広告などでよく見られる宣伝文句の一つであり、それをパロディにした投稿もネットでよく見かける。タイトルの候補を検索し、カブりがないか調べる。AVとかでありそうだからだ。よし、ない。タイトル決めた!『裸で汁を出すだけの簡単なお仕事です』だ!隣の木島氏に伝える。氏はプッ、っと笑った。お、笑った。よし、いけるかもしれん。


28:00~

朝4時だ。あと3時間後にはキャストスタッフが集まり出す。くうう、眠い。20代の頃は二日起きて半日寝る、みたいな無茶をよくやっていたものだが、36才ともなるとそういう無茶はきかない。正確にいうと徹夜はできるのだが翌日へのダメージがひどい。そして、正常なリズムに戻すのに時間がかかる。「正常なリズム」とは要するに朝起きて夜寝ることだ。こんな簡単なことが我々映像業界の人間には難しいのだ。ちゃんとした睡眠、規則正しい生活、糖質控えめ野菜多めの健康的な食事で、メンタルの問題も肉体の問題もだいたい解決する。

つまり心と体はひとつである。心が弱っているなら休む。心を強くしたければ体を鍛える。体を鍛えたければ心を鍛えるのだ。ええと、なんの話だっけ。そう、つまり映画作りにおいて睡眠不足はもはや友人のような存在だが、その友人は廃人になる危険なドラッグを売りさばいている売人でもあるのだ。いいもの作りたければ、寝ろ。だが私はまだ寝れない。


28:25~

登場人物表を作ったり、タイトルロゴを作ったりする。私のシナリオ執筆スタイルはかなり独自だろうと思う。wordは使わない。O's Editorも使わない。テキストエディターも使わない。かといって原稿用紙に手書きでもない。私が使うのはInDesignである。これはDTPソフトの代表的なもので、多くの書籍、雑誌、チラシ、新聞などの組版に使われている。もっとも、InDesignでは原稿は流し込みするだけで、ワープロのように扱う人はごく少ないだろう。私はInDesign上で直接テキストを打ち込む。小説家の京極夏彦氏は読者が読む本と同じレイアウトでそのまま作品を執筆できるとしてInDesign上で執筆しているそうだ。私もそれに倣ってみたのだ。

日本のシナリオのフォーマットは世界的に見ても独自のもので、業界標準のようなフォーマットがある。シナリオ専門の印刷屋もおそらくInDesignを使っているだろうから、私が再現できないはずはない。そう思って再現した。完成度はまだ80%くらいだが、このデータ、欲しければあげます。次に撮りたいと思っている長編映画の台本はInDesinで版下を作って入稿するつもりだ。こうすることで台本にかかるコストを最小限に抑える。印刷屋に出して製本する方が、街のプリンタで印刷するより安いのだ。安いといえば私の師匠のケチぶりは凄かった。シナリオ印刷の際はロケ地としてお借りする大学の論文プリント用プリンタを無償で借り、ホッチキス止めも学生にノーギャラでやらせるという徹底ぶりであった。

そういえば師匠との10年近い付き合いのなかで、メシを奢ってもらったのは誕生日の日に徹夜で作業させられたときだけだった。マイクロな映画づくりを身体で体現させてもらった。師匠はあまりにひとりで多くのタスクをこなし、家庭のお金を使って映画を作った生で、ご家庭の理解が得られなくなってしまった。今は映画づくりをおやすみして、小説家としてご活躍されている。映画づくりで家庭が壊れることは、あります。みんなも気をつけてね。


28:30~

買い出しに出る。中野のドン・キホーテはあと30分で閉まる。狙いは、AV女優「カグヤ」のエロ衣装と、ザーメンローションである。擬似精子を作るのは面倒なので既製品があると楽だな〜と思っていたが、あった。ラッキー。しかしこのザーメンローション、ただの白色のついたローションなのだが撮影以外で何に使うのだ? 恋人の顔にかけてAVごっこでもするのか? 性の世界は奥深いなあ。カグヤの衣装も選ぶ。サンタと、きわどい看護婦の服を買った。つかささんに似合うとよいが。

そうそう、汁男優の真っ白なパンツ、あれもほしい。1パンツ500円の綺麗なラインのパンツがあったのでこれにする。6着買った。できればブランド名が書いてないもののほうがよいのだが。まあしょうがない。48時間映画祭で細かいところを気にするとドツボにハマる。まあ普段から細かいところはガサツなのだが。


29:00~

自宅に帰る。と、ちょうど木島氏のシナリオ初稿があがったという。プリントして読む。ふむふむ、おお、面白い。バカだ。アホだ。くだらね〜。俳優たちとも長時間話し合ったおかげで、俳優ごとのキャラクターの色が出ているシナリオになっている。これならいける。とはいえ、もっとパンチが欲しい。ここから更に、自分で直すことにする。木島氏が隣に座ってアドバイスをし、私がキーボードを叩く。背後霊スタイルだね。


29:15~

背後霊スタイルで執筆を続ける。ハコは木島氏のものを活かし、セリフとキャラクターをもっと立つように改稿する。要するにもっと下品に、もっと悪くするだけだ。得意だ。普段から口が悪いから。しかし途中まで書いて、指が止まる。木島氏の初稿ではAV女優のカグヤが撮影中に行方不明になり、裸で待たされている汁男優たちがケンカを始める。カグヤはのちのち見つかるのだが、その理由が……。かわいい理由なのだがあまり笑えない。

ミステリーの世界ではフーダニットは終わり、ホワイダニットになったという。Who done it ? からWhy done it ? に変わったのだ。つまり、犯人探しから、なぜ犯人はその犯罪を犯したのか、という理由に焦点が当たるようになったのだ。そう、謎で引っ張るタイプの物語(なぜカグヤは失踪したのか? )は、その謎が解明した時に観客にショックを与える、観客の世界観を更新するくらいのものでないといけないのだ。 ここががっかりだと映画の評価もがっかりになる。『殺人の追憶』とか『ゴーストライター』なんて素晴らしかったですね。


29:20~

あれこれ考えて、カグヤが失踪するのはやめた。どうしてもラブコメのような要素が入り、笑えない。代わりに失踪するのはAV監督だ。演じるのは盟友・泉光典氏である。私が学生の頃の自主映画から出てもらっている。もう15年くらいの付き合いだ。ドイツの映画祭にも一緒に行った。彼が主役の映画も2本撮っている。中野量太監督の常連俳優でもあり、『Doctor X』なんかの有名テレビドラマにも出ている。自分の中では「ちゃんとギャラを払って」呼ぶべき俳優なのだが、Twitterで「俳優募集」なんて書いたらまんまと手をあげてくれた。うっしっし。という訳で下手な役では使えない。ここぞというところで決めてくれる俳優なのだ。というわけで大オチのところで見せ場をかっさらう役にした。これ以上ない適役だ。自分で自分を褒める。


29:30~

セリフはセンスだと思う。とある売れっ子シナリオライターと仕事をしたときも、セリフのセンスにどうしても納得がいかなかった。構造やキャラクターは勉強すれば向上するが、セリフは磨くのが難しいと言われる。セリフには機能がある。しかし、機能を満たしてもセンスのないセリフ回しというのもある。セリフはセンスなのだ。センスは学習できない。木島氏のシナリオも非常に良くできていたが、いかんせん上品だ。作品賞をかなぐり捨ててでも下ネタで笑いを取る、と決めた以上、お上品ではいかん。徹底的に下品に笑いを取りに行く。という覚悟で、木島氏にこう言った。「セリフを徹底的にいじるからゴメンね」木島氏は了承してくれた。了承せざるを得まい。げっひっひ。というわけでより下品に、より強烈な台詞回しに改稿を進める。


29:50~

目標も決まり、順調に改稿が進む。分からないことがあると横にいる木島氏に聞く。背後霊システムがうまく行っている。さて、大オチだ。監督がなぜ失踪したか? だ。これが決まらないと、映画が台無しだ。木島氏とあれこれ話しながら練る。もはや、眠気はない。脳が高速でスパークしている。触れれば燃えるくらい熱くなっている。目はギラギラと充血しておりまるでゾンビのようであっただろう。

そう、これが映画づくりである。睡眠を削り、命を燃やして映画を作っている。お金はもらえない。というか損ばかりだ。しかし、限りない充足感がある。麻薬のようにドーパミンがどばどば出ている。一度やったらやめられない。


30:30~

朝6時半。外はうっすら明るくなってきた。監督の失踪理由と、エンドロールのビックリな仕掛けを書き加え、脱稿。書き終えると、不安が襲ってくる。大丈夫か、これ。深夜のノリで書いたものを翌朝読むと、恥ずかしさで死ぬというあの法則が適応されるんじゃないか? まず木島氏に読んでもらう。あ、笑ってる。「面白いですよ」おお、うれしい。しかしほんまかいな。15分だけ仮眠をとることにする。


30:45~

自分の寝室に行き、布団に横になる。交感神経がささくれ立ち、脳が高速に回っていて、アドレナリンがビュンビュン全身を駆け回っている。寝付けるわけはない。が、横になって目を閉じるだけで疲労は多少回復する。多少な。だれかおいらにホイミをかけてくれ。

 

11/30(土)


7:00~

結局寝付けなかったので、自分の部屋で、劇用の小道具のイスとかマグカップとか、ブルーシートとかを用意していた。今回は超豪華スタッフで、撮影・録音・照明・助監督・制作・編集・音楽のスタッフがいる。通常の商業作品ではいるはずだが今回あえて呼んでないスタッフもいる。それがプロデューサーとヘアメイクと衣装だ。ヘアメイクと衣装はかなり意図的に、お声がけを控えている。プロのヘアメイクさんにも衣装さんにも友達はいるし、声かけたらきっとノリノリで参加してくれるだろう人も知っている。だが、呼んでない。ヘアメイクも衣装も、かなり重要な役作りのプロセスだから俳優自身がやるのがスジだと僕が思っているからである。

例えば時代劇とかSFとか特殊なものや、スクールものでセーラー服が大量に必要、とかは衣装部がいないと無理だ。だが、現代劇なら、俳優が用意すべきではないかと思う。映画産業の分業が進みすぎて、衣装メイク部が俳優の仕事を奪っている側面がある。役者が役について考える際に、とても重要な要素である、服やメイク、髪型などをサボっている俳優はいないだろうか?

こういう考えに至ったのは最近のことである。今年の夏、京都で大作の時代劇映画に制作部として参加していた。有名若手俳優が冷たい井戸の水を頭から被り、気合いを入れるというシーンだった。衣装部から制作部には、お湯を大量に用意せよという要求があった。要するに、俳優にはぬるま湯をかぶってもらって、冷たいという「お芝居」をしてもらおう、という衣装部の気遣いなわけだ。僕は非常に疑問を持った。

それは過剰な気遣いじゃないか? 撮影所だから3分で行けるシャワー室がある。真冬の撮影じゃない。真夏の撮影だ。そもそも気温は高く、水道の水はぬるい。バスローブやバスタオルも完璧に用意してある。冷たい井戸水をかぶって気合いを入れるシーンだぞ? お湯を被るのは芝居を殺さないか? 俳優が要望したわけでもないのに? 木村大作はこういう言葉を残している。「標高3000メートルの本物の山に俳優を連れて行く。それが僕の最大の演出だ。」……もし僕が大作の監督をまかされたら、芝居を殺すような気使いは一切排したい。

ま、しかし、現代の映画づくりにおいて、衣装部が不要だとまでは思っていない。そもそも順撮りではないことが多いので、複数の衣装を管理してもらうだけでも重要な任務だ。ほかにも、俳優とのコミュニケーションを取ったり、ケアをしたりするのも重要な仕事だ。僕が自主映画出身で、自主映画でしか監督したことがないから、衣装は自前、メイクも自前、が当たり前になっているだけかもしれない。ただ、日本映画100年の伝統よりも、僕は僕なりのやりかたで映画を作りたいのである。


7:30~

最初に合流したのは制作部の石塚達也くんだ。株式会社エルエーに所属の若手だ。素直でよく働く青年だ。元警官、元シェフという謎の経歴の持ち主である。10人乗りの車で来てくれた。台本の人数分のプリントを任せた。


7:36~

グループラインにようやくシナリオPDFをのせた。とりあえずタイトルいいすね!という録音部小牧氏のコメントがうれしい。


7:45~

俳優たちが続々と我が家に集合する。先ほどまでの静寂な朝は完全に吹き飛び、ガヤガヤドカドカ賑やかなリビングへと変貌した。俳優に製本したシナリオを直接手渡しする。その際に僕ができることはひとつ。土下座して「すまん、裸になってくれ」と頼み込むことだ(このレポートはときどきフィクションが混じります)。いや、ほんとうに謝りながらシナリオを渡したのですよ。皆ありがたいもんで「喜んで」とか「はい、わたし脱ぎます!」と返してくれたんですけれども、最年長の長崎達也さんだけはマジで裸になるのを嫌がってましたね。


7:55~

衣装合わせって楽しいんですよね。基本的に友達の俳優を呼んでるので、「友人」から「俳優」にモードチェンジするのがまた見てて楽しいわけですね。さて、純白のブリーフに身を包んでもらいました。いちおう脱いでもらって写真も撮りました。よし、大丈夫。笑える。ビジュアルだけで笑える。というかそれしか頼りがない。キャストにシナリオの感想を聞く。面白い、笑えるそうだ。ほんまかいな。この状況では面白いという他ないではないか。今から2時間後は撮影するんだから。面白くなくても面白いと言って撮影に臨まざるを得ないではないか。恐ろしいな48時間映画祭。


8:00~

汁男優役は3人。まずは小坂竜士。今年の夏の京都の現場で出会い、マブダチになった。山口出身のアツい男だ。とにかくデカい。喧嘩っ早い。曲がった事が嫌い。よく飲みよく食べよく喋る。
つぎに、横須賀一巧。ロン毛ヒゲの怪しいビジュアルで、しょっちゅう警察に職務質問されるらしい。昨年作品賞いただいた『ラジオスターの奇跡』でもホームレス役をやってもらった。彼がいなければあの物語は発想しなかっただろう。ENBUゼミナール出身で、『川越街道』という作品に参加していた時に出会った。気も会うし、演技も柔軟でよい。
長崎達也。「魁演塾」というワークショップがあって、そこで出会った面白いおじさんである。とにかく見た目がいい。小細工では作り出せない天然ものの味がある。本業は歌手である。撮影の翌日にはディナーショーで歌うという仕事があるため、なるべく早く帰すため色々気をつかった。演技も味わいがあるが、器用なタイプではないので「飛び道具」として使わしてもらおうと決めていた。飛び道具は失礼か。「コメディリリーフ」として使うつもりだった。なので、セリフはない。大丈夫、よく喋るやつ(小坂と横須賀)を隣に配置しているから、逆に目立つ。年齢はなぜか教えてくれないのだがおそらく僕の父親くらいの年齢(76)だろう。裸にしちゃってすいませんでした。
汁男優3人の衣装合わせは一瞬で終わった。当たり前だ。パンツ一丁だからね。

8:15~

売れっ子イケメンAV男優役・雅マサキ。彼も夏の京都の現場で知り合った。確かまだ23歳と最年少だ。京都では2週間しか一緒にいなかったのだが、過酷な現場だったので、まるで何年も付き合いのある親友のような気分だ。彼はどう思っているか分からんが友情なんて一方通行でよいのだ。実は、雅くんの演技は一切見たことがなかった。夏の京都の現場でも出演していたのだが、撮影場所が狭くて見れなかった。でも、あまり演技力を心配してはいなかった。そもそも僕が演技というものがこうであるという確信がない人間なので、人間性を信用できる人間なら任せても平気なんじゃないかなどと楽天的なのだ。

また師匠の話になって恐縮だが、師匠は「役者の自主性など不要」、「役者は台詞を喋るロボットでよい」という考えの人だった。シナリオライター出身なので、一言一句、アクセントも間もキッチリ指定して喋ってもらうというやり方だ。このやり方は、役者の上手い下手がハッキリ分かる、残酷な手法だ。このやり方を嫌う俳優も多かったし、挑戦しがいのある演技だとノリノリの俳優もいた。僕も師匠に影響されて、役者が台詞を変えることを嫌がっていた時期がある。が、何年か前から演技ワークショップの講師などをやって、即興演技の面白さに目覚めてからは、ストーリーがちゃんと機能する程度の台詞の改変なら、全然OKという感じになってきた。僕のシナリオが下手なぶん、即興や俳優のアイデアで作品が面白くなるということもよくある。

今思うのは、現場にもシナリオにも「余白」が必要だということだ。スタッフやキャストが自分の解釈を持ち込める場所、遊びのあるスペースを設けておく。それが自由な創造につながり、モチベーションアップにもつながるのだ。余白がないと、観客のイマジネーションも花ひらかない。当たり前のことだがシナリオに世界のすべては描けない。たとえ世界のすべてを描きたいと思っていたとしても、お嬢さん、そいつは無理というものだ。

特に48時間映画祭の場合、せいぜい9ページくらいのシナリオになっていないと収まりきらない。理想は7ページのシナリオだ。『裸で汁を出すだけの簡単なお仕事です。』のシナリオは9ページぎちぎち。僕は編集のテンポが早いので、1ページ1分計算ではなく1ページ50秒計算だから8分に収まる、はずだ。


8:30~

衣装合わせは続く。AV女優・カグヤ役、つかさ。若くて可愛い子なんですが、子役出身なのでキャリアはものすごく長い。お母様も業界の人なので、ナチュラルボーン・ギョウカイジンみたいな子だ。彼女との出会いは今回、CNSSというしょうもないグループで監督をやっている牛丸亮という俳優がいて、彼が監督デビューするというので作った『Smile』という作品がある。その映画の主役がつかささんだった。その後、折に触れて会う機会があり、私の本業を手伝ってもらったり、『ラジオスターの奇跡』に出演してもらったりしている。

つかささんは一緒にいて楽しいし、気遣いもできて、仕事もできる。だが彼女は心の奥底にデッカイ空洞が空いている。その空洞を埋めるためにアイドル・AV・酒・映画・演劇などのハードドラッグを大量摂取している。そういう人は消費ではなく、作る人に回るべきだと思っていたら、自らENBUゼミナールの門を叩いて監督コースで勉強している。えらい。人に使われるだけじゃなく自らの魂の表現もちゃんとやっていくべきですね。

看護婦の衣装はすけべ過ぎて局部が見えそうになるらしく、NGでした。サンタ衣装はとても似合っていて可愛い。なぜか自前の高校時代の制服を持ってきてくれたのでそれも着てもらう。う〜ん、可愛らしいけど、エロくはないな……。本物のAVでよく着ている女子高生の制服っぽい服はそれ用にデザインされたものなんだろうなあ。


8:45~

プロデューサー役、柳生はる奈。長崎さんと同様「魁演塾」のワークショップで知り合った。彼女はバンドマンでボーカルをやっている。ハキハキしたお姉ちゃんという感じでとても好感を持った記憶がある。ヒステリックな女の役がよくハマった。年齢はよく知らないが、とても若々しい。自由に生きているからだろう。楽しかったこともムカついたことも怒ったことも、全て話してくれる。感情全オープンな人だ。そういう意味では子供のようなところがあって、感情の導きに忠実なのも役者にとっては重要なところだろう。感情の導きをコントロールできるようになったらより最高だろう。
ヘアメイク役、宮本晴樹。5年前に、師匠の映画の現場に手伝いとして来てくれて知り合った。当時は女子大生だった。元空手部だかなんだかで、腕力があるとのことで結構重い弁当を運んでもらったりした。よくよく聞くとギター弾いたり小説書いたり、演技やったりもして面白い活動を色々しているらしい。実生活でもネットでも非常に饒舌な人で、ものすごく頭がいい。今はシステムエンジニアとして働いている。宮本さんはジェンダーを固定していない人だ。外見は一見、女性のように見えるが、男性的にも見える人だ。心は男性(?)で、ネットで百合小説を発表したりしている。恋愛対象がどっちなのかは知らない。「好きになった人が好き」なので性別は関係ないのかもしれない。

宮本さんと接していると自分の単純なジェンダー観が揺さぶられる気がして刺激的だ。僕は「心と体はひとつ」だと思って生きている。自分の肉体の性と心の性は一致している。だからジェンダーの境界を揺れている人の苦悩は想像もできない。宮本さんに直接聞いたことはないが、複雑な幼少期を送っていて、家族仲も相当悪いようである。宮本さんの人間としての奥行きが、非常な複雑な陰影を帯びている。これは役者をやる上でも、ものを作る上でも、限りなく有利なところなのかもしれない。我々の仕事は、「負を売り」に変えられる希少な職業だからだ。(宮本さんが自分の生い立ちを負だとは思っていない可能性も大いにあるのでこれについては謝るしかありません)

ま、そんなわけで、今回はあえて、「女らしい女」「女を売りにする女」をやってみよう、ということでヘアメイク役をお願いした。そういえば、我々の業界でもヘアメイクさんにはLGBTが多い。


9:00~

橋野純平さんが自車で到着。昨年に引き続き、自分のところの車を出してくれた。本当にありがたい&申し訳ない。橋野純平、通称ハッシーも付き合いが古い。ちょうど10年だ。2009年、村松正浩監督の『兄兄兄妹』という映画の現場で知り合った。あ、これもENBU製作だ。腐れ縁だな〜。ハッシーは若いENBUの生徒のなかでは比較的年上で、みんなのまとめ役を率先してやっていた上、主役だった。大変だったろうと思う。モラルが高くて真っ当な人間を目指しているのに、モテなくて自己評価が低く、ルサンチマンを溜め込んでいて、ろくでもない。

そんなイメージで、卒業後もそういう系の役が多く回ってきていたようだ。いろんな名監督の映画やドラマにしてきた名バイプレイヤーだ。僕も仕事で何度か一緒になった。嬉しいよねえ。昔からの友人に現場で再会すると嬉しいのよ。昨年、『ラジオスターの奇跡』でも主人公の恋人役で出てもらった。今回、満を辞しての主役だ。裸だけど。というか汁男優ってアイデアは、橋野さんが言い出したことなのだ。木島さんが書いた初稿から、橋野さんが主役だったんだよね。木島さんも橋野さんを初対面で、主役張れるタマだと思ったわけだからなかなかのものだ。
俳優は始めるのは簡単だが、続けることは困難な道だ。20人近い『兄兄兄妹』組でも俳優を続けている人間は2人くらいじゃないかな? 大ヒットした『カメラを止めるな!』組でも、10年後も俳優を続けている人間がどれだけいるか分かったもんじゃない。どんなちいさい役でも、続けていることにはダイヤモンドのような価値がある。辞めるなら早いうちがいい、という意見もあって、半分同意するが、辞められると悲しい。僕が関わった映画でも、主演女優が役者やめちゃったって例が4件くらいある。

主役というのは神輿だ。みんなで担ぐ。なるべく多くの人に見てもらうために主役を担いでいろんなところへ行く。祭が終わって神輿から降りて、そのうち祭りという名の役者人生からも降りてしまう人がいる。その人の人生の選択に口は出せないし、責任も取れないし保証もない。クソしょうもない業界だしね。だけど辞めちゃうと悲しいじゃないか。クランクアップの日に、また別の現場で会いましょうね、なんつって握手して別れたじゃないか。悲しいなあ。

というわけで無条件にでも「続けている」人間を僕はリスペクトする。売れてようが売れてなかろうが関係ない。この前テレビで、70歳近いお笑いコンビが掃除のアルバイトしながら芸人続けているってドキュメントがあって、号泣しちしまった。マジでカッコいい。


10:00~

衣装合わせが終わったんで、軽くホン読みをする。よし、おもしろい。ケミストリーが出来てる。だいぶ不安がなくなった。あとは撮影するだけだ。だが、地獄はまだ始まったばかりだった。

 


【予告】裸で汁を出すだけの簡単なお仕事です。/Tokyo 48hfp 2019

 

裸の男たちを撮るだけの簡単な48時間です。その① - FilmMaker Ishikawa Shingo

裸の男たちを撮るだけの簡単な48時間です。その② - FilmMaker Ishikawa Shingo

裸の男たちを撮るだけの簡単な48時間です。その③完結編 - FilmMaker Ishikawa Shingo

 

2018年を映画などでふりかえる

お題「2018年を振り返る」

2018年映画ランキング

劇場で観た新作でドスンときたのがあまりなく、DVDなどで観た旧作込みでランキングに。

  1. シェイプ・オブ・ウォーター
  2. スリー・ビルボード
  3. フライト
  4. ザ・プレデター
  5. サニー強い気持ち・強い愛
  6. 恋の渦
  7. 勝手にふるえてろ
  8. タクシー運転手
  9. 万引き家族



ワースト

  1. カメラを止めるな!
  2. ボヘミアンラプソディー

ゾンビ映画じゃねえし。ドラマなさすぎるし。

参加させてもらった映画

  • 鈴木家の嘘

suzukikenouso.com

irene-movie.jp

参加作をランキング入れるのはやめました。
トップ1、2になっちゃうから・・・
アイリーン、鈴木家ともにDITとして参加。

鈴木家の嘘は本当に誇りに思う作品。いいホンにいい俳優を入れるとこんなにいい映画になるのか、と。賞レースも賑わせて、いい出会いもたっぷりありました。感謝。

ラジオスターの奇跡

f:id:dptz:20181231104823j:plain
ラジオスターの奇跡
48時間以内にシナリオ書いて撮影して編集するという、鬼のような映画祭。ありがたくも東京グランプリをいただきました。
48 Hour Film Project 2018 tokyo 作品賞、音楽賞、観客賞3位。13年ほど映像やってきて、初めて賞をもらいました。なんと音楽賞・・・。来年3月にアメリカの映画祭で上映、優秀作はカンヌで上映されます。Filmapalooza 2019 @ Orlando , Florida , USA
とてもいい出会いのあった作品になりました。人生が激変したとも思う・・・。



48 Hour Film Project 2018 東京グランプリ 【予告】ラジオスターの奇跡


感銘を受けた本

サピエンス全史

サピエンス全史 上下合本版 文明の構造と人類の幸福

サピエンス全史 上下合本版 文明の構造と人類の幸福

知の枠組みをブルブルと拡張された本。

クリアな未来予測に興奮し絶望した

RIP

時代の移り変わりをひしひし感じる。

お仕事

ハッキングキャット
https://www.techdevicetv.com/securitymoviearchive/

情シスの新たな役割
https://www.techdevicetv.com/ch_workstyle/

高校生たちが挑む、VR開発
https://www.techdevicetv.com/hsvr01/

明星/Akeboshi MV 点と線 『鈴木家の嘘』主題歌

明星/Akeboshi - ''点と線'' 〜映画「鈴木家の嘘」主題歌〜

今年買ったもの

Tangent Ripple(カラーグレーディングコントローラー)

X-rite (エックスライト) ColorChecker Video


ZOOM ズーム リニアPCM/ICハンディレコーダー  H6

ZOOM ズーム リニアPCM/ICハンディレコーダー H6

グレーディング用品多し。

Samsung SSD T5がとにかく素晴らしい。HDDの5倍高いが5倍早く、1/5コンパクト、頑丈。どこへ行くのにも持っていける。4K編集も問題なし。

サヨナラだけが人生だ

いい出会いもあれば、別れもたくさんある一年でした。サヨナラだけが人生ですね。ほんまにもう。

今週のお題「2019年の抱負」

来年は自分が自由にものを作り、生活をして行くための仕組みを作りたいと思います。新たなパートナーとともに。。。今年の後半くらいから少しづつ勉強しています。来年も準備になるでしょう。そして、商業映画デビュー作の撮影が秋になるかも。大好きな作家の原作。やります。

2017年を映画などでふりかえる

スター・ウォーズ 最後のジェダイ

f:id:dptz:20171231194128j:plain

 

スター・ウォーズ 最後のジェダイ』が今年のナンバーワンフィルムでした。血統主義からスターウォーズを解放した。名もなき人々がヒーロー/ヒロインになる。旧作へのアンチテーゼ。聖書は燃やせ!私たちが新しい世代だ!荒唐無稽さがウリの作品にプロットの不備をあげつらってもしょうがないと思うんだ。ポーグかわいい。

 

 

 

2017年映画ランキング

  1. スター・ウォーズ 最後のジェダイ
  2. ニッポン国 VS 泉南石綿
  3. エル/ELLE
  4. ブレードランナー2049
  5. ゴッホ 最後の手紙
  6. ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー Remix
  7. メッセージ
  8. 新感染 ファイナルエクスプレス
  9. キングコング 髑髏島の巨神
  10. 沈黙
  11. ベイビードライバー
  12. アウトレイジ最終章
  13. あゝ、荒野
  14. オクジャ
  15. コクソン
  16. マッドマックス 怒りのデスロード ~ブラック・アンド・クローム・エディション~
  17. チャウ・シンチーの人魚姫
  18. ハクソー・リッジ
  19. トレインスポッティング
  20. エイリアン・コヴェナント
  21. 猿の惑星 聖戦記
  22. バンコクナイツ

 

『ニッポン国 VS 泉南石綿村』日本人よもっと怒れと焚きつける、原一男監督の215分、撮影8年、編集4年の渾身作!!!裁判でどんどん死んでいく被害者たちの鎮魂歌。

『エル』強烈な女の強烈な映画。エロとバカと変態しか出てこない。

ブレードランナー2049ロジャー・ディーキンスの贅沢な絵画タッチ。ジョイちゃんの可愛さ!

ゴッホ 最後の手紙』世界中から集めた120人のアーティストでゴッホタッチで描かれたた脅威の62000枚の油絵アニメーション!貧乏と絶望のまま死んだゴッホの、芸術の勝利に涙が止まらない。

 

 

 

ワースト
  1. ダンケルク
  2. はらはらなのか。
  3. ラ・ラ・ランド

 

ダンケルク』は本物の戦闘機を用意したりリアルを徹底しているようで、編集で大嘘をついているのでまったく誠実な作りではない。『ゼロ・グラビティ』『マッドマックス 怒りのデスロード』『シン・ゴジラ』に続く「体感」型映画だが、『ダンケルク』は詐欺でプロバガンダ。悪質だと思った。

 

旧作ベスト

 

ようやく観れた『クーリンチェ』。台湾という国家の光と影。懐中電灯を持ち続けるのをやめてはいけない、ということなのなのだろう。照らしていないと、闇に飲まれる。これぞ映画、という映画だった。

イギリス滞在中に観た『ターミネーター2』は、公開時私は小学二年生。今観ると、疑似家族の話に強烈なアクションを足した作品だということが分かる。敵役の設定もすばらしい。機械に人間性を教えるエドワード・ファーロング。涙。もう最高。

 

 

今年やった仕事

 

撮影部として
  • 林組『赤シャツの逆襲』 (南海放送
  • 頼朝の窟


頼朝の窟~The Cave of Yoritomo 2017~

制作部として
編集部として
  • 吉岡組『伝承』
  • reinvent the way you work - 北陸銀行


reinvent the way you work - 北陸銀行様編

 

録音部として
  • 加賀賢三組
  • HP Project Mars

HP Mars Home Planet | 日本HP

 

 

エキストラとして参加
  • あきら組
  • あすか組
  • 浜崎組

 

登った山

 

買って良かったもの

f:id:dptz:20171214194550j:plain
 

行った国
  • イギリス
  • オランダ

f:id:dptz:20171028180641j:plain

 


 

旨かったもの
  • 福岡「志ら石」のふぐ

    f:id:dptz:20171128193853j:plain

 

来年の抱負

来年は商業映画監督デビューできるかどうかがかかる、勝負の一年になりそうです。頑張るぞ〜!!

 

2016年を映画などでふりかえる

新作ベスト

  1. この世界の片隅に
  2. 淵に立つ
  3. 無垢の祈り
  4. クリーピー 偽りの隣人
  5. FAKE
  6. 退屈な日々にさようならを
  7. SCOOP!
  8. シン・ゴジラ
  9. 川越街道
  10. リリカルスクール未知との遭遇

とにかく『この世界の片隅に』に尽きる1年だった。初日に観て翌日に観て、計4回観たし広島と呉に聖地巡礼してしまった。何回観ても泣く。サントラとパンフと原作買い直しもした。ただこの作品の真の原作は戦争および近現代史である。私が非常に弱い分野でもある。この映画を観て、映画というものは大なり小なり何らかの歴史(=世界)と関わっていなければ駄作になる、というか作る意味がない。とまで思うようになった。表現とは、何か太いもの(歴史、世界)に繋がっていなければいけない。それが民衆の支持を集める(クラウドファンディング)し、興行成績に繋がる。
そしてこのベストテンランキング、何とすべて邦画!本当に邦画黄金時代なのかもしれない。無垢の祈り、川越街道、リリカルスクール未知との遭遇、ハルをさがして は私がスタッフであるが、劇場で観た印象でフラットに順位を付けた(つもり)。邦画当たり年に少しは貢献できたであろうか。洋画ではローグ・ワン、ザ・ウォーク、オデッセイ、など忘れ難いタイトルもあった。

 

ワースト

  1. エヴェレスト 神々の山嶺
  2. 君の名は。
  3. ヒメアノ〜ル

君の名は。は楽しめたのだが根本的な運命の人は必ずどこかにいるという思想が気持ち悪い。200億越えの大ヒットか知らんが、教育上悪いと思うよ。
ヒメアノ〜ルサイコパスに生まれて殺人を犯さざるを得ない人間の悲しみを描いた原作から、いじめられヤケになり人を殺してまった人間というように改変されている。ストーリーやキャラは原作にかなり忠実なだけ、根本的な世界観の変更に僕はかなり不満が残った。ヒミズにせよ古谷実漫画はどうも根本的なエッセンスを読めてない人間にばかり映画化される気がする。
エヴェレストの漫画も原作も非常に素晴らしいのにどうしてこんなに金かけてこんなしょうもない出来のものが出来るんだ全く。山の鬼のような男に感化されてエヴェレストの頂点を踏む男の話なのに、山頂目指さなくなるストーリーなんてあり得るかいっ!下手なシナリオにミスキャスト、too muchな音楽とすべてが空回り。

 

ポスト真実の中でナラティブに生きる

今年春に長年私を悩ませてきた病名が診断された。自分が分かったし、生まれ変わったようだった。夏は富士山の山小屋でバイトをした。楽しかったし、色々見えるようになった。金を使わなかったおかげでマックが買えた。オリンピックがあって、SMAPが解散し、こち亀が連載終了した。ブレグジットが起こって世界経済がピンチになってトランプ大統領が誕生し、韓国では民衆のクレームで大統領が弾劾された。

ポピュリズムの世紀だ。「ポストモダン」ならぬ「ポスト真実」という呼び方もあるようだ。ますます世界が不明瞭に複雑になっていく中で、個人はできるだけ感情に流されずに複雑さに耐えて行かねばならない。その中で、個人の価値観はシンプルにミニマムな方が良いと思う。シンプルに複雑な世界を腑分けする。ツールはなるべくシンプルに。映画が与える感情の波と、ナラティブがあなたの世界の見通しをなるべくクリアにしてくれることを願う。

『川越街道』K's cinema上映に寄せて

f:id:dptz:20161023185006j:plain

 

 

本日より私がラインプロデューサーを務めました映画『川越街道』がで公開となります。ただ、愛されたい人々の群像ロードムービーです。連日18:35、新宿K's cinemaにて五日間限定の公開です。ぜひご来場ください。

 


岡太地監督『川越街道』 特報

なぜ今回の作品に参加したのか

『川越街道』の監督である岡太地は10年来の友人で、2005年のPFFで出会った。以来、互いの現場を手伝いあったり、仕事を振り合ったり、酒を飲んだりしている。そんな彼が10年ぶりに長編映画をやるというので手伝ってくれと頼まれたら断るわけにはいかない。どんな役職でかかわるかはその時点では決まっていなかった。

 

ラインプロデューサー

けっきょく僕がやったのは予算とスケジュールの管理がメインで、プロデューサーの補佐であり現場担当のラインプロデューサーという役職。制作部演出部より立場が上。5月に川越市や街道沿いをシナハンし、プロット作成にかかってきたあたりで僕は予算とスケジュールを管理しないといけないなと思うようになる。プロット作成は難航し、シナリオ執筆はさらに難航した。僕は7,8月は富士山の山小屋で働いていたので高度3000メートルで初稿を読んだ。この予算で撮れるわけがない。

 

ワークショップ映画とクラウドファンディング

ENBUゼミナール主催シネマプロジェクトに参加する俳優は、一定金額をENBUにおさめる。合計24人。岡組に割り振られたのは12人の俳優(の卵といっても失礼ではるまい)と、○○万円の制作費であった。映画製作でコストカットするのは非常に簡単で、ハコと出演者を減らせばよいのだ。場所(ハコ)は増えれば増えるだけ、交渉の手間、移動の手間、金額の多寡が増大し、仕事量を増やし、予算を圧迫する。『川越街道』はロードムービーのため、ハコも登場人物も膨大なシナリオになっていた。なるべく味をそこなわぬよう、そしてメインプロットを骨太にするように改稿していってもらった。それでも予算は足りない。そこでクラウドファンディングのMotion Galleryで小口出資を募り、50名、約80万円の支援金が集まった。

 

撮影開始、でも予算もスケジュールも超過する

 撮影は楽しかった。順調だった。がしかし予算もスケジュールも超過した。ポストプロダクションも順調にいき、いい映画になった。初号のスタッフキャストの素直な反応で手ごたえを感じた。ただ、私の仕事ぶりは落第だった。今日、劇場の扉が開く。これで観客からの反応が悪かったらかなりつらいなあ。ほぼ初めてのスタッフ、キャスト、映画業界の大先輩たちと絡めた。人間関係的にはいろいろ得るものがあったけど失うものもあったなあ・・・(自腹いっぱい切っちゃったし)楽しかったなあ。また映画やりたいなあ。皆さんが観てくれると次につながるのかもしれません。

「映画は、スクリーンと観客のあいだに現れる幻のような芸術である。観客が観なければ完成とは言えない」

 

川越街道 : 作品情報 - 映画.com

解説

ぴあフィルムフェスティバル2005で準グランプリを受賞した「トロイの欲情」などで知られる岡太地監督が手がけた長編作品で、40歳の引きこもり男が、母親を探して埼玉県川越市から東京池袋を結ぶ川越街道を旅し、その過程で様々な人と出会う様を描いた。川越市の一軒家で引きこもり生活を続け、酒とゲームに溺れていた40歳のサトシ。しかし、ある日、ずっと面倒を見てくれていた母親が家出してしまったことから、サトシは母の足取りを追って外の世界に足を踏み出す。埼玉県川越市から東京の池袋まで続く道を進むサトシは、怯えながらも様々な人との出会いを繰り返していく。映画専門学校「ENBUゼミナール」のワークショップ「シネマプロジェクト」の第6弾作品として製作された。

シネマプロジェクト第6弾 | ケイズシネマ

 

CINEMA PROJECT | ENBUゼミナールによる劇場映画製作俳優ワークショップ企画

 

ただ、愛されたい。
10年引きこもっていた40歳のサトシの面倒を見てくれていた母親が、突然家出した。その足取りを追って、埼玉県川越市から東京の池袋まで続く道を進む彼は、怯えながらも他人との出会いを繰り返していく。
倉庫で働き始めた園子は男に踏みにじられるが、ある女性に出会い、救いを求める。騒音を立てるアクション女優と小説書きの男は狭いアパートで愛しあい続ける。サトシが立ち寄るバイク店にいる店主と店員はお互いに言いたいことを言えない様子。生きる意味を語る池袋詩人とその恋人。そして旧知の男を見かけたサトシは、その男の背中を追っていく。

監督・脚本・編集:岡 太地
出演:金子岳憲 小西 麗 末延ゆうひ 金田侑生 古賀勇希 さほ 川島信義 南部映次 青坂 匡 小畑はづき 桑名 悠 笹原万容 横須賀一巧 川瀬陽太
撮影:平野晋吾|照明:小川大介|録音:岸川達也|スタイリスト:藪野麻矢|ヘアメイク:須見有樹子|助監督:平波 亘|制作:猫目はち|音楽:小野川浩幸|ラインプロデューサー:石川真吾|プロデューサー:市橋浩治|企画・製作:ENBUゼミナール
107min|カラー|スタンダード|Blu-ray|2016

≪シネマプロジェクト第6弾・イベント上映≫

【上映日】2016年11月26日(土)~30日(水) 合計5日間
【上映時間】18:35~
【上映劇場】新宿K’s cinema
【料金】一般¥1,500 前売・学生¥1,200 シニア¥1,000 リピーター割引¥1,000

kawagoe_013

kawagoe_003

kawagoe_014

kawagoe_006

 
 

 

 

 

 

 

『ハルをさがして』公開に寄せて

本日8月6日より、私が編集と宣伝デザインを担当させてもらった自主映画『ハルをさがして』が公開されます。下北沢トリウッドで1日3回上映です。下北沢トリウッドといえば、自主映画の公開に寛容な劇場のはしりではないでしょうか。10年前、私が監督した『カササギの食卓』という自主映画の公開イベントをやらせてもらったのも下北沢トリウッドでした。

f:id:dptz:20160806030642j:image

『ハルをさがして』は福島版『スタンド・バイ・ミー』を目指して作られました。登場人物は男4人ではなく、男3人と女1人にアレンジされています。ヒロインへの恋心が男子中学生3人たちを動かし旅に誘います。『スタンド・バイ・ミー』は死体を探す話でしたが、『ハルをさがして』で中学生たちが探すのは、2012年の福島県の帰還困難区域に残された犬の「ハル」です。ハルをさがすうちに中学生たちはさまざまな「震災と死」に出会い、成長していきます。
 
ヒロインを演じた佐藤菜月さんはほぼ映画初出演ながら、繊細な役を堂々と演じきっています。今後の活躍が期待される期待の新人です。とても可愛らしい女優さんです。私は撮影現場に行っておりませんが、演技の面でも見違えるほどの成長があったと聞いております。
 
脚本・監督は私と同世代の尾関玄、その同級生のプロデューサーが内藤諭、この2人が中心となったISHIOが製作しました。私は尾関監督と商業映画の現場で出会っており、プロデューサーの内藤さんとは尾関監督が前回監督した短編映画の現場で出会いました。公私ともに世話になっている友人たちであり、たいせつな仲間たちです。
 
撮影は2014年の夏に都内と福島県いわき市、小野町で行われました。9月より尾関監督の母の家に編集室を作り、編集作業が行われました。年内いっぱいまで編集作業は進められ、ピクチャーロックとなりました。
 
監督がテーマソングとして考えていたのが甲本ヒロトさんの未発表曲「呼んでくれ」でした。郷愁を誘うピアノリフ、シンプルで味わい深いロックンロール、映画の内容にピッタリな歌詞が、この映画の方向性を決定付けました。音楽の使用許可を得る前に、映像と音楽がピッタリとシンクロするように編集を固めました。事務所からの使用許可が出なければこの映画はまったく別のものになっていたことでしょう。
 
f:id:dptz:20160806030652j:image
2015年頭にダビングを経て完成。渋谷にて初号試写。コワモテなラインプロデューサーとして活躍する尾関監督のピュアな青春映画に共感と感動の声が集まりました。その後、映画のロケ地である福島県小野町での一般向けの上映、中学生向けの上映、いわきPITでの有料公開などを経て、本日8/6よりとうとう東京上映となりました。
 
忘れられない感想の声があります。
 
私は津波を経験したことがないけれど、津波が人の心を持っていくことが分かりました。○○ちゃん、どこにいったのかなあ。
 
福島県出身でもない尾関監督がなぜ、ドキュメンタリーではなくフィクションで震災後の福島を舞台に青春映画を作ったのか?津波原発事故でコナゴナになった世界をどう生き抜くのか?少年たちの「選択」をどうぞ劇場で体感してください。
 
 
 
キャスト
小柴大河
佐藤菜月
小泉凱
小沢仁志
才藤了介
井上珠里
齋藤あきら
武藤令子
川崎裕子
蛭田智道
牧純矢
桜あん
 
監督 脚本 尾関玄
プロデューサー 内藤諭
撮影 栗田東治郎
録音 小牧将人
編集石川真吾
主題歌 甲本ヒロト「呼んでくれ」
衣装Ka na ta
ヘアメイク 松本智菜美
スチール 河内純子
助監督 佐藤純
制作担当 今井尚道 
 
©2015 ISHIO  93分
 
 
下北沢トリウッド
2016年8月6日(土) 〜 8/26(金)
タイムテーブル 12:30 / 14:30 / 18:30
入場料金 一般: 1600円 大学 • 専門: 1300円
シニア: 1100円 高校以下 • 障害者:1000円
前売り券 1300円
火曜定休
 
f:id:dptz:20160806025325p:image